049.ブラック・タンバリン
時間置き過ぎたのでちょっとリハビリで短いです。すいません。
「ジュードさん、ジュードさん」
「……ん?」
肩を軽く叩かれ、ジュードは静かに目を覚ます。ぼやけた視界の真ん中には、もうすっかり見慣れた娘の顔。ジュードは溜め息をつくと、サリッサを押し退けるようにして起き上がった。
「朝っぱらから煩い奴だな、お前は」
「何て言ったっていいですよ。ジュードさん、あれを見てください」
サリッサは外套に隠した手で街道の方角を指差す。つられてジュードが見ると、修道服の上から鎧をまとい、馬に跨る奇妙ななりの集団がぞろぞろと街道を都の方角へ駆け上っていくところが見えた。先陣を切っていくは狼のような顔立ちの女。
「ん、どうしたんですか、お二人とも……って、うわわわ」
二人に釣られて目を覚ましたフランは、隊列を見るなり顔色を変えてジュードとサリッサの背後に隠れた。いつでもどこでも自分を保つ彼女の意外な一面に、サリッサは思わず目を丸くする。
「どうしたんですか、フランさん」
「え、エンゲル修道会……あれは、ちょっと私苦手なんですよぉ……」
「苦手って……一体何が」
「先陣を切る女修道院長が苦手なんだそうだ。一度こっぴどくやられているからな」
ジュードが小馬鹿にしたような笑みを浮かべて答えてやる。フランは何度も首を振ると、子どものようにむくれた面でぼそぼそと呟いた。
「本当に勘弁です……神のために尽くせなんてお説教して追っかけてくるんですから……私はそういうの、性に合わないのに」
「でしょうね……」
「と、ともかく! エンゲル聖弓兵団が北上しているという事は北で何かがあるという事ですよ」
「軍略など習っていないからわからんが……あの行軍速度を見る限り、あと一週間もすればいつかの村に辿りつくだろうな」
カタリナ率いる聖弓兵団は河原の側に座り込む旅人達には目もくれず、ぱかぱかと北上し、そのまま行ってしまった。その背中を見送り、フランはほんのわずかに真面目な顔をする。
「エンゲル聖弓兵団は守りの要。あの人がわざわざ先頭切って進軍するという事は、北の方で何か騒乱が起き始めたって事なんでしょうね」
「……」
ジュードは懐から煙草を取り出し火を点ける。地平線の彼方に兵団が消えるまで、彼はその姿をずっと見つめ続けていた。