忠義
『二週間前にインベリス協会軍用機(乗員六人)が消息を絶った問題で、海軍などは機体がレーダーから消えた地点の半径約百キロメートルに捜索範囲を拡大したが発見には至っていない。操縦士が明確な意図を抱き自動操縦装置を操作、高度や速度を変えた可能性を指摘した』
いつも通り居間に向かうとそんなニュースが流れていた。
テーブルに目を向けると朝食の準備が進められ、一部料理が運ばれ始めている。
……一体誰が?
山盛りにされたサラダが中央に置かれ、マモンが棚から取り出した食器をアリスが並べている。
イリスは既にちょこんと座り、「マテ」と命じられた犬のようにじっとしている。
ティアはまだ寝ているとしても、フローラとエルの姿が見えない。
確かに料理を教えたことはあるが、フローラの奴ここまで上達したのか?
すると、フローラがやってきた。人数分のオムレツとハムが盛られた皿をトレンチに乗せている。
「あ、フローラ」
「おはようございます」
「その朝食はお前が作ったのか」
「いえ、不本意ながら私は補佐しか……。厨房にはエル様が立っておりますよ」
あいつが? 意外だな。
さっそく僕は厨房へ覗きに行った。
エプロン姿のエルが確かに料理をしている。
真っ赤なスープの入った鍋があり、彼女はそこから小皿にひとすくい。味見をしているようだ。
「人は見かけによらないって本当なんだな」
「い、居たの?! というかどういう意味よそれ」
「少し驚いた。だけどどういう風の吹き回しだ?」
真っ赤な鍋から刺激臭はしない。ミネストローネか。
鍋を見ていると彼女は改まって語り始めた。
「ほ、ほら。私、使徒の力も失って、なんの役にも立てないじゃない? だから……」
そうか……こいつ。
「これからも頼むよ」
「え?」
「この通り、片腕じゃ厳しいからな」
「う、うん! 任せなさいっ」
料理が全て運び終わる頃、一人遅れてティアがやってきた。
「ふぁ~ぃ……。いいにおい……ぬぁ! なに?! 今日ってお祭りかなんか?!」
「さて、飯にするか」
「……待ちくたびれた」
お前はくたびれるな。
長方形の大きめなテーブルに全員座ると、フローラが台車を引いて飲み物を運んできた。
「私はコーヒー。ブラックね」
「どうぞ、エル様」
「……紅茶」
「あぁ、僕も紅茶で頼む」
「はい、どうぞ」
「あたしオレンジジュース」
「妾もじゅーしゅ!」
「はいはい、お待ちくださいね」
フローラも席に着く。食事を必要としないマモンはアリスの横に立っている。
「いただきまーす」「いただきます」「頂きます」「朝ごはんじゃー」「……ます」
ゴキュ……ゴキュ……ゴキュ。
「プハァ! もう一杯!」
ティアにジュースを注ぐマモン。
それでいいのか悪魔。それじゃただの執事だろ。
「お言葉に甘えて、今日はエルの料理を頂かせてもらうよ」
「口に合うか、わからないけど……」
テーブルに並べられた料理は、バイキング方式のサラダに、同じく積まれたロールパン。
オムレツと焼かれたハムに、ミネストローネのスープがつく。
僕はオムレツを一口食べた。
「ん……すごいな。スポンジのようにふわふわで、焦げ目もないし綺麗だ」
「そ、そう?」
「待ってください。紅茶は私がいれたんです、飲んでみてください!」
「あぁ……」
僕は恐る恐る一口飲んだ。
「お、美味い。香りも引き立っている」
カップは持ち手部分まで暖かい。あらかじめカップ自体を暖めてあるんだ。
フローラは誇らしげな顔をしている。
「料理は出来ませんが、お茶やコーヒーなら協会でよくいれていたので」
ほのぼのと朝食をとりながら、僕は本題に入った。
「マモン、頼みがある。必ず見つけ出せとまでは言わない。ルシファーの居所を突き止めてくれないか? 奴の魔力を感知しやすいのは同族であるお前だけだ」
「仰せとあらば」
朝食を終えた後、マモンはカラスに擬態し飛び立った。




