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虚構


「見るがよい。木を叩いていたら木の実を拾ったぞー」

「まじで! あたしもやるやる」

「お前ら……」

 初めての電子ゲームに夢中になる少女の横で、慈愛ともとれる眼差しを向ける一匹のカラス。

 そんな平凡な日常の場面で、一人、また一人と画面の前で意識を失っていく状況に異変を察知するのは誰にでも容易な事だった。

 カラスは事態を把握するために画面を覗くと、不思議なことに操作されるはずのない彼らのキャラが話し、動いている。

 意識を失った彼らの身体状態は良好、カラス自身の能力から察するに魂を呪縛するという原理にも察しがついた。


 冷静に状況を見極めているとドアの取っ手がゆっくりと下がり、彼の見知らぬ少女が現れる。カラスの存在に気づく様子はない。

 それは近所の高校の制服、それもフローラたちと同じ学校の制服だった。ロングツインテールの少女はその冷たい目つきでおもむろに短剣を顕現させると、意識を失った彼らに歩み寄る。

「お友達、というわけでもなさそうですね」

 その声に反応し振り返る少女。気配もなく後ろに立っていたのは黒い執事服に身を包む仮面の男、マモン。一瞬動揺を見せながらも落ち着いた口調で問いただした。

「どうしてあんたが」

 たった一言、そしてこの状況、何世紀もの時を過ごした彼にはそれだけで十分な情報だった。

 マモンは手にした腰位置ほどの杖を両手で握り、つかを引くと中から刀が姿を現す。

 それを目にした少女は、その冷め切った瞳で男に敵意を表した。一言呪文を発すると少女の眼球に不思議な紋章が現れる。それはイリスのそれと同じもの。それと同時に短剣は発光しながら長物ながものへと形を変えた。中央に持ち手を有し、そこを支点に両端対称に存在する刃は青白い電気を放電し続けている。

「現存するだけでも想定外。それが味方となっているなんてね。不本意なのだけれども、こうなった以上は消えてもらうわ」

 彼女はいかずちを纏ったその特殊な武具で男に斬りかかった。それを仕込み刀で受け止めると、彼は余裕な態度で話を続けた。

「賢明な判断とは思いませんが」

「あんたバカじゃないの。意識のない彼らを守りながら戦えると思っているの」

「彼ら、とは一体誰を指しているのでしょう」


「…………?!」


 彼女が横目で視点をずらすと先ほどまでいたはずの彼らは、椅子も机もパソコンも、跡形もなく消えていた。

 その異変に剣と剣を弾き距離を取る少女。

「同情しますよ。あなたが足を踏み入れたのは私の固有空間。勝ちの目はありません」

 この状況を警戒し後退あとずさりすると三歩も下がらず壁にぶつかる。その壁は生暖かくやわらかい。振り返ると脈打つ肉の壁がそこにはあった。

「これは……なっ」

 肉塊にくかいは少女の手足を拘束した。底なし沼のように手首までを飲み込んでいき、十字架に張りつけられた罪人を思わせる格好を晒す。

「離せ! 外道が!」

「後々調べれば済む事なのですが、手っ取り早く済ませたいので私の質問に答えていただけますか」

「は? 尋問なんて趣味が悪いわね。さっさと殺しなさいよ」

「悪魔に安楽死を求めるなど愚の骨頂。死にすら縋りたくなる苦痛をお教えしましょう。ですが、従うのならそれもやぶさかではないのですが」

 冷め切った瞳に憎悪を満たしながら、美少女は悪魔の誘いに妥協した。

「…………何が聞きたいの」

「彼らの魂は電子世界に取り込まれたようですが、わざわざ肉体を始末しに来るという事はこのゲームに命を奪う力まではないと言うことですね?」

「愚問だわ」

 それを聞いた仮面の男は、刀を納め不気味な空間を消失させた。


「なんのつもり」

「何か勘違いをなさっているのではないですか? 本当に残酷な者はすぐに殺したり、してや拷問もしません。あなたの体内に寄生虫を埋め込みました。術者である私が絶命するか、私が望むかでそれはあなたの体内を食い荒らすでしょう」

「ゲス野郎が。後悔しないでよね……いつか絶対殺すわアンタ」

精精せいぜい余生を満喫することです」

 少女は冷たい瞳で男を睨みつけ、やがて何も言わずに立ち去った。


 ──そう。精精、私の手の中で足掻くがいい。

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