表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

011.HORRORS OF THE NIGHT

「逝った。ベルドットが」


 暗闇の中、目だけを空けた三角フードを被った白装束の三人はぽつりと呟いた。大理石の床に刻まれた正三角形の頂点に座り、中心に血で描かれた一つの巨大な目を見つめていた。描かれた目は、時折ぐちゃぐちゃと揺れ動き、瞬きを繰り返している。


「天上へ召された。最後の審判の日、彼は神の使徒としてこの地へ還るだろう」

「我々もだ。地にいる間は神の意志の地上代行者としてこの地に審判を下す。この地を灰塵と帰す。しかる後、千年王国を実現する」

「しかし、死を迎えて天へと昇りなば、即ち神の御使として喇叭を携え、ヴァルプルギスの夜を裁きの光を以て切り裂く為の使徒となるべし」


 三人はゆらりと立ち上がり、涯の見えない闇へと向かってその手を真っ直ぐに伸ばした。鈍く空気が震え、壁が軋み、竜の唸り声のように低い音が轟き始める。


「我ら円環なり。我ら同胞なり。我ら騎士なり。神により下されし者の末裔にして、神により下されし命の遂行者なり」

「此岸に平和を。彼岸に平和を」




「何が壊滅した、だ! 貴様らの力で容易くアイヒェを滅ぼす事が出来るのではなかったのか!」


 豪奢な椅子に坐し、白髪が混じる壮年の男が肘置きを何度も叩いて叫ぶ。鷲鼻の目立つその顔は、赤カブのようになっていた。しかし三人の白装束はさして動じる様子も見せず、赤絨毯の上に並んで佇み男を見上げていた。


「貴殿の前に、いきなりベルドットが二十の従僕を喚び出したとして、それに貴殿の軍が刃向かえるというのなら、その神をも恐れぬ物言いを受け入れよう」

「何……?」

「だが不可能に決まっている。所詮はアイヒェと大同小異の軍容、我らを征するなど出来ようはずもない。貴様は我らに服従し、神に仕えられる事に感涙して地べたに這いずりこそすれ、居丈高に我らを支配するかのような物言いをする事は決して許されない」


 白装束達の言葉に、カメーリエ伯は歯ぎしりする。

 最後の審判がどうの、千年世界がどうのと、息をするように訳のわからない言葉を彼らは並べ立てる。しかし、森林に潜む怪物を捕らえ、使役してみせた彼らの力を見て、カメーリエ伯は心を躍らせた。

 この力を手にすれば、アイヒェの優秀な騎馬を手に入れられる。否、それどころか目の上のたんこぶであるレーヴェ大司教領も押さえこみ、一気に帝都に槍の切っ先を突き付ける事が出来るかもしれない。そう思えばこそ、彼はこの顔も知れない者達を厚遇したのである。


「黙れ! ……いい気になるなよ異教徒ども。貴様らこそ、私の恩情によって生かされている事を忘れたか。貴様らなど、捕らえてすぐに火炙りでよかったのだ! 否。今からでも火炙りにする。すぐに殺す。下らない気狂いども。者ども! こいつを捕らえろ!」


 カメーリエ伯は懐から笛を取り出し、勢いよく吹いた。高らかに音が鳴り響き、謁見の間の四方から、兵士達が駆けるばたばたという足音が近づいてくる。白装束は身を軽く寄せ合い、謁見の間の扉にちらりと目を向ける。

 やがて扉は蹴破られ、鎧を身に纏った兵士達が槍を構えて駆け込んできた。彼らは白装束の周りを、ぐるりと槍衾で囲い込む。今にも彼らを突き殺さんばかりの勢いで、兵士達は白装束を睨んでいる。


 しかし、白装束は少しも動じはしなかった。ロザリオを握りしめた一人がずいと進み出ると、フードに空いた手を掛ける。


「よかろう。……神に刃向かう愚かな民には、裁きを与える」


 白いフードははらりと舞い、絨毯の上に静かに落ちた。


 瞬間、兵士達は愕然とし、泡を吹いてその場に倒れ込む。カメーリエ伯は一気に真っ白となり、失禁して椅子を汚しながらへたり込んだ。口が震えて、悲鳴さえもまともに出てこない。


「地獄から亡者が這い出してきた。狂った亡者を叩き潰すためには我らも身命を賭さねばならん。……貴様のように神への反逆心を抱く者を内に飼っておくわけにはいかないのだ」


 フードを脱いだ男は、倒れた兵士達を足で脇に掻き分け、ゆらりと、影のように蠢いてカメーリエ伯へと迫る。その姿は、カメーリエ伯を絶望させるには、地獄から使いが現れたと思わせるには、十分過ぎるほどであった。


「地獄で己の行いを悔いるがいい」


 潰れた蛙のような悲鳴で、謁見の間はびったりと満たされた。


N|@l2h#=/e7の黙示録


夜天に喇叭響く時、時と空に己が魂封じて眠る永久の神虚空より降りる

其はヴァルプルギスの夜なり

然らば時と空より神の魂還り、神は目覚め在りし時と空は消え果てる

定められし者を天にし、定められし者を獄にす

神新たなる時と空に己が魂再び封じ、虚空の揺籃にて千年の眠りへ就くなり

其は千年世界なり



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ