表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

◇0

 どんよりと重くたれこめた雲の下、うっそうと茂った森を、私はひたすら走っていた。


「――はぁ、はぁ」


 体が、重い。まるで鉛のよう。雨に打たれているというのに、体の芯はどうしようもなく熱を帯びている。

 ぬかるんだ地面が私の足をもつれさせた。私は地面に倒れこむ。膝を擦りむいてしまったようで、足がとても痛い。きっと足の裏で、豆も潰れているんだろうな。


 ――早く、起き上がらないと。


 私は重たい体を引きずって、なんとか足に力を込めた。

 しかし、どうにも力が入らない。


 ――立たなきゃ。立たなきゃ……!!


 すると、すぐ近くから狼達の鳴き声が聞こえてきた。


「はぁ、はぁ……!!」


 怖い。怖い、怖い。

 どうしようもない恐怖心が背中から這い上がってくる。

 私は震える足を無理矢理動かす。


「あっ!?」


 するとすぐに木の根っこにつまづき、盛大にこけてしまった。しかも、驚いて声を出してしまったからか、狼達の気配が先ほどよりも近くにきてしまった。

 そして、薄暗いこの森の中であっても、もう肉眼で確認できてしまうほどに。


 ――ここで、死んじゃうのかな……。


 物凄い速さで迫ってくる狼達を呆然と見つめながら、私は漠然と思った。

 その時、どこからともなく馬が地面を駆る音が聞こえてきた。


「ぎゃん!!」


 狼の一匹が後方へと蹴り飛ばされる。


「え?」


 驚いて私は顔を上げた。

 そこには、黒馬に跨った一人の“男性”と思われる人がいた。その右手には白銀に煌く剣が握られている。茶色のマントに身を包んでいる為、私からは顔が見えない。体つきもよく分からない。しかし、剣を握っているその手はとてもゴツゴツとしており、筋張っている。


「……グルルル」


 狼達が低く呻く。姿勢を低くして、今にも飛び掛ってこようとしている。

 私は座り込んだまま思わず後退りしてしまう。


「大丈夫だよ」


 背中越しではあるが、その人物は優しい声音で私に言ってくれた。

 何故かは分からないけれど、本当に、この人なら大丈夫だ、と思えてしまう。

 瞬間、狼達が一斉に飛び掛ってきた。

 ザンッ――。


「キャンッ!!」


 しかし、私の耳に届いたのは血飛沫の音でも、噛み千切られる音でもなかった。

 ただ美しい、一振りの刃の煌きの音。何の迷いもなく。何の躊躇もなく。いとも簡単に、幾つもの命を奪える残忍な真っ直ぐさ。

 けれど不思議と、恐ろしいとは思わなかった。

 生き残った一匹の狼は、本能的に敵わない事を悟ったのかもしれない。尻尾を向けて闇の中に消えていった。

 それと同時に、私の全身の力も抜けていく。ひらりと馬から降りると、彼は私の背中に腕を回して、力の抜けた私を支えてくれた。


「ありがとう……ございます」

「大したことじゃないよ」


 朦朧とする意識の中、男性が優しく微笑むのが分かった。優しげな目元と、温かな金色の髪の毛。伝わってくる温もりに、とても安心してしまう。


 ――……でも、もう。


 ダメ。

 私の意識は、そこでぷつりと切れてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ