第8話:鎖
もう既に、フェンスの外にいた央。
僕らを隔てているのはこの金網の壁だけで。
それなのに。
何故かとても分厚い障害にも感じられて。
「…央」
名前を言うのがやっとで、なんて言ったらいいかわからなくて。
驚いて振り向いた央。
「な…つ…」
「なんで…こんな…雨の中…傘…ぐらいさせよ…」
声が震えて言葉にならなくて。
「それは…お互い様でしょう?」
「危ないから、こっち戻ってこいよ」
「…」
央はただ、首を横に振るだけだった。
「もう終りなんだよ」
央が呟いた。
「私は私で終りにするの。」
「どういう意味だよ」
「もう誰かの悲しむ顔みたくないから、私がいなくなれば、そのときの痛みは大きいけど、傷はいつか癒える」
「癒えるかどうかなんて、お前にわかんねぇだろ!」
「わかんないけどっ簡単な考えで、軽い気持で決断したんじゃない!こんな終りかたしか出来ないけど…私にはこうすることしか出来ない」
大粒の泪が、空から。
央の目からも溢れていくけど、僕にはどちらも止められなくて。
何でこんなに締め付けられるんだ。
なにがそんなに、泣きたいんだろう。
「泣いてばかりでごめんなさい…」
泣いているのに、しっかりした声で言葉を紡ぎ、真っ直ぐな目で僕を見据えて。
「悲しい…思いをさせてごめんなさい…思い出せなくてごめんなさっ…」
そこまでいって、泪が溢れてくるのが止まらなくて。
「私のために泣いてくれて、」
ありがとう
「死なせたくない。」
消えそうな彼女を繋ぎ止めるためにでた言葉は、
当たり前で、かつ、伝えたかったことで。
「何があっても、俺を忘れないでほしかった」
驚いた央の目には泪が。
溢れて、雨になって…
「こんなに、誰かを愛したことはなかった」
「央だけは何があっても信じる自信があった」
頬を伝う雫が、泪なのか、雨なのか、もうわからなくて。
「失う辛さが、決して必ず癒えるものではないと知った」
「癒えるものじゃないんだ。失うものが大きすぎれば、傷だって大きいんだよ」
「でも…私には、」
「生きることが苦痛で、生きることで誰かを傷付けてしまうから…」
「そんなこと…」
「わからないでしょう?私の苦痛なんて…泣き続けて、泣かせ続ける人生なんて。それなら私は私を終らせたいの」
残された者の気持を考えてないわけではないけれど、悲しい顔をみたくないから、どうにかしなきゃいけなくて…
「もしも」
央が振り絞るように発した言葉は、白い世界に響きわたった。
「次会ったなら、絶対」
忘れないから