第6話:追憶
今まで、固くなに拒んできたことのひとつに、
「思い出を振り返る」があった。
思い出すのが怖くて、忘れられない一方で思い出を振り返ることをしなかった。
誰が泣くのか?そんなの僕に決まってた。
泣き叫んでも悔やんでも、何一つ納得いかなくて。
でももう、
拒み続けるわけには行かない…
あの日のことを振り返るだけでよかったけど、思い出すと次々出てくる楽しかった頃の記憶。
こんなこと覚えてるなんて、女々しいかな、普通こう言うのって女が覚えてて、男は忘れちゃってるもんだろ…
秋の終りに、帰る時間が同じで二人で帰った日、さすがにもう冬も近くて、自称冷え性の央は手が真っ赤で。見てて痛々しかったから、ポケットの中で手を繋いだ。それが、初めて手を繋いだとき。
「へ?…!びっくりした…」
「冷てー!手袋ぐらいはけよ!?」
「まだ冬物出してなくて…(苦笑)」
「ったく…」
「…でも、」
「?」
「手繋げるなら忘れてもいっかなぁ…なんて。あはははは!」
「バーカ(笑)」
「ヒドーイ(笑)」
結局冬の間は央は手袋を持ってこなくて、手を繋いで帰ったのをよく覚えてる。
感傷に浸ってから、本来の目的に気付いた。
あの日、央がどうしていたかはわからない。
聞いた話によれば、一時に病室を出たらしい。
その後四時過ぎぐらいに飛び下りるのを目撃されている。向かうなら二時ごろか…
第一何時間あちらにいれるかわからない。
伝えたいことが沢山ある。
ぼんやり、あの日は雨が降っていたから、傘がいるかな、なんて考えたりしていた。
どうして央は雨の中屋上に行ったんだろう…
傘ぐらい持っていけばよかったのに
何でわざわざ、雨に打たれにいったんだろう…