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一夜明けるとオリーヴは有名人になっていた。
算術学科の人達からは質問攻めにあい、女生徒達からはノエルとの関係を根掘り葉掘り聞かれる。
モーリスとの関係も聞かれたが、クロードとアレットの婚約を話すとこちらはあっさり引き下がった。
しかし、ノエルの話を聞きにきた生徒からは、さらにくどくど聞かれる羽目になり、まだ会ったばかりで関係も何もないので兄の友人だと答えた。
(王子様だけど友人でいいのかしら?)
疑問に思わない訳ではないが、朝から何度も繰り返される質問に辟易しているのである程度いい加減な返答になっても仕方がない。
授業が終わり、クロードとの待ち合わせである学食へ向かうと……入る前に中から大声がする。
(外で待とうっと)
声に聞き覚えがある。異世界人のユリとケヴィンの婚約者サビーナだ。
出来るだけ関わりたくないので、ちらりと中を伺い、クロードがいないことを確認する。
ドアから離れ、壁際で立ったまま待つことにした。
オリーヴの他にも中に入ろうとして二の足をふむ人がちらほらいる。目線が合うと同類ならではの分かりあえた感に苦笑を互いに返す。
「お待たせ、オリーヴ」
「お兄様。と、ノエル様」
「昨日はお疲れ様、オリーヴ」
「エスコートをありがとうございました」
深々とお辞儀をする。回りで見ている生徒対策だ。
しかしノエルは苦笑しながら顔をあげさせる。
「クロードの妹君だからね」
今日ずっとオリーヴがしていた言い訳にノエルも付き合っているのだろう。
チャーミングなウインクまでしてみせるのはやり過ぎな気がするのだが。まだ出会ってから一週間もたっていないのだ。
「モーリスも妹のように扱ってくださいますし、ノエル様にも妹と思って頂けると嬉しいですわ」
「いや妹はちょっと……」
「図々しかったでしょうか?申し訳ありません」
「いや、そうじゃなくてね」
「妹がいやなら赤の他人だな」
「ちょっとクロードは黙っていようか」
「……年下ですし、姉は無理があるかと」
「そうじゃなくてね。オリーヴもからかっているの?」
「?真面目に返答しております」
「それはそれで問題があるね」
クロードがニヤニヤ笑い、オリーヴはクエスチョンマークを浮かべ、ノエルは頭を抱えている。
まさかここまで全く自分の好意が伝わっていないとは、思いもしない。
「諦めた方がいいぞ」
「……そう簡単にはいかないよ」
こっそり囁くクロードを軽く睨み、訳が分からないと首をかしげているオリーヴの手を取った。
「え?」
「帰るんだろう?一緒に帰ろう」
「いえあのお兄様が……」
「クロード早く来い」
「……三人で帰るのか」
まさかこれをきっかけに、ずっと三人(時々モーリスも入って四人)で帰宅することになるとはオリーヴは思ってもいなかった。