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黒ト白  作者: 支夜
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狂響声







 やっと・・・見つけた・・・


 ずっと・・・探して・・・いたんだよ・・・?



 は・・・く・・・










「!?」


突然脳内に響き渡った不気味な声。

授業をサボり、屋上で気持ちよく昼寝をしていた俺、霧状きりじょう はくは、

いきなりのその声で目を覚ました。秋の涼しい気温にもかかわらず、額にはうっすらと汗が。


「なんだ・・・今の・・・」


突然聞こえた不気味な声。その声に聞き覚えなどなく、顔も分からない。

ただ一つだけ、不気味ながらも透き通るような声で、ニヤリと微笑む口元が見えた。



「・・・変な夢・・・」


考えても分からない。俺は、自分に「これは夢だ」と言い聞かせることにした。

冷たい風が体を包む。


(さむ・・・)


いくら涼しい気候とはいえ、秋の候。

長時間風に当たっていたせいか体は冷えてしまっていた。

携帯を開き、現在の時刻を確認する。


(12時か・・・)


「声」のことはまだ少し気になるが、昼寝のしすぎで腹が減った俺は教室へ戻ることにした。




『狛ぅ!!!どこにいたんだよぉ~』


教室に入るやいなや、夕駆ゆうがる 真木まきが俺に飛びついてきた。

俺はいきなりの出来事への驚きと、想像以上の真木の飛びつきの威力に圧倒され、後ろに倒れてしまった。


「いって・・・」

『ご、ごめん!まさかそんなによろめくとは思わなくて・・・』


その音が教室中に聞こえたのか、「大丈夫?」と俺の周りに大勢の人が寄ってきたが、俺はすぐに「大丈夫」と体制を取り直し立ち上がった。

ほんの一瞬のことだったのに、目の前では真木へ女子達からの説教が繰り広げられていた。俺は、女子から結構な人気があるらしい。

そんな女子達に真木が俺に怪我をさせたという大げさな解釈をされたせいで、真木は説教を受ける羽目になっているらしい。

10分程度言いたい放題言い散らすと、女子達はそれぞれの居場所へと戻っていった。やっと解放された真木は「疲れた・・・」と大きなため息をつく。


「お疲れ様」

『まじ疲れたー・・・女って怖ぇわ・・・』


だいぶ参ってしまい、女好きの真木からそんな言葉がこぼれたことに、俺はつい笑いが出た。


『笑うなよ~あーあ・・・青柳さんにもにらまれた気がするー・・・』


青柳さんも狛かー・・・知ってたけど・・・と、今度はへこみ始めた真木。青柳あおやぎ 白雪ゆきとは

今の真木の好きな人・・・らしい。特別目立つ人ではなく、俺は真木に言われてこの人の存在を知った。


「気のせいだって!俺は、彼女は真木を見ていたような気がしたけど?」


俺の適当なフォローは、単純な真木には効果抜群。


『まじ!?やっぱそうだと思ったんだよね~!!なんか愛の視線?がきてるのを俺は気づいちゃったんだよね~!!』


さっきまでの状態は嘘のよう。あっさり調子のいいことを言い出す真木に、俺はあはは・・・と苦笑いをするしかなかった。

そんな俺をよそに、真木はいまだに『青柳さん~♪』とヘラヘラしている。


(ま、いつもの真木に戻ってよかった)


なんて思いながら、腹減っていた俺は真木を横目に菓子パンを頬張った。


『あ!!!狛!!一人で先に食うなよ!!!』


と言うと、俺の食べかけのパンを『いただき♪』と奪い取り、勢いよく全部食べやがった。


「俺のパン!」


『先に食べ始めた罰だ~』


結局俺はパンを3ぶんの1しか食べることが出来なかった。そんな量ではいくら少食の俺でも腹は満たされず、

少し罪悪感を感じたのか真木が何かおごってくれるというので、昼休み終了間近ではあったが食堂へと向かった。


食堂に着くともうすぐチャイムが鳴るにもかかわらず、想像以上の人がいた。まぁそこに関したは別にいいんだけど。

ただ問題なのは食券売り場に人がいるということだ。待つことが嫌いな俺には、たった5人並んでいるだけでも嫌気が差す。

その上先頭にいるやつがえらく長い。優柔不断なのか?とにかく早くしてほしい。


(あー遅ー・・・)


俺の苛々は募る一方、真木が俺の苛々オーラを感じたのか『俺、早くしろって言ってくるわ』と先頭にいる人物の元に向かっていった。

見かけによらず、人のオーラとかを察するのが上手い奴。だって誰が想像しますか?こんな金髪チャラ男が実は、

人の変化に敏感で世話好きな一面があるやつだなんてさ。真木を待っている間、こんなことをぼーっと考えていたら

数人の女の子が俺を囲うように立ち、


『あ~!!霧状君だぁ!!』


『本当だぁ!!ねーねーいつ遊んでくれるの~?』


『そうだよぉ~約束したじゃん~楽しみにしてるんだよぉ?』


と、目の前でキャッキャッ話しかけてきた。


(あ・・・忘れてた・・・)


その子たちは前に『遊ぼう』と行って来た子達だった。

あまりにしつこいかので『今度必ず遊ぶから♪』って言ったんだった・・・。

正直その時急いでてその場しのぎで言ったから完全に忘れていた。


「まじ?ごめんな。最近ちょっと忙しくてさ~」


『も~、ねーいつ遊んでくれるの~?もう待てないよ~』


「ん~じゃあ今日は?♪」


『遊ぶ遊ぶー!!』


『あたしもー!!』


『やったぁ!!』


俺の急な『今日遊ぼう宣言』を予想以上に喜んでくれた女の子達。それからも少し盛り上がって話していると

ムスッとした表情の真木が戻ってきた。


『おい、狛!!俺があっち言ってる間に何女の子と盛り上がってんだよ!!俺も入れろ!!』

と言うとガラッと表情を変え、笑顔で女の子達に『俺、真木♪』と話しかけ始めた。

「あ、今日この子達と遊ぶけど真木も来るだろ?」


『行きます!!』


流石真木君。即答だね。たださっきまで女を怖いと言っていたことを忘れたのかな?



気づけばチャイムはすでに鳴り終わっており、券売機の前にはもう誰もいなかった。それは真木のおかげなのか、

チャイムが鳴ったからなのか、俺たちが話し込みすぎたのか・・・


(まぁ、どうでもいいんだけどさ~)


そんなことよりも俺は腹が減って仕方がない。ちょうど女の子達も『じゃあ二人とも後でね♪』と

教室に戻っていった。いざ、券売機の前へ。


『何にすんの?』

「親子丼」

『・・・ですよね』


食堂に来ると俺は必ず親子丼を頼む。あのだしの効いた卵の味にはまってしまったのだ。

そんな俺を知っている真木は『分かってますよ~』と券売機にお金を入れた。そして出てきた券を手に取ると


『出してくるから座ってろよ♪』


とカウンターに一人向かっていった。俺はその真木の言葉に甘えることにして近くの席に座った。5分くらいすると

真木が『お待たせ~』と俺の親子丼を持って俺のいた席の隣に座った。


『熱いから気をつけろよ?』


お前は俺の母親か。と、つっこみたくなったがそれよりも腹が減っていたので

早速親子丼に手をつけることにした。それに真木のそういうとこ、結構気に入ってるし。



 は・・・く・・・



!?


再び頭の中で不気味な声が響いた。朝と同じ、不気味なのに透き通るようなきれいな声・・・


(夢じゃなかったのか・・・?)

自らに「夢」だと言い聞かせすっかり忘れていた俺は、驚きと恐怖で手の動きが止まる。


(何なんだよ・・・一体誰なんだ・・・)


『狛?どうした?』


俺は真木の声で我に返った。


「な、なんでもねーよ・・・」


『本当か?体調でも悪いなら保健室に・・・』


「まじで大丈夫だって♪」


言えない。いくら真木にだって言えない。頭の中で知らない人から呼ばれてるなんて・・・

それに俺の気のせいかもしれないし・・・。



それから声が聞こえることは無く、食い終わる頃にはチャイムから45分くらい経ってしまっていた。

もう授業は終わるし、俺達はだらだらと教室に戻ることにした。あの声が夢じゃないと分かってしまった今、

頭の中がグルグルしている。あの声は一体誰なのか、何故俺を呼んでいるのか、と。


『なぁ狛・・・あいつ知り合い?すげーこっち見てくんだけど・・・』


考え込みすぎて、うつむいているに近かった俺は、真木の声で顔をあげた。

そこにいたのは一人の男子生徒。見覚えなどなかった。ただそいつはじっとこっちを見ている。

なんだ?と思っていると、再びあの声が聞こえた。


 見・・・つ・・・け・・・た・・・


 は・・・く・・・



「・・・うっ・・・!?」


いきなり張り裂けそうなくらいの激痛が脳内にが走る。その痛さは尋常ではない。

まるで激しい頭痛の中、音楽を大音量で聴いているかのような気分だった。

俺は痛みのあまり立っていられず、その場に倒れこんだ。


『狛!?』


痛みは治まるどころかどんどん悪化していく。


「うぁ・・・ぁ・・・ぁ・・・!?」


痛みの中、視界に移ったのは先ほどの男子生徒がどんどんこちらに歩いてくる姿。

気のせいか口もとが笑っているように見えた。何より、そいつがこちらに近づくにつれて

どんどん痛みが増していく感じがした。


 

 やっと・・・見つけたよ・・・



その声に、ふとそいつを見あげた瞬間、その男子生徒が動かした口の動きと、声のタイミングが完全に重なっているのが見えた。


(・・・こいつ・・・だったのか・・・)


だが分かったところで痛みはどんどん増し、立ち上がることすら出来ない俺に何が出来るのか。


俺はそいつが目の前に来た瞬間、頭が割れたんじゃないかと思うくらいの痛みが走り、そのまま気を失った。







読んでいただきありがとうございました

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