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PINKERTON:魔と成り魔を討つ銀の弾丸  作者: 影絵企鵝
Part2ex.ビレッジマンズストア
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041.ユーレイ

 構えを取ったフェルディナントに向かって、闇が形を取った巨大な牙が襲いかかる。フェルディナントは手刀を上から下に振り下ろし、獣の口蓋を木っ端微塵に打ち砕く。

 その背後から、これもまた闇で出来た鋭い猛禽の爪が襲いかかる。ローブに触れるか触れないかのところで、フェルディナントは身を翻し裏拳を見舞う。

 その足元から丸太のように太い大蛇が襲いかかる。フェルディナントは片足でその頭を押さえつけ、拳を唸らせて虫けらのように叩き潰した。

 息をつく間もない。頭上に気配を感じれば、巨人の腕がフェルディナントを叩き潰さんと振り上げられていた。

 舌打ちし、低く唸り声を吐き出すと、フェルディナントの肉体は一際強く盛り上がる。そこから放たれた突き上げは、巨人の腕とぶつかり合って黒白入り混じる波動を生み出した。波動を浴びた闇の霧は甲高い金切音を立てながら、一瞬にして吹き飛んだ。

 夜の透き通った暗がりが取り戻されたかに見えた瞬間、空から一塊の闇が降る。三対の翼を広げた闇が降ってくる。赤黒の瞳を輝かせた闇が降ってきた。


「心せよ!盲信と背信は紙一重なり!」


 闇は叫び、剣のような形を取った闇をフェルディナントに向かって叩きつけた。フェルディナントは交差させた腕でそれを受け止めるが、セスタスにその切っ先が喰い込む。目を剥いたフェルディナントは、慌てて飛び退きそれを躱した。闇はそれを見ると、ふわりと間合いを取ってサリッサの隣に降り立つ。闇はやがて流れ落ち、中から勝ち誇ったような笑みを浮かべるジュードが現れた。


「さあ、まだやるつもりか」

「貴様は……貴様は一体何まで取り込んでその身を繕っている」


 フェルディナントは相変わらず拳を構えたままだが、そこから一歩も動こうとしない。ただ驚きにその目を見開いていた。ジュードは拳銃をサリッサからさらりと奪い取ると、真っ直ぐに銃口を突き出す。得意満面に歯を見せて。


「地獄の涯まで」


「……なるほど。魔において魔に非ず、法において法に非ず。……そういう事か」


 フェルディナントは独り言のように呟くと、ローブの裾を翻して構えを解く。真っ直ぐに成立したまま、じっとジュードの顔を見つめた。その顔から怒りの色は去り、ただただ神妙な顔をしている。


「無茶苦茶だ、貴様のような者は十重二十重に無茶苦茶だ。やはり、貴様は滅びなければならぬ。……だが、今では無い。そもそも、今貴様を滅ぼすのは不可能であろうな。この私如きの法力では、貴様を抑える事など叶わぬ」

「そうだ。そういう事だ。わかったらとっとと退け。私は速やかにこの地を離れる。それから、この地を煮るなり焼くなり好きにすればいいだろう」

「向かう先は」

「クランズマンのいる地なら、いずこにも向かう」


 ジュードが拳銃を収めながら、その眼に僅かな狂気を孕ませる。復讐に心を縛り付けられた悲しい眼をする。その目を真っ直ぐに捉えたフェルディナントは、憤懣やるかたない表情で、ジュードの佇まいを上から下まで見渡し呟く。


「この地に蔓延る狂信者か。いいだろう。神に叛きし罪人を罰する地獄の使者に対する礼節として、この場はお前を見逃す。だが、さっさとしろ。さっさとこの地に蔓延る罪人を抱え込んで、とっとと地獄に引っ込め。でなくば、次こそは、全身全霊を以て、私が直々に地獄へと送り返させてもらうぞ」

「どうぞ、勝手に」


 ジュードの淡々とした返事を聞き遂げると、フェルディナントは歩き出した。そのままジュード達の横をすれ違い、丘を下っていく。その背中は神を守る誠実な獅子の如く堂々としていた。

 その背中を見送ったサリッサは、ついに緊張の糸がほどけてへなへなとその場に崩れ落ちる。


「た、助かった……」

「お前はばかだな。お前の助けなど無くとも、別にどうとでもなったというのに」


 ジュードは呆れたように溜め息をついて、サリッサの脇に腕を差し入れ無理やり立たせる。小馬鹿にした顔で見つめられ、サリッサは頬を真っ赤にして目を逸らす。


「そんな事言われても、身体が勝手に動いてしまって……」

「本当にばかだ。私が知っている一番のばか並みにばかだ。危なっかしい奴だ。見ているこっちがひやひやする。心根が強くとも、それに見合った力が無くては返り討ちだぞ。お前は遠くから無駄口叩いていればいいんだ。拳銃取って敵に向けたりする必要はない」

「は、はぁ……」


 矢継ぎ早に放たれる言葉に押されて、サリッサは困ったようにおずおずと頷く。その表情を一通り見つめたジュードは、肩を落としてサリッサを突き放す。


「どうせまたやるんだろうがな。だからばかなんだが」

「ばかばかばかばか言わないでくださいよ……」

「いいじゃないですかぁ。それだけジュードが貴方に入れ込んでる証だと思いますよぉ」


 臨戦態勢を解いて、フランはゆらゆらと二人に歩み寄ってくる。すっかり口調もおっとりしたものに戻っていた。ジュードはそんな俗っぽい女法術師をじろりと一瞥し、舌打ちする。


「お前もお前で馬鹿だがな」

「褒め言葉だと受け取っておきますね」

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