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海賊と焼鳥  作者: 緑子
3/5

三羽

今回は数話続く予定です。(自分の首を締める事になるので具体的な数は書きませんが、多分きっと3、4話ぐらいかな?)σ(^_^;)

甘い甘い、魅惑の歌声。


誘うような声に魅了され一人、また一人甲板へ崩れ落ちる。


ここは魔の海域。


商船、軍艦、はては海賊さえも恐れて立ち入らぬセイレーンの住処。

上半身は美しい人間の女性だが、下半身は足は無く魚でありヒレや鱗もある。その美しい歌声で魂を魅了し、船人を海底に引きずり生命を啜る美しくも恐ろしい魔に属する者、人魚。





始まりはフカヤーブ国の戦艦に遭遇したことからだ。

元々軍隊と海賊。仲がいい筈もないがフカヤーブ国海軍所属艦長ギルバートと海賊のシラギは個人的にも特に仲が悪い。いや、一方的にか。

元々ギルバートは平民から海軍の上にまでのし上がった軍人だ。

貴族からは煙たがられるが下からは慕われている。肩に届く長さの金髪の癖毛を後ろで小さく結び、熱血漢を表すような太い眉に大きな声がチャームポイント、好きな言葉は正義。

入隊試験の面接で理由を堂々と、お姫様をお守りし魔王を倒し勇者になりたいから、と答えたのは他国にまで知れ渡る有名な逸話だ。

お姫様=城=兵士。

あまりにも単純な動機ではあった。


因みにこの世界に魔王はいないが。




昔から何かに付けおちょくるシラギを目の敵にし、猪突猛進に突っ込んでいき自滅するパターンが多かったがこの日は違った。

フカヤーブ国の戦艦が見えた時、何時もの配置で応戦する体制を取っていた海賊達の目の前で、いきなり爆音を響かせ次々に砲撃を開始した。

砲弾が届く距離ではなかった為、誰一人警戒すらしていなかった海賊船の左舷に砲弾が直撃した。

直撃の振動に体をぐらつかせながら見たものは通常より砲筒が長い最新鋭と思われる黒銀に光る大砲が鎮座していた。


飛距離、精度共に従来の大砲を遥かに凌ぐもので、次々と襲う砲弾を逃げる事が出来たのは単にシラギの腕が一流だったおかげに過ぎない。

あちこち被弾した船では引き離すのは無理だと判断したシラギは一縷の望みを掛け魔の海域へと舵を切った。

そうして逃げ込んだ海域で今に至る。




シラギには歌声が効かないのか仲間を片っ端から殴り正気に戻すが戻ったそばからまた魅了される。

副船長であるカルノも膝を付き、ふらつく頭でフラフラと海の方へと行く仲間達を引き止めるので精一杯だ。

ーーもう駄目か。

心に暗い影が落ちた時、闇を振り払うかの様な音が耳に届いた。



焼鳥もとい神鳥が仄かに光る美しい翼を広げ、マストの上でセイレーンと同じく、いやより美しい声で勇ましく歌っていた。

まるで軍歌のような躍動感あふれるリズム、ゾクリと背筋が震え、闇を切り裂く閃光の様に心の底から湧き上がるような戦う意思と力!


立て!剣を握れ!


戦え、戦え!、戦え!!戦え!!!



セイレーンの妖艶な美しくもおぞましい歌声は掻き消され、神鳥の雄々しい歌声に一人また一人正気に戻っていく。

青ざめガクガクと怯えるセイレーン達の目の前で剣を高く掲げ海賊達の雄叫びが響き渡った。







魔の海域を抜け一息ついた海賊達は甲板に集まりバンバンと叩きながらお互いの無事を確認しながらも船首にいる神鳥の後ろ姿を熱い眼差しで見つめ、口々に神鳥を褒め称える。実際神鳥が居なければセイレーンに海に引きずり込まれていたことだろう。


「やっぱ凄えよ!俺達の守り神だな」

「あの勇ましい歌声!言葉は分からんが活力が漲ってきたぞ」

マスターのボスも全く歌声に惑わされていなかったらしいな」

「流石は神鳥様の主だぜ」

「もう一度聞きたいよなぁ。船長に頼んでみるか」



神鳥の株は留まるところ知らずの急上昇中だ。

実際神と崇め奉る者も多く、副船長以下船員達から投薬実験大好きマッドサイエンティストまで虜にしている。(船長除く)

口々に神鳥を絶賛する仲間達をよそにシラギは一人少し離れた場所でそんな彼等を複雑な表情をして見ていた。

知らないことはきっと幸せなのだということなのだろう。





褒め称える船員達を余所に甲板で毛づくろいをしていた神鳥にシラギが近づけば旦那様、と青い瞳を輝かせ嬉しそうに顔を上げた。

契約をしている主の気配は何処にいても分かるのだとか。

トトトトトッと駆け寄る神鳥の羽を撫でる。うっとりと目を閉じ黄金の指〜と呟く声が聞こえるが何の呪文だ?



「ありがとな、お前のおかげで助かったぞ」

『人の旦那様を略奪しようなんて許せません。焼き魚にしてやればよかったのです』


普段はのんびりまったりの神鳥だが、シラギに関わるものには好戦的だ。


「なぁ、焼鳥。ありゃ何だ?」

『あれとは?』

「セイレーンの歌だよ」

『ああ。セイレーン達は人間をエサとしか見ていませんからねぇ』



怪しく美しいセイレーンの歌声。シラギも何も知らなければ魅了されていた事だろう。

ーー歌の内容を理解していなければ。


セイレーン達の、歌は簡単に言えば


馬鹿な男どもが来たわ。

あの青い目玉は私が啜りたい。

私はあっちの柔らかそうな腕がいい。

あの男は美味しくなさそう。

じゃあ要らない部分と一緒に魚の餌にしましょう。


など上から目線の人間を餌としか認識していない内容だった。

セイレーンの歌は、陸の人間に恋焦がれ海で一緒になりたいと恋歌を捧げる、というのが一般的な解釈だがこの現実とのギャップは如何なものか?



「…最悪だな。

そう言えばお前の歌も凄かったな。

セイレーンの歌なぞ目じゃなかったぞ」

『んも〜♫旦那様。褒めても私意外何も出ませんよ。今夜は特別サービスしてあ、げ、ま、す……え?要らないですか?初心な旦那様も素敵ですねぇ。

あ〜、はいはい。剣は抜かないで下さいね。えっと以前いろんな異世界の話をしましたよね。その異世界の一つ、ヤヒザートは9割が全て海の世界なのです。あの歌は海賊が戦う時の歌なんですよ』


ほう?

あの時の歌は勇ましかった。

確か全てを蹴散らせ、蹂躙しろ、鱗を全て取り壁に飾ってやろうだの物騒な歌詞だったと思うが。


『陸なんか無いので悪者はみーんな海賊ですよ。因みに怯えていたのは多分、鱗を剥いで壁飾りにする〜、辺りからでしょうね。

あの種族にとって鱗は体の一部。人間で言えばお前の皮を剥いて壁紙にするぞ、と歌ってますから怯えもしますよね〜』

「……俺も出来れば知らずにいたかったぜ」



シラギは海溝よりも深いため息をつく。



そう。神鳥と契約をしたシラギは異種言語能力。つまり異種族の言葉が理解できるという有難いのか有難く無いのか分からない祝福を手に入れていた。




遠い目のシラギを余所に修理と情報収集の為、船は近くの町貿易港キューブに向かって海の上を進んでいた。




早くネズミさんが書きたい。

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