第3話:銀色
失う怖さを知ったから、手に入れるのが怖くなって、何時しかそっけない態度をとるようになった。
そんな僕に声をかけてきたのは、うちの大学でも有名な、変な教授だった。
変わっているのとはわけが違う。
ただ、変な人と言う感じだった。
専攻は理系、科学の知識を用いて発明を行なっているらしい。
「紫堂、お前この間の本気で聞いたのか」
「えぇ。」
「…研究室に来なさい。興味があるなら、教えてあげよう」
事の起こりは物理の授業。授業が終ってから、僕は教授に突拍子もない質問をした。
「教授。」
「何だね、紫堂くん」
「タイムマシーンはつくれると思いますか。今の科学の力で」
「面白い質問だ。不可能に近いが、私は出来ると信じている」
「三年だけ戻るとしても?」
「つくってしまえば可能に違いない」
そのあと教授はいぶかしげな顔をして、
「変わってるなお前さんは。」
と言って高らかに笑っていた。
研究室に着くまで一言も喋らず、ただ黙ってあるいた。
「入りなさい」
扉の先の研究室は未知の世界だった。
機械がやたら並び、本や書類は散らばり、工具も散乱していた。
その中に、一際目を引く、乗り物のような機械がどっしりと構えていた。
教授は静かに口を開いた。
「タイムマシーンに興味があると言うなら、」
「この機械についての話をしてあげようと思う。」
そう言って機械を見つめる教授の目は寂しげだった。
「ここ十数年…私が研究してきたものだ」
「これは…タイムマシーンてやつなんですか」
「そのつもりで造った」
「完成はいつなんですか」
「完成、と言っていいかわからない。近々実験を考えている」
「……僕を実験台にしてくれませんか」
「…正気かね。私は勧めないぞ。万が一と言うことも考えられる」「例え失敗しても、しょうがないと思います。それで死んでも後悔しません。僕の生きる意味は3年前に失った」
「…未来を変えると言うより過去を変えるため、と言うわけか」
「…」
「…私がこの機械に着手した理由も君と同じかもしれんな」
思いにふけるように、目を閉じた後、静かに語り始めた。
「約40年前…私には弟がいた。身よりのない兄弟で、頼れるものはお互いのみだった。あの頃は私もまだ20代で、年が離れていた弟はまだ十歳だった」
「明日さえ見えないような生活をして、大学に通い、弟を養うのは一苦労だった。」
そこで一息ついて、上を向いた。たぶん、涙をこらえてたんだと思う。
空はやっぱり泣いていた。誰かの思いの代わりのように