子犬? 万事休す
つたない文ですが、よろしくお願いします!
さて、いきなりですが、今、ボクはなにをしているでしょう~かっ。
チクタクチクタク。
正解は、……全力疾走中です!
えっ? 何故かって? 答えは簡単。沢山いらっしゃる狼さんに追われてるからです! なので、命の危機です、今にも食べられそうです。
なので今、全力全開で走ってる最中です…………。
「誰かぁ~、た~す~け~てぇ~~!!」
そんな悲痛な叫びが、森の中に響いていた。
――――
何故こんな事態になっているのか。ちょっと時間を、遡ってみましょうか。
――――
「とりあえず出発してみたはいいものの~――」
う~ん。……何もないな。
食べられそうな物もないし、水の気配もない。
あっちなみに、犬になったせいか鼻とか、耳が結構敏感になってます。そのせいか、人間だった時より、いろいろな花や草、木、森の匂いや、風に揺れる葉っぱの擦れあう音色が、とても心地よく感じます。
まあ、ときどき嫌な臭いも感じるときもあるんですけどね。
「まあ、とりあえず何か食べられそうな物でも探しながら、さっき確認した〈影魔法〉と〈纏衣魔法〉がどんな物か知らないといけないよね」
え~っと確か――。
〈影魔法〉
影を操作することのできる魔法。闇属性に属する。
魔力量、熟練度、イメージ力で威力や能力が変動する。
〈纏衣魔法〉
あらゆる属性を、纏い力にする魔法。
纏衣可能属性 影(闇属性に属する)
魔力量、熟練度、イメージ力で威力や能力が変動する。
この二つの、共通点を抽出すると魔力量、熟練度、イメージ力だよね。イメージ力、……想像力か。
あまり自信がないな~。固定概念に捕らわれてるからだよね。でも、そう簡単には抜出せることはできそうには無いよね。
まあまずは、〈影魔法〉かな。……う~ん、影を操作する……か。
下を見る。……うん、影っていったらコレだよね。
自分の動きに合わせて、動く影。うん、既に操作可能だね!
……って違うよ!! 絶対違うよ!!
ハァ~。え~っと、あとは何かあったかなぁ~。影が薄い、影も形もない、影を潜める。う~ん、どれもパッとしないけど、共通点は逃げるのにうってつけ……。
「……こ、攻撃性がない。えっなにこれ、攻撃魔法にはならないの? この〈影魔法〉って」
いや、きっとそんなことは無い筈、だよね。
と、とりあえずもう一つの〈纏衣魔法〉についても考えないと。纏衣……衣を纏う(まとう)……か。で、纏衣可能属性は影、影を纏う(まとう)ってことかな。
でも影を纏う(まとう)っていっても、よく分からないな。
う~ん、ボクって想像力がないのかなぁ~。
う~ん、う~ん。
必死に頭を働かせて歩いていると、視界の端にある物が映った。
「あれは、キノコ?」
とてとてとて。
見つけたキノコに近づく。
う~ん。……クンクン。匂いは、美味しそうかな。
……生でいけるのかな?
先程まで悩んでいたことすら忘れて、目の前の食糧で頭が一杯のシロウだった。
そのせいか、近ずいてくる存在に気付くのが遅れてしまった。
ガキンッ。
ッ痛~~。何だ? 何がおきた?
体が咄嗟に、光るものに反応して転がったが、いっつ! 肩が……痛い!
目を痛みのはしる個所に向けると、血が流れていた。多少痛むが走れないことはない。
視線を辺り一帯に向ける。そして、この傷をつけた存在を見つけた。
……アイツか、見た目犬だけど、……やっぱり狼……だよね。周りから複数の気配を感じる。狼の狩りは、最初の一群疲れてきたら、次の一群。群れの規模にもよるけど、一匹にとっては、大多数の狼……これはヤバい。
その狼と、気配だけだが、周りいた狼から逃げるため、全力全開で逃走したシロウだった。
――――
そして、話は冒頭に戻る訳ですが。
う~ん、何故だろうか。普通に考えたら、充分成長した狼の群れと小さな子犬……。
……うん、なんでまだ食べられてないんだ?
いや、食べられたくはないんだけどね。
チラッと後ろを振り返る。
「近い近い近い! 怖い怖い怖い!!」
いや待って、落ち着け。…………ふ~、とりあえず落ち着いて、冷静に考えよう。
う~ん、結構な時間走り続けてるけど、……疲れてない。狼達でさえ交代しながらボクを追いかけてるのにだ。あとは速度、ギリギリだけど、追いつかれる気配がない。
……スタミナとスピードに関しては狼達より上回ってる? でも攻撃が効くか分からないな、防御は……さっきので分かるけど簡単にダメージをくらいそうだよね。
……逃げに徹する、これしかない!
「そういえば、〈影魔法〉それに〈纏衣魔法〉……。試してみるしかないよね」
〈影魔法〉単体だとあまりイメージができないけど、纏う〈纏衣魔法〉なら……。
影を纏う……存在を薄める、気配を薄める。姿形を歪める。俺という存在を潜める……。
「……〈纏衣魔法〉……〈影纏〉(えいてん)!!」
足元の影が、身体を覆っていく。そして、自分の存在が薄れていくのを感じた。
そう、俺は影。影に形なし、影に存在なし。
「〈影纏武技・無影無踪〉!!」
身に纏った影が膨らみ、はじけた。そこに、シロウの姿形はなかった。
…………後ろにいた狼達は、混乱してるだろうね。なんせ、いきなり、目の前から獲物が消えたんだから。 ほくそ笑みながら狼狽えている狼達を、木の影から見つめているボク(・・)。うん、まあ何となくカッコ良さげな技名を叫んじゃったけど、ただ逃げて隠れてるだけなんだよね。
とりあえず、このままどこかに行ってくれないかなぁ。
このまま去ってくれないかな。……そう思っていた時期がボクにもありました。
「狼狽えるな! これしきのことで、隊列を乱すな!!」
とても美しい声。そして、とても恐ろしい声。
その声の発生源に眼を向ける。そこには……綺麗な月のような銀の髪、銀の瞳をした、少女がいた。その傍らには、対照的な金の髪に、金の瞳をした少年がいた。
声の発生源は少女のほうだろ。 なぜかって? あんな可愛らしくて、綺麗な声を少年とはいえ出したとは信じられないからです!!
まあ、ここで銀髪の少女と、目が合ったなんて信じたくない、現実逃避なんですけどね。
「獲物は、彼処だ!」
的確にボクの隠れているとこ指さしてるよ!?
そう考えてる間にも、狼達は一斉に此方に視線を向けた。
…………Oh、万事休す…………。
どうでしたでしょうか、楽しんでいただけたなら幸いです。
あっちなみに最後に出てきた銀髪銀眼の少女はヒロイン候補ではありますが、今後の展開によってはこの場限りになりますので、あしからず。