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原罪の破壊者 -魔弾の射手-  作者: 四童子 薫
永眠に誘う者
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忘却


 マモンを偵察に出した後、僕は目の前の問題に頭を悩ませていた。

 当初はイリスとの二人暮らし。僕の命が尽きる二年は例え稼ぎがなくともなんとかなる計算だった。

 しかし……。


「なー昼飯まだー?」

「あんた、さっき食べたばかりじゃない」

 エルのそっけない常識意見に懲りることなくティアは勝手に戸棚を物色し始める。

「確かここに……あった!」

 大きなそれは未開封の缶入りクッキー。ある程度長持ちし、来客や喫茶店での応用も利く便利な代物。

「何を騒いでおる。むむ、なんじゃその愛らしい箱は!」

 アリスはその碧眼をキラキラさせている。

 そこへフローラもやってきた。頼む、こいつらを教育してくれ。

「おや、クッキーではありませんか。お茶の準備をしてきますね」

 僕の希望は虚しく散った。

 ……いや。イリスがいる。この家の大先輩としてなんか言ってやれ。

 と、彼女に目を向けると既にテーブルにスタンバってる。……おい。

 そう、こいつらはよく食べる。それが五人もいる。食材と貯金の消費が……。


 ティアがその大きな缶を開けると、アリスの瞳がさらに輝いた。

「な、なんじゃあ宝石箱のようではないかあ」

 多種多彩なお菓子たちは、チョコや砂糖に加え緑色のアンゼリカ、ドレンチェリー、ジャムなどの装飾が成されている。

「……ごくり」

「あたしこれー!」

「卑怯な! 妾は……妾は……あ!」

 目移りしているアリスを横目に静かな捕食者サイレントキラーイリスの手が獲物を捕らえる。

 家主抜きで勝手に始まるお茶会。

 やれやれ。

 呆れている僕の肩をそっと誰かが叩く。

 振り向くとエルだった。

「ほ、ほら。そんなところに突っ立ってると全部食べられちゃうわよ」

 顔をそむけながら小皿に数枚盛られたクッキーを僕に差し出している。

「あ、あぁ。ありがとう」

 ってなんで僕がお礼を言ってるんだ。そもそもこれは僕が買ったものだ。

「べ、別にっ。フンッ」


「紅茶もあります、どうぞ」

 その声にエルとは逆方向に目をやると誇らしげに紅茶を手にしたフローラがいた。

「あぁ。頂くが……もう持てないから座らせてもらってもいいか」

「はい、どうぞ」

 イスまで引いてくれて妙に優しい。がその笑顔が逆に恐い。


 午前中の日光を感じながらのティータイム。テレビのCMに興味をそそられてる少女が一人。

『今年もやってきた……夏の心霊特集……成仏できない怨念か、祟りか……今夜七時より三時間SP』


「おぉー。この世の神秘を感じるのぉ。今夜はこれを見るぞ!」

 自分が元幽霊だって忘れてないかこいつ。

 アリスたちには留守番を頼み、僕はティアをお菓子五百円分で雇い買出しに向かった。


 その夜。

 寝衣しんいに着替えたアリスはテレビ最前線で待機している。放送開始まであと数分。

 番組が終わる頃には十時になるのを見越して他の連中も寝る準備万端だ。

 各々はテレビを中心に扇形の範囲内を散り散りに座っている。

 僕は少し離れた後方で大きめのソファに座り、読書を片手間に鑑賞することにした。


 いよいよその時がやってきた。低いトーンのナレーションが実にわざとらしい。

『身の毛もよだつ心霊特集SP……スタジオを襲う怪現象……廃墟潜入レポートの生中継……今夜、あなたは誰も知らない世界を知る』

 なんてベタな演出なんだ。さすがにこれは……。

「少し侮っていたようです、これは信憑性が高い」

「おぉ……なんだかワクワクしてきたのぉ」

「幽霊ってつえーのかな」

「ばっかみたい。お子様なんだから」

「……同感」

 お前ら大丈夫か。


 それから三十分程度が過ぎると、全員目が釘付けになっていた。

 CMに切り替わり──。

「ふ、ふぅ……やれやれ、こ、子供騙しじゃな」

 と笑顔で振り向くアリスだが顔が引きつっている。

「え、えぇ。よく出来たフェイクです」

「おい、まさか幽霊って物理攻撃効かねーのか……?」

「フ、フン」

「……全然怖くない」

 怖くない奴はわざわざ自己申告しないけどな……。

 画面がキャッチアイに変わり、本編放送までのカウントダウンが画面左右に表示されるとアリスが動きに出た。

「う、うーんちょっと同じ体勢でいるのに疲れたーのぉー……よいしょっと」

「なんのつもりだ」

 僕の膝に座る幼女。

「じゃから言っておろう。同じ体勢でいるのが疲れただけじゃ」

 時間は待ってはくれずカウントダウンがゼロになり、CMをまたいだ心霊写真が公開される。

『お分かりいただけただろうか……悲痛に歪む怨念の素顔が……!!』

 デデーン!!

「っひぃ!」

 エルの方から妙に女々しい声が漏れ、視線はそちらに注がれる。

「な、何よ? ちょっとしゃっくりが出ただけなんだから」


『……かみちょうだい……かみちょうだい……お前の髪だぁあああ!!!』

「っひゃ!」

 フローラの方から妙に女々しい声が漏れ、視線はそちらに注がれる。

「こほん。いえ、私は音量に驚いただけです」

 と、違和感を感じ横に目を向けるとイリスが僕の横にべったり座っている。

 僕は呆れ気味に聞いてみた。

「どうした」

「……ソファに座りたい気分なだけ」

「イリスってめ。じゃああたしもー」

 イス取りゲームみたく座ってくるティア。そして荒ぶるサイドポニー。

「ぶはっ。おま、髪。髪が顔に当たってるから!」

 僕は左右をイリスとティアに挟まれてしまった。

「ほんと、子供なんだから」

「全く、その通りです」


 コンコンッ。コンコンッ。

 その時、外のドアを叩く音が。

「出た、幽霊じゃ!!」

「ちょ!」

「っや!!」

 アリスのなんの根拠もない断言にエルとフローラは電光石火の如くソファのわずかな座面に駆けた。……暑苦しいんだが。

 少女は映画に出る残念な親分みたく仕切り始めた。

 まず最初のターゲットはイリスだ。

「な、何をしておる。お主、平気ならば様子を見てくるのじゃ」

「……イヤ」

「なぜじゃ」

「……怖いから」


「ティア! おぬしが行って倒してこい!」

「あたし物理戦闘専門だから専門外。てへっ」


「よしフローラ!」

「情報量が足りません。未知の敵に挑むのはナンセンスです」


「エルよ!」

「っや! 嫌っ嫌っ嫌っ!」


「やれやれ……」

 僕はアリスを右腕で抱きかかえるようにして床に下ろした。


 扉へ向かうと、まだ音が聞こえる。

 ……コンコン。

「き、気をつけてください」

 僕の後ろには張り付くように全員いる。なんでついて来たし……。

 ……ガチャ。

「只今戻りました」

 マモンだった。

 ルシファーを発見できなかったようだ。既にこの町にいないか、マモンに警戒して気配を消しているか、いずれにせよ奴が力を使えば探知は可能だという。


 番組が終わり、そろそろ寝ようかと思っているとイリスが提案という名の命令を口にした。

「……今夜は居間で全員一緒に寝るべき。いやな予感がする。敵が来るかもしれない」

 お前怖いだけだろ。

「そうじゃな、致し方ない」

「イリス様がそう言うのでしたら従うのが私の務め」

「しょ、しょうがないから付き合ってあげてもいいわ」

「よし、力仕事はあたしに任せな! 全員分布団持ってきてやんよ」

 お前ら……。

 マモンもカラスの姿で羽を休め、その日は居間を敷き詰めるように布団を並べ夜を明かした。

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