アンノーン(未確認生物)が現れた
僕の名前は、桐島 光一郎。今年で21歳になる。何度かチャンスはあったものの、未だに彼女がいない。勉強が嫌いだったため、大学へ行くのを早々に諦め、高校を卒業するとすぐに電気設備事業を営む会社に入社・・・。これで嫌な勉強ともおさらば!と思いきや・・・・・現実はそう甘くはなかった。毎日が勉強、勉強で結局は嫌いなものを毎日続けている・・・。
僕の毎日は実に機械的である。毎朝同じ時間に起き、同じ時間に顔を洗い歯を磨き、同じ時間に朝食をとり、同じ時間に家を出る。
そして、会社に居る間は嫌な上司とマンツーマンで日々の業務をこなす。嫌な上司・・・訂正・・・、すごく嫌な上司。
会社が終わるのが大体平均で、夕方の6時半頃。そして、車で家に到着するのが7時と言ったところである。こんな毎日を日々淡々と無為に過ごしている。
こんなつまらない毎日ではあるが、二つの楽しみが僕にはあった。一つ目は『ギャンブル』である。
ギャンブルと言っても競馬や競輪では無く、『パチンコ』や『スロット』の方で・・・・・まあ、ギャンブルには違い無いのだが・・・。なぜかこれをやっていると日々の嫌なことや悩みを忘れることが出来た。お金は順調に無くなりはするが、一瞬でもそれらを忘れることが出来るならば安い物だ!!・・・・・、訂正、“決して安くは無い”・・・。
そしてもう一つ・・・・・、小説を書くことである。
小説を書くと言っても、ネットを検索しているうちに見つけた“小説投稿サイト”にちょこちょこ投稿しているだけである。実際に小説を書いてみると、どれほど人に自分の言いたいことを伝えるのが難しいかが分かった。それは、自分のイメージ・・・、つまりストーリーを文章にする力が、欠如しているためであった。
まあ、{プロではないのでそれは徐々に改善されていくのだろう。}そう思い今も連載小説を投稿し続けているが、やはり読者・・・、小説投稿サイトのユーザーのリピーターはなかなか定着してはくれない。やはり重要なのは、今までにないユニークな設定とそれを伝えうるだけの文章力を身に着け、さらに言えば見やすい文章を創作しなければ、ユーザーは一話目以降の話を読んではくれないのである。故に僕の小説はつまらない・・・。
まあそんなこんなで、僕という主人公 桐島 光一郎の物語はどんどんと社会人の底辺を進みつつあった。
7月22日 AM 6:15分
ppppppppppppp。
携帯電話のアラームが鳴る。光一郎は片手で携帯電を手に取り、寝ぼけた表情で待ち受け画面を開き時間を確認しつつ、アラームを停止させる。
「う~ん、もうこんな時間か・・・。」
いつものようにむくっと起き上がり、洗面台に行き、まず顔を洗い歯を磨く。そして、朝食のカップラーメンを食べながら朝のニュース番組を視聴する。会社指定の作業着に着替え、そうこうしているうちに時計を見ると家を出る時間になる。
「はあ、なんでこう毎日退屈なんだろうな・・・。まるで途方もない、流れ作業でもしてるようだよ。トホホ・・・。」
溜息をつきながら玄関に向かい、靴を履き車のカギを手に取って家を出る。大体この時、6時55分である。車のエンジンを始動させ、カーナビのお決まりのセリフを聞くと光一郎のお気に入りのCDが流れ始める。
「今日は何時にもまして、体が重いな・・・。」
光一郎は自分の肩を2,3度叩き、アクセルを踏みハンドルをきり走り始めた。
勤務地までおよそ50分。目をこすりこすり運転し、時々電柱にぶつかりそうになる。
「おっと!!」
ヒヤッとして、目が一気にさえる。
「はあ、疲れたまってるのか?昨日は、9時には寝たのにな・・・。」
光一郎の眼の下にはクマがくっきりと浮かび上がっている。
そして、コンビニがあるいつもの交差点を右に曲がり、勤務地へと到着した。この時7時40分頃。
光一郎の働く“春日電工”は、仕事柄決まった勤務地が無く、大体が各現場へ派遣され設備の敷設および管理を行っている。そして、光一郎の派遣されている現場は森に囲まれる、車の部品を製造している工場の新築工事現場である。
指定の駐車場に車を止め、昼食のカップラーメンとおにぎり2個の入ったバックを手に持ち事務所へと向かった。そして、現場事務所のドアを開ける。
「おはよう御座います。」
事務所の扉を開け光一郎ははきはきとあいさつをした。事務所内は仕事で使用する材料やら工具やらで座るスペースは限られている。
長テーブルに一人の男性が座っている。光一郎の上司 角田 由紀夫 である。彼は、春日電工の作業責任者である。顔はなんだか威圧的な表情で、54歳とは思えないほどのがたいの良さ・・・まるで何処かのニュースキャスターのようだ。
「・・・・・・・・。」
(返事が無い。屍のようだ・・・。)
毎朝元気にあいさつするが、機嫌のいい時以外あいさつが帰ってくることは無い。これにより毎朝ブルーな状態で業務はスタートする。よって、毎朝光一郎は心の中でドラクエのセリフを言い、密かに角田を侮辱する。
そして、荷物を自分の席に置き、ほうきと塵取りを手に持ち、事務所内の清掃に取り掛かる。
「おい!桐島。」
角田が光一郎に話しかける。
「は、はい!」
いきなりの角田の声にびくっとなる光一郎。鋭い視線に背筋がぞくぞくっとなる。
「お前、昨日俺が頼んだ仕事・・・、まさか終わってるんだろうな。」
角田は太い声で、光一郎に言う。
(仕事?そんなの頼まれたか・・・。)
光一郎は心の中で、昨日のことを思いだす。そして、今日の作業内容である照明器具15台を取り付けるため段取りをしておくように頼まれたのを思い出す。
「ええ、昨日15台すべて段取り済んでます!」
光一郎は愛想よく回答した。
「そうか、それならいい。」
角田は電気図面を手に持ってそれを眺め始めた。
(ふ~、いちいち緊張する・・・。)
光一郎は胸をなでおろした。
再び掃除に戻る光一郎。そして35分間の長い沈黙が続き、8時25分。朝の朝礼の5分前となる。
すると角田はむくっと立ち上がり、安全帯とヘルメットを被り事務所を出て朝礼台に向かった。
「お!やばいやばい、もうこんな時間か・・・。」
光一郎も角田と同じように安全帯とヘルメットを被り同じく朝礼台に向かうため事務所の外へでた。
すると、そこには担当者の佐藤 実がいた。
「おはよう、光一郎。今日の調子はどうだい。」
佐藤は先に朝礼台に向かう角田の方に視線を向け、意味ありげな口調で言った。
「“いわずもがな”ってな感じっすよ。」
佐藤 実は光一郎の一つ上の先輩である。職種が異なるため、普段は現場では無くパソコンと向き合い、現場に来ることはほとんどなく、日々お金の計算を行っている。
「お前も貧乏くじ引いたな。よりによってあのデビルマンと一緒になるなんてな~。」
デビルマンとは角田のあだ名である。
「ははは、変わってくれませんかね?佐藤先輩。」
光一郎は気の抜けた声で言った。
「悪いが俺には、デビルマンに対抗しうる精神力やら魔力やら・・・まあそういった類の能力は備わっていない!!俺にできるのは、お金の計算に客先のクレーム対応などなどだ。そして、俺の職種は担当者である。でわでわ、朝礼に遅れてしまう。」
にこっと微笑み、そういうとすたすたと佐藤は小走りに朝礼台へと向かった。
「逃げた・・・。」
光一郎も後に続き、歩き出そうとした瞬間の事である。世にも奇妙な現象が起こっていた。
普段は朝礼台の前には大工さんやら鳶さんやら数々の専門的な技術を持つ職人たちが、整列している。その人たちのほぼ99%は男性。至極稀におばちゃんなんどのお手伝いさんは来ることがあるが、若い女性はまず見ない。
その日は違っていた。歩き出そうとしたとき、左手にとても優美な女性が立っていた。年は18歳くらいだろうか。
しかし、その女性の横を、通る人通る人、みなまるでそこに女性などいないかのように見向きもしないで通り過ぎていく。
“男なら誰でも見とれてしまうような美女なのにである。”
光一郎は不思議そうにその女性を眺めながら、自分の会社の列に向かう。すると、その女性と目があった。光一郎は目を逸らし、横目でちらっと女性の方を見るが、女性はなぜか光一郎の方から目を離さない。
(なんだ!?目があったぐらいで、なんであんな凝視してくるんだ。)
「おはようございます。」
光一郎は完全に女性から目を離し、自分の会社の整列している列に並んだ。そして、関係会社の人たちにあいさつする。
「おはよう光ちゃん!」
いろんな職人さんからあいさつが帰ってくる。あいさつが帰ってくるととても気分が良い。どこかの“誰かさん”と違って・・・、と光一郎は思った。
「桐島、お前が今日は一番まえだ。」
そんな中、列の先頭に立つ角田が言った。
「親方からお呼びがかかったぞ。急げ急げ!」
事情を知る職人さんが光一郎をちゃかす。あと押しされ角田の前へとおどりでる。
「え~と、人員と作業内容を報告すればいいんですよね?」
朝礼時、列の先頭に立つ者は、現場を統括するゼネコンと呼ばれる建築業者の担当者に、その日の作業人員と作業の流れを報告しなければならない。しかし、光一郎は今日それを初めてやれと言われ思わず角田に質問した。
「・・・・・・・。」
(え~~~~、無視キターorz)
光一郎は角田にすがすがしいほど完璧に無視された。まるで、毎日見てるのだからできるだろうと無言で言ってるかのように。
「え~それでは、みなさんそろったようなので、朝礼を始めたいと思います。まず、新規に来られた作業員さん、本日の作業人員、作業内容の方を、向かって右側の業者さんから報告お願いします。」
仮設で作られた朝礼台の上に現場のトップである建築会社の担当者が、全員に伝わる大きな声で言った。
(作業内容はえ~と・・・、今日は照明器具取り付けと後は電灯盤の設置・・・。)
手帳を開き、作業内容を確認する光一郎。
(あと人員を数えないと!!)
どんどん順番が進み、光一郎の番まであと2人と言うところまできた。
そして、順番を数えようと後ろを振り向き人数を数え始めた。
光一郎はビクッとした。
(まだ、こっち見てるよ・・・。気味悪いな・・・。てか、作業員の人じゃなかったんだな。)
光一郎の視線の先には、先ほどの優美な女性が先ほどと全く同じ場所で光一郎の方を未だに凝視していた。
「電気さん!電気さん!」
建築さんの担当者の声がする。
「は、はい!」
「電気さんの人員の方は・・・?」
女性に気が取られ、順番が回って来たのに光一郎は気が付かなかった。
「ああ、え~と今日の作業内容は、照明器具の取り付けと電灯盤の据え付けです。人員の方が、10名です。」
光一郎は慌てて、報告を始める。女性が気にかかるが、後ろには角田が居るためよそ見は人員の確認以外振り向くことは許されない。
その後、朝礼は進み最後に全員で安全コールを行った。
「今日も一日安全作業で頑張ろう!!」
「おおーーー!!」
そして、朝礼台からみな解散してゆく。光一郎は先ほどの女性の方を見る。
(げっ、まだ見てる・・・。気味悪いな・・・。それになんだかみんな女性の事無視してるみたいだし、俺も無視して行こう・・・。)
先ほどと同じように、女性の横を通る人はそこにはそんな人はいないかのような見事な無視っぷりで通り過ぎてゆく。光一郎も同じく無視しながら事務所に戻ろうとした。
そして、女性の横を通りすぎようとした瞬間である。
「そこのお前!!」
女性の立つ位置の方角から、きれいな女性の声が聞こえてくる。まるで、アニメなどに出てくるキャラクターの声優のような声だ。
(無視だ!!なんだか、関わったらいけない気がする・・・。いや関わったら絶対だめだ!)
光一郎は聞こえないふりをしてすたすたと事務所へ足を急がせる。
「お前だお前!なんだかぱっとしないまさにMr普通と言うような顔のお前だ!!」
光一郎はなんだかイラッと来た。何故だか侮辱されたような気がして、胸がむかっとしする。
「悪かったな、普通の顔で!そう言うあなた様は、先ほどから僕のことを睨み付けて、何様ですか?」
「お前やはり、私が見えているのか!?」
「は?」
光一郎は女性の言っている意味がさっぱり分からなかった。
「その反応・・・、やはり見えているのか・・・。むむむ。」
女性はなぜか、考え込み始めた。
「見えてるのかって、そりゃ見えるでしょ?」
(何言ってんだコイツ。顔は可愛いけど頭の中はファンタジーみたなタイプだな。)
「黙れ人形が!無礼ではないか!!目上の者には敬語を使え、愚か者!」
「はあ?いやいや明らか僕の方が年上じゃないか。それに僕はれっきとした人間だ!そのセリフそのままお返しするよ!」
(なんていう口の悪い奴だ・・・。しまいには、『私は神様で、世界は私を中心に回っているのよ』とか言いそうだな。)
「何と口の悪い人形だ・・・。私を誰だと思っている!この地球を創り育てた“神”であるぞ。私が中心となり世界は回っているのだ。己が罪、無礼を詫びて、ひざまずいき、頭をたれろ・・・、人形。」
女性は自らを神と名乗りそして、光一郎を下目に見て人差し指を地面へと指し、頭を下げるよう命じた。
(ま、マジで言ったーーーーーー!!!!ファンタジー来たよ・・・。はあ、疲れるな~、絶対コイツB型だよ。)
「わかった、分かった・・・。とりあえず、どこから来たの?ここ関係者以外立ち入り禁止だから、不法侵入だからね。」
「私の創りし星でどこで何をしていようと人形になどとやかく言われる筋合いは無いわ、たわけが!」
光一郎はだんだんイラついて来た。普通の顔ならまだしも人形とは、人間であることを否定されているようで胸糞悪かった。
「ああ、そうかよ!どこのどなた様知らないが、早急におかえり頂こう・・・。」
そういうと光一郎は、警備員の居るすぐそこにある中央監視室へと向かった。神と名乗る女性はその場から動こうとはしない。
「警備員さん!!不審者です。」
「え!?本当ですか!今行きます。」
警備員は即座に座っている席を立ち、光一郎の誘導に従い現場へと向かう。
「この子です。わけの分からないことばかり言って、現場から出て行こうとしないのです!」
光一郎はそこに立っている女性を指差して、警備員に不審者を突きだした。
「はあ・・・、何処?」
「嫌だな~、此処に居るじゃないですか。18歳くらいの女の子がほら!」
光一郎はその場所を強調する。
「冷やかしなら、ゼネコンの担当者に報告して厳しく言ってもらうぞ!!」
警備員の顔から怒りの表情が露わとなる。
(ジョークにしては顔の険しさがリアルだな。何で怒ってんだ???)
光一郎なぜ警備員が怒っているのか分からなかった。
「愚かだな・・・、人形よ。それは私が“神”だからだよ。その者に私の姿を見ることはかなわぬ願いだ。」
沈黙を貫いていた女性が再び口を開いた。
「え!?ウソだろ・・・。」
光一郎は女性に向かって言った。
「何を空気に向かって話しかけている!!そんなんで誤魔化せないぞ。」
「いや、違うんです。ここに居るんですよ人が!?見えないんですか?」
「ああもうバカバカしい、付き合ってられないな。お前のことは、ゼネコンに報告しておく。全く、とんだ無駄足だった・・・。」
警備員は元来た道を戻って行った。
「そんな・・・、馬鹿なこと・・・。」
光一郎の顔から余裕が消える。
「理解したかな?私がこの世界の創生者 “神” 。そして、お前は私によって“作られた人形”と言うことだ・・・。」
可愛い顔ではあるが、とてつもないことを口走る女性に光一郎は恐怖を覚えた。
「・・・・・・、ウソ・・・・・・・。」
光一郎は理解できない現象に一言、言葉を発した。