子狼、手合わせすることになった
……森の中、音を立てずに疾駆する、一つの影。
な~んてカッコ良さげに言っても、ただ走ってるだけ。まあ、気配消してるし、結構な速度で走っても物音一つたててないから、あながち間違いじゃないよね。
……う~ん。匂いからして、この辺りのはずなんだけど……。おっ、見~つっけた。
シロウの視線の先にいたのは、白と黒の入り混じった髪をサイドポニーテールにした、まだ幼さの残る顔立ちの少女、ハクビことハクという白虎の娘だ。
「お~い、ハク~」
「ンッ! シロ君、探した」
「うん、ごめんねハク」
「プル~」
「あっ、スー(・・)もごめんね」
さて皆さん方、スーという存在、気になってしょうがないですよね! ……あの……そんな、テンプレだろとか、そのネーミングセンスは……とか、呆れた顔しないでくださいよ!?
そりゃあ? 安易な名前かもしれないですけど? 良いじゃないですか!?
……え~それでは気を取り直して。スーは、ハクと一緒に森で修行中に出会ったスライスなんだよね。
ボクたちがいるこの森は、母さんのいる聖地を中心に囲うように、強者達が住んでいる森、比較的に弱い魔物や動物が住み着いている森、って感じの広大な森になってる。
スーを見つけたのは強者の森だ。普通、スライムが生きていけるような環境じゃない。最初に出くわした銀髪少女と金髪少年、角虎、他にも強い魔物や魔獣が存在する。
魔物と魔獣の違いは単純に力の差、そして知能の差。言葉を解し、発する程の知能を持つものを魔獣と呼ぶが、中には言葉を発さないものもいる。ようはピンキリだ。
まあそれはそれで、そんな化け物級がうようよいる森だ、スライム一匹が生き延びてこれたのが不思議で、いつか殺されるかもしれないと思ったら可哀相だなって、だから拾って来ちゃったんだよね。
……それになんか、可愛かったし。……こう、なんか、ぷるぷる動いてるとことか、鳴き声とか(口無いけど)、こっちを見る感じとか(目ないけど)、なんとなく愛着が湧いて、見捨てることが……できませんでした。
今じゃ立派な家の家族です!
話が凄まじい勢いで脱線した気がするけど、気のせいだよね。……気のせいったら気のせい!
「それで二人共、何かようだった?」
「ンッ、お母さん……呼んでる」
「プルル~」
「そっか、それじゃあ行こっか」
「ンッ」
「プルッ」
二人と一緒に母さんのところへ向かった。
――――
……そろそろだね。森の空気が変わってきた。この森、中心に行くほど空気が美味しくなるんだよね。やっぱり聖地だからかな。
あっ、見えてきた。
「母さん!」
『あら、漸くきましたか』
「ンッ。連行、した」
「プップル~!」
「いや、ボク犯人とかじゃないんだけど、悪い事もしてないんですけど! ハア、それより呼んでたみたいだけど、どうしたの?」
『フフフッ。そう急かさないで、まだ揃ってはいないのですから』
「揃ってない? 他にも誰か呼んでるの?」
『ええ、でももう少し時間が掛かりそうですね』
「そうなんだ。ならそれまでは暇になるね」
『フフフッ。なら魔力制御の修練でも観ましょうか』
「うん!」
――――
まずは楽な姿勢(お座り)になる。次に、体の内側にある魔力を感じる。……感じる事ができたら、その魔力を体中に巡らしていく。…………充分に巡らしたら、体外に全力で放出する。放出した魔力を身体の周りに留めて維持する!!
この工程を速く、長く維持しなきゃいけないんだけど、なかなか難しい。魔力を巡らすのがスムーズにいかないし、一歩間違えたら放出した魔力を維持できなくなるし、全力でやってるからまだ、長時間の維持は難しい。
『フフフッ。最初の頃に比べれば、だいぶ早くなりましたね。それに維持も、あの頃より長くなってますよ』
こ、心を読まないでほしい。人権侵害だよ、狼だけど。
『フフフッ。シロウは顔に出やすいのですよ。それより、そろそろみたいですね。やめて良いですよ』
「ふぅ~。それで、誰が来るの?」
「ンッ。気になる」
「プル~?」
『フフフッ。それは、会ってからのお楽しみですよ』
「む~。それじゃあ何するかだけでも教えてよ」
『フフフッ。そうですね……それではシロウ』
「は、ハイッ」
うわ、何だろ……威圧感のある声音だ……ゴクリッ。
『シロウ、アナタには、いえアナタたちには……コレから来る者たちと手合わせをしてもらいます』
読んでいただき、ありがとうございます。またのご愛読よろしくお願いします。