ICHIGO
「私、イチゴって好きよ。甘くって可愛くって、味もルックスも完璧」
彼女はそう話し、定員にメニューを指差しながらイチゴのショートケーキとダージリンを注文した。
私は彼女に少し遅れてブレンドを注文する。
「ねぇ、イチゴって言えば、高校生の頃やらなかった?イチゴのショートケーキにのっているイチゴを最初に食べるか、最後までとっておいて食べるかの心理テスト」
そんなこともしたかな、曖昧な返事を返す。
正直、私はそのような陳腐な心理テストなるものを容認しかねるからだ。
「私が高校生のころはクラス中で流行ったわ。おなかいっぱいになった時のために先に食べるだの、やっぱり最後に食べないと・・・って人それぞれね」
君はどうだったんだいと尋ねる隙もなく話し続ける。
「私は最後に食べるようにしてたな。だってね、この心理テストには続きがあるの。それはね、大事な人を最後まで大事にできるか、っていう一途さを知ることができるって言われていたからよ。もちろん私はこんなことがなくても大事な人を最後まで大事にするんだけどね。」
ふーん、そうなんだ。と、また曖昧に相槌を打つ。
店員が,注文したものを持ってきてテーブルに置く。
彼女の前にはイチゴのショートケーキとダージリン、私の前にはブレンド。豆の香ばしい香りが広がり、私は心の中で「ふぅ」と一呼吸置く。彼女のショートケーキにも私が主役と言わんばかりの大きな、存在感のあるイチゴがのっていた。
店員がごゆっくりとお辞儀をするのもつかの間、彼女のマシンガントークは続く。
リロードはない。
「あなたはどうなの。ショートケーキのイチゴ、先に食べるの?後?」
私も最後かな・・・と話しているのを聞きながら、彼女はフォークを手にしてフォークの先を眺めている。
彼女は、自分がショートケーキを食べるに足るフォークかどうかを見定めているつもりであろうか。だとしたらとんだ自意識過剰である。
「そう」
そう言って彼女はショートケーキの天辺にのっている、神々しく、妖艶に輝いているイチゴをフォークで刺し、口の中にほうりこんだ。