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皆の視線の先にいたのは、オラールの第一王子ケヴィンとその取り巻きだった。
(さっきお兄様がこちらの方に殿下って言っていたと言うことは…第二王子のノエル様なのね)
ユリがノエル様と言っていたことも思い出して、ちらりとノエルに視線を向けると、彼はオリーヴと視線を合わせ肩をすくめ、手を離しながら立ち上がった。
第一王子と第二王子は同い年だが、双子ではない。異母兄弟だ。
第一王子のケヴィンの母親は側室とはいえ、クレージュ侯爵家の出身だ。
対して第二王子のノエルの母親は王妃だが、エモニマ伯爵家の出身で、今現在、後ろ楯が弱いとされている。
表向き第一王子でもあるケヴィンがほぼ王太子とされているのは、母親の出身による後ろ楯の差らしい。
(お兄様とモーリス様はノエル様派なのかしら?)
第一王子の側には、ローラン・ジュイノー伯爵子息とジャック・イナベル伯爵子息がいた。
(宮廷魔術師と武官ですの…あとは政務に優れた右腕が欲しいところかしら)
対してポートリエ家は単なる辺境伯だ。ユルフェ公爵は宰相の職に就いているが、こちらは戦いに難点が有りそうだ。
(お兄様は魔力が高いですが、肉弾戦は苦手ですしね)
正しく言えば、苦手というのは語弊がある。クロードは、だったら魔法を使ってしまえ、とめんどくさがるだけである。
二人の王子の立ち位置について考えをあちこちへ向けていると、ケヴィンの側にユリの姿が見え、思わず先程までユリがいた場所をオリーヴは二度見した。
「ケヴィン様ぁ。今度の夜会なんですけど、私エスコートの相手が見つからなくて……」
うるうると涙目になりながら訴えているユリに、オリーヴは小首をかしげそうになり、しかしなんとか耐えた。
こういう人なんですの?と視線で問えば、困ったようにクロードは苦笑した。
腕に絡まろうとするのは誰に対してもなのね、と抱え込まれたケヴィンの腕を見て、そっと息を吐いた。
そんなユリとケヴィンを引き離す人物が現れた。
更にその後ろから登場したのは。
「エスコートなら相手のいない者同士で取り決めなさい。ケヴィン様には私がすでにおりますのよ」
夜会に行ったことのないオリーヴは、火花を散らす二人を見てもう一度息を吐いた。
(そろそろ帰りたい…)
関係者ではないオリーヴの、偽らざる本音は漏らすわけにもいかず、ことのなり行きを見ているしかなかった。