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空の泪  作者: 紫央
8/9

第8話:鎖

もう既に、フェンスの外にいた央。

僕らを隔てているのはこの金網の壁だけで。

それなのに。

何故かとても分厚い障害にも感じられて。

 



「…央」

名前を言うのがやっとで、なんて言ったらいいかわからなくて。

驚いて振り向いた央。

「な…つ…」

「なんで…こんな…雨の中…傘…ぐらいさせよ…」

声が震えて言葉にならなくて。

「それは…お互い様でしょう?」

「危ないから、こっち戻ってこいよ」

「…」

央はただ、首を横に振るだけだった。 



「もう終りなんだよ」

央が呟いた。

「私は私で終りにするの。」

「どういう意味だよ」

「もう誰かの悲しむ顔みたくないから、私がいなくなれば、そのときの痛みは大きいけど、傷はいつか癒える」

「癒えるかどうかなんて、お前にわかんねぇだろ!」

「わかんないけどっ簡単な考えで、軽い気持で決断したんじゃない!こんな終りかたしか出来ないけど…私にはこうすることしか出来ない」


大粒の泪が、空から。

央の目からも溢れていくけど、僕にはどちらも止められなくて。

何でこんなに締め付けられるんだ。

なにがそんなに、泣きたいんだろう。

「泣いてばかりでごめんなさい…」

泣いているのに、しっかりした声で言葉を紡ぎ、真っ直ぐな目で僕を見据えて。

「悲しい…思いをさせてごめんなさい…思い出せなくてごめんなさっ…」

そこまでいって、泪が溢れてくるのが止まらなくて。


「私のために泣いてくれて、」



  ありがとう

 




「死なせたくない。」

消えそうな彼女を繋ぎ止めるためにでた言葉は、

当たり前で、かつ、伝えたかったことで。

「何があっても、俺を忘れないでほしかった」

驚いた央の目には泪が。


溢れて、雨になって…


「こんなに、誰かを愛したことはなかった」

「央だけは何があっても信じる自信があった」

頬を伝う雫が、泪なのか、雨なのか、もうわからなくて。

「失う辛さが、決して必ず癒えるものではないと知った」



「癒えるものじゃないんだ。失うものが大きすぎれば、傷だって大きいんだよ」


「でも…私には、」



「生きることが苦痛で、生きることで誰かを傷付けてしまうから…」

「そんなこと…」

「わからないでしょう?私の苦痛なんて…泣き続けて、泣かせ続ける人生なんて。それなら私は私を終らせたいの」

残された者の気持を考えてないわけではないけれど、悲しい顔をみたくないから、どうにかしなきゃいけなくて…

「もしも」

央が振り絞るように発した言葉は、白い世界に響きわたった。

「次会ったなら、絶対」



   忘れないから



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