英国
僕は海外の経験がないのもあり、半ばフローラ任せで物事は運ぶ。
しかし一番の問題は飛行機の座席だ。三人ということで選ぶ席は消去法的に横三列のどこかになる。
残る着目点は思いつく限り四つ。
一、景色が見えるか、見えないか。
二、足を伸ばせるか、伸ばせないか。
三、降りる時に先に出られる前の方か、後ろの方か。
四、自由に席を立てるか、立てないか。
以上に要点を抑えて最良の道を選択する。
まず今回の一番の鬼門は十時間以上のフライトということになる、ならば降りる順番など取るに足らないので消去。
景色も数分で飽きる気がする、それに三人では一人しか景色を見れない、優先度は低い。
やはり長期フライトという点から足を伸ばせるというのを重点に置き、出来れば席もたちやすい場所が最良という事になる。よし、これだ。
ということで窓側から三列で、人通りは多いと思われるが足を伸ばせる座席を確保した。通常なら予約が必要な人気の席だったらしいのだがティアに渡された協会の紹介状を見せると従業員が慌しくし始めすぐに座席が確保された。
各々の位置は例のごとく僕が真ん中、イリスが窓側、フローラが通路側となった。
機体が滑走路に移動を始め、位置に付くと威圧感のある音を鳴らしながら速度を上げていき、機体は無事に離陸したようだ。
十時間以上かけロンドンに到着すると、昼前に日本を出発したのにそこはまだ昼過ぎだった。
日本時間だと今頃は夜遅いだろう。時差に体内時計を狂わされる。
僕らはまずカンタベリーにあるイギリス本部へ向かう事にした。汽車で片道一時間ほどで到着する。
肘掛に肘をつきながら車窓を眺める。
いつもの無表情のイリスから眠そうな雰囲気が漂う。
「本部で軽い打ち合わせを済ませたら明日までは自由時間になる。もう少しの辛抱だ」
彼女は銀髪を揺らしながら首を縦に一度頷いた。
目的地に近づくにつれ辺りが霧に包まれていく。この地方は霧が発生しやすいのだろうか。汽車で雑談を交えながら駅へ到着。駅から徒歩五分程度で二本の太い塔を持つ城門が現れる。
カンタベリー市街地への入り口だ。
所々に中世の建物を残す町を進むと霧の中に無数の像で装飾された門が現れ、そこを入ると唐突に大聖堂が目に入る。ここがイギリス本部だ。
緑豊かな広々とした境内。敷地はカンタベリーの町全体の五分の一ほどの広さにもなる。
建物は上空から見ると綺麗な十字架を模し、先の尖った柱や塔がいくつかあり、最も高いもので六十メートルある。魔法使いの学校かと思ってしまうほど幻想的だ。
内観は入ってすぐに幅二十四メートル、奥行き六十メートル近い身廊があり壮大だがなんといってもその高さに目を見張る。
天井はリブヴォールトの中でも特にファンヴォールトと呼ばれる高度な構造で架けられ、とても石造りとは思えず柱が杉林のようだ。
この部分は垂直性を極端に強調したパーペンディキュラー様式で建てられ高さは二十メートル以上。そして聖堂全体の北西には回廊で囲まれた中庭がある。
ティアから預かった手紙をイギリス支部の人間に渡すとすぐに応接間に案内され、少しすると青年がやってきた。
「長旅ご苦労様です、自分は皆様を出迎えるよう承りましたスチュワート・オドネルという者です」
年齢はせいぜい二十代、頭から足元まで完璧な身だしなみでメガネが知的でよく似合っている。
「私は日本支部から派遣されたフローラ・アグリコラ。二人が使者様とその従者様です」
「はい、お話は存じ上げております。皆様お疲れかと思いますので今日は簡単な打ち合わせで済ませましょう」
僕らはソファに三人並び、向かい合うようにスチュアートが座り話を聞く。
「まず始めに、この支部を指揮するアブディエル様は只今立て込んでおりまして自分が代わりに本件を任されました。現地までも自分が案内いたします」
ティアの言っていた通りここも今は忙しいみたいだ。簡単な打ち合わせをし、詳しくは現地に向かうまでの間などに済ませるとの事でこの日は自由時間をもらった。
宿の手配もしてもらい、明日の朝になったら現地まで同行してくれるようだ。
イギリス支部を出て、三人で通りへ向かう。
「この地域には今の僕らに最適な風習がある」
「いきなりどうしたのです」
「ここには特有の軽食、アフタヌーン・ティーというものがあってだな、これは僕の店でもモチーフにしており実はあの三段のティースタンドもイギリス発祥と言われておりさらにサンドイッチもイギリスサンドイッチ伯爵が────」
仕事柄熱弁を振るいすぎてしまったようだ。しかし本場の味や雰囲気を学ぶことは本業に有用だ。
「確かに長旅の後は軽食の方がいいですね」
長々と話した割りにフローラの言葉は要点しか触れてくれなかった。
僕らは適当に一軒選び、各々好きなものを注文したのだが、料理が届くと驚いた。
軽食とお茶というコンセプトのはずなのだが……。
すごい量だった。
ケーキは一人三つ、そして添え物のクリームやジャムなどがカップいっぱいに盛られていた。
「ところでイリス。イギリスの使徒には会えなかったが、アブディエルってのはどんな奴なんだ」
「……会ったことがない」
同じ使徒でも全員と顔見知りというわけではないみたいだ。
その後、宿に向かうと一人一室という待遇でもてなされていた。それにかなり広い。
何気なくテレビをつけてみると日本がニュースに取り上げられていた。
『現在、学校を三十日以上休んでいる不登校児は約四十万人。先週から高止まりが続く。最も不登校が多い学校では、二人に一人、つまりクラスの半分は不登校という現状。急に不登校が増加した理由については専門家もわからないとの事』
翌日、朝食をとりに食堂へ向かうとスチュアートが誰よりも早く待機していた。
まもなくして彼女らもやってきて朝食をとる。
「昨晩はよく眠れましたか?」
「あぁ。問題ない」
「それはよかった。この宿を手配した身として少し不安でしたので」
ここでも朝食の合間に軽く打ち合わせをまじえる。
その後汽車を使い、ロンドンへ着くとタクシーで例の屋敷へ向かった。




