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014.fall of the magic kingdum

「お、おい! あれを見ろ!」


 カメーリエ城。城壁の上で遠眼鏡を覗いていた兵士が、いきなり真っ青になって隣の兵士を引っ掴んだ。パイプをふかしていたその兵士は、あまりの勢いに思わずそれを取り落としてしまう。不機嫌になった中年兵士は、遠眼鏡を握りしめる若年兵士の頭を鋭くひっぱたいた。


「何だてめえ。いきなりうるせえぞ!」

「イタっ! ちょっと、そんなことしてる場合じゃねえ! あれを見ろ! あれ!」

「あん?」


 しかし丸い眼の若い兵士はめげずに地平線の彼方を指差し続ける。髭面の男はようやく遠眼鏡を奪い取り、じっと青年が指差す先を見つめた。

 農園を割って、一つの影が突風の勢いで押し寄せてくる。象のような巨体。狼の三つ首。蛇の鬣。竜のような尾。その上に跨る、右腕を闇に包んだ黒い外套の男。

 魔を使役する一人の男。人間を木っ端微塵に吹き飛ばす銃を持つ一人の男。そんな男が地獄の番犬を手懐け、鬼畜のような笑みを浮かべて、城壁に真っ直ぐ突っ込んでくる。


「で、でで、出たぁっ!」


 中年兵士はすぐに腰が砕け、泡を吹いて倒れてしまった。若い方は唖然として、倒れた兵士に覆い被さるようにしてその頬を何度も叩く。


「何してんだよオッサン! オッサンのくせに! 泡吹いてひっくり返ってたら世話ねえだろうが!」

「バケモノ……黒い外套の男……」

「あああっ! もうっ!」


 白目を剥いてうわごとのように呟き続ける中年。そんな事をしている間に、二人に濃い影がさっとかかる。恐る恐る若い兵士が振り向くと、塀の上には目を開き、舌出してハアハア言っている三つ首の怪物。その上に跨って笑みを引きつらせる一人の娘と、にやりと笑う黒い外套の男がいた。


「お、お邪魔します……」

「バリケードや塀は、そこにあるだけでは意味がない。それを守る人間がいて初めて意味を持つ。そっくり返ってる場合じゃない。敵が目の前に居るぞ? 武器が其処にあるぞ?」

「ひ、ひいい……」


 ジュードが歯を剥き出して煽るが、兵士は武器も取らずに震えるばかりであった。そんな彼らを見ると、呆れたように肩を竦める。


「賢明だな。俺の知る人間は、鎧も無し武器も無し、ただの鉄棒一本角材一本握りしめて殴りかかってくるような奴らばかりだったが。そうして無碍に叩きのめされるよりはよほど賢明だ」


「奴だ! 奴だ!」

「これ以上街に入れさせるな!」


 街中から声がして、弓やマスケット銃を担ぐ兵、十字を切った鉄の盾を構える兵、長槍を持つ兵が本城へ続く大通りに集まってくる。彼らは隊列を組み、塀の上に立つケルベロスに狙いを定める。ぴたりと狙いを定める弓兵銃兵を見下ろし、サリッサは青褪める。


「や、やっぱり強引過ぎませんでしたか!」

「ならば付いて来なければ良かっただろう。銃弾の中駆け回るなんて日常茶飯事だ。この程度の事でうろたえてる場合じゃないぞ」

「はい……」


 目を潤ませながらサリッサは俯く。ジュードは飛んできた矢を盾のように形を変じた右腕で受け止め、踵でケルベロスの腹を叩いた。


「付いてくると決めたなら、このくらいの脅威は楽しむ余裕を持つことだ!」


 ケルベロスは壁も揺るがす咆哮を上げ、一気に飛び出した。兵士が慌てる間に、ケルベロスは三角屋根から三角屋根へと身軽に飛び回っていく。

 再び風のように駆けるケルベロスに、兵士達は慌ただしく弓射て鉄砲を撃ちかけるが、明後日の方向へ飛んでいくばかりだ。


「い、いかん! 追え! 奴の狙いは王城だ!」


 兵士達は隊列を崩し、どうにか追いかけようとする。しかし既に、ケルベロスは彼らが守るべき本城に辿りつこうとしていた。




「チャールズ殿。かの男が迫っている」


 血塗りの三角の頂点に座り、中心に描かれた瞳を見つめる白いローブの男がぽつりと呟く。その顔は三角頭巾に覆われ、相変わらずその容貌を窺い知ることは出来ない。チャールズと呼ばれた、金の十字をローブに刻んだクランズマンは昏い天井を仰ぐ。


「地獄から這い出した哀れな悪鬼よ。神を嘲り、天使を貶める愚か者」


 長い息を吐き、彼は十字架を握りしめて首を垂れる。


「哀れだ。天にも昇れず、地にも泥めぬ哀れな魂。一片の欠片も残さず消滅させるが、我々にしてやれるせめてもの情けというもの」

「チャールズ殿。自由の天使が間もなく光来します」

「ならばこのまま進める。彼らに力を尽くしてもらうとしよう。決して神には逆らわぬ、忠実なる僕に」




「……ひどい」


 薄暗闇の城内に降り立ったサリッサは、開口一番呟いた。彼女の目に飛び込んだのは、剣を槍を携えて立つ兵士達。その誰もが血みどろで、腕がもぎ取られたり、足があらぬ方向に曲がったりしている。心臓を抉られている者さえいた。

 彼らは言葉にならぬ唸り声をあげ、のろのろと二人を取り囲んでいく。その脳天には、全員金の十字架が突き刺さっていた。


「ふふ……ふははははっ! 相変わらずだ。相変わらずのくそったれだ。クランズマンどもめ」


 ジュードは怒りに目を剥き、二丁の拳銃を静かに抜き放つ。


「やはり貴様らは潰す。この世に細胞の一片も、残しはしない!」


 轟音と共に、暗闇を切り裂く閃光が飛び出した。

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7.ゾンビ

ハーバート・ウェスト医師による血塗れの所業によって完成した生ける屍。プロフェティア達はこの技術を何らかの方法で手に入れ、アレンジメントを加えることで自分たちの意のままに操ることのできる技とした。

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