9話
北の王国の街からさらに北へ向かうと見えてくる蛇エリア。
最強の盾と呼ばれる死獣、黒蛇亀のゲンブは知恵の樹と呼ばれる世界樹を守護している。
その世界樹になる実がスネークアップル。この実を取るためには様々な試練を乗り越えないといけない。
「やはりこのエリアは見た目が寒そうだな。ちゃんと準備して良かったよ」
始めの試練は寒さ。この試練を乗り越えるために作ったのが、オルソレイユ鉱石とムーントンの毛皮で作った太陽と月の毛皮の鎧。
胸に輝く太陽のマークと背中に輝く銀色の毛皮。銀狼のマントで見え隠れする背中の月のマークは優しい光を放っている。
「ここから先は少しの油断が命取りになる」
次の試練は青き森を無事に通り抜けること。この森にはレッドアーマーと呼ばれる特殊個体の熊がいる。
熊や狐など十二支に入っていない動物は基本的には龍のエリアに存在している。エリア超えのモンスターは特殊個体と呼ばれ、強さは死獣をも越える。
「慎重に……慎重に……」
「やぁ、また会ったね。変な動きをしてるが、何をしているんだい?」
「で、出たー!!」
急に現れたのは亀梨レオさん。その顔色はどこか影が見える。
「あ、あの、顔色あまり良くないようですけど、大丈夫ですか?」
「俺の心配かい?ずいぶんと余裕そうだね。でも大丈夫だよ」
大丈夫だよといった声にあまり覇気はなく、やはり心配になる。
「君の方はムンリルの焼成は順調かい?」
「……えぇ、それなりには」
まさか神品質を作ったとは言えるわけない。しかも同じ生産者だ。
「そうか。ところでレッドアーマーはグラビティを使っていれば、怖くない相手だよ。そんなに気にする必要はないよ」
「そ、そうだったんですね」
「……やはり君だったのか、ネズミの死獣を倒したのは」
「えっ?」
「私の元にある情報が入ったんだ。最強トッププレイヤーのヨム様しか倒していないと思われたネズミの死獣を倒した者がいるという情報が」
ヤバい。バレてしまった。
というか、まさか自分達がそこまですごいことをしていたとは思ってもみなかった。
最強プレイヤーの真夏ヨム様。このゲームで知らない者は誰もいないと言われる最強の存在。
そんなすごい人にボク達は迫る勢いで攻略を進めていたんだ。
「あの後、鉱山で君の動きを見ていたが、君の動きはお粗末なものだった。だから君の凄さに気づくことができなかった。でも君は攻略したんだね。難攻不落のムンリル鉱石の焼成に……」
ここまでバレてるなら隠す必要もないだろう。それに攻略方法まで教えるつもりない。
「はい、そうです」
「そうか……ありがとうな」
「ありがとう……ですか?」
「今の時点では攻略できないものだとさえ思えてしまうくらいムンリルの焼成は難しいものがある。俺の心はもう折れてしまいそうだった。だけど、今、君のおかげで希望が見えたんだ。だからありがとうだ」
レオさんの目は真っ直ぐにボクを捉えていた。こんなにカッコいい人に見つめられるのは少し照れるところもあるが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
「たしかにボクもムンリルの焼成には手こずりました。でも一緒にいた人に言われたんです。一人では限界があるって。だからボクも頑張れたんです。レオさんも頑張ってください」
「……君は優しいね。そういえばまだ君の名前を聞いてなかったね」
「ボクは三上ハヤトと言います」
「俺は亀梨レオだ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
ボクはレオさんとガッチリと握手を交わした。その手は苦労している手で、アイドルのようなキラキラした人の手ではないとさえ思えてしまう。
「そうだ、ハヤトくんもこれから向かうのは世界樹のところなんだよね。一緒に行くのはどうだい?」
「えっ、いいんですか?」
「どうせなら少し話をしたいと思ってね」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
レオさんと一緒になったこともあって、不安は消え、2人で青き森を間もなく超えようとした時だった。
「で、出たー!!!」
姿を現したレッドアーマー。身体全体は真っ赤な鎧を着たような毛色。多くのプレイヤーを殺してきた殺人熊で貫禄もある。特殊個体と言われるだけあって、その威圧感は半端ない。
「だから落ち着けって。コイツならグラビティがあれば余裕なんだって。ゴーレムより少し速いくらいだよ」
レオさん、ごめんなさい。ボクそのゴーレムの攻撃に当たる人なんです。
レオさんはレッドアーマーのワキをスルリと抜けて、早くおいでよと手招きをする。
「そ、それでは行きます……」
ワキを抜けようとした時、レッドアーマーは右手を振り上げた。
大きな真っ赤な爪は何人も人を殺した証。その爪は躊躇するボクの目の前数センチを通り過ぎていった。
「ハヤトくん、大丈夫かい?」
「やっぱりボクには無理です。ボクのことには構わないで、先を行ってください」
「いやいや、そんな冗談はないって……ってもしかして本気で言ってるのか?!」
「はい、すみません」
レオさんは一瞬、何かを考え、またすぐに笑顔に戻った。
「それじゃあ俺が引きつけておくから、その間に青き森を抜けてくれ」
「でもそれだとレオさんが危なくなります」
「だから、大丈夫だって言ってるだろ。俺はグラビティなんかなくても余裕だよ」
レオさんはレッドアーマーのすぐ目の前まで行き、挑発するかのように身体を突き出し始める。
レッドアーマーはその挑発にまんまと乗ってしまい、レオさんに翻弄され、ボクはその間に青き森を抜け出した。
「おかげで助かりました」
「気にしないでいいよ。でもこれで君は俺に貸しを一つ作ったってことだからね」
「えっ?……あっ、それじゃあムンリルの焼成方法を教えますよ。それで貸し借りはチャラでいいですかね?」
「それはさすがに貸し借りが釣り合ってないよ。でも……正直言うと行き詰まっているのも事実だ。少し考えさせてくれ」
「わかりました。それでは先に進みましょう」
そして青き森を抜けると、知恵の実を守る死獣・黒蛇亀のゲンブが現れた。
最後の試練は知恵を試される。それは新たな魔法の創成。
この試練の結果で、スネークアップルの品質が決まる。このリンゴはマイファームで植えることができるので、その品質も重要になってくる。
「よし、行くとするか」
「この試練は難しい試練だと聞くが、ハヤトくんは何か良い案はあるのかい?」
この試練は魔法の核となる元素と星と呼ばれる力の元を合わせて魔法を創成する。
最低品質でやる方法はわかってる。元素と星を2つずつ組み合わせる。でも、それ以上の品質はまだ誰にもできていない。
「試してみたいと思っている案はあります」
この試練は順序良く数を合わせていかないとダメで、3回失敗したらそこで終了。すぐに再挑戦することはできない。
「そうか……俺は良い案があって来たわけじゃないから、後ろから見ててもいいかい?」
「別にボクは大丈夫ですよ」
この試練は失敗例がたくさん報告されているので、3、4、5の数字での組み合わせはダメなことがわかってる。
「きっとこの試練もリアル志向で、美しい答えがあるはずなんだ……と考えた時、出た答えがある。それは核物理の魔法数」
物質を構成する原子核。その中にある陽子と中性子が魔法数だと核が安定する数字。
2、8、20、28、50、82、126が魔法数。
「まずは元素2、星2で創成」
目の前は突然光り輝き、光の玉が出現した。
「次の魔法を創成せよ」
目の前にいる黒蛇亀のゲンブが語りかけてきた。
「次は元素8、星8で創成」
…………
「次は元素20、星20で創成」
…………
「それでは最後に新たな魔法を創成せよ。この魔法はお主の力となるだろう」
「ボクの力になる……それならグラビティの役に立つような元素、それは鉛を創成する……元素82、星126。これでお願いします」
[鉛付与の魔法が創成されました。無属性魔法グラビティの強化されました]
「レオさん、ボクやりましたよ」
「ムンリルに引き続き、この試練もハヤトくんは攻略した。尊敬に値するよ」
「いえいえ、そんな褒めすぎですよ」
「いや、君は俺の希望だ。希望があるだけで人は前を向くことができる。何か俺にできることがあるなら……そうだ、ハヤトくんは好きなアイドルはいるかい?」
ま、まさか……この流れは……
「桜庭……桜庭アンナさんが一番好きです」
「そうか、俺ならアンナを紹介できるよ。ただ……アンナは忙しい人だから、あんまり期待しないでくれよ」
「そ、そうなんですか?それでもボクは会ってみたいです」
「本当に期待しないでくれよ」
「はい。それではお願いします」
「それじゃあ、まずは俺とフレンド登録しよう」
ボクはスマホを取り出し、レオさんとフレンド登録。
「俺は今まで生産職でトッププレイヤーだと思っていた。でも今、目の前には俺よりはるか先に行くハヤトくんがいる。強敵と書いてトモと呼ぶ。そんな関係を作りたいが、実際の力の差は師匠と弟子のようなものかもしれない」
「そ、そんなことないですよ」
「謙遜するところがハヤトくんのいいところなんだろな、きっと」
「いや、そんなこと本当ないですって」
こんなにも褒められるとやっぱり嬉しいもんだな。
「今日、ハヤトくんに出会えて本当に良かったよ。ありがとう」
「こちらこそレオさんがいなければ、レッドアーマーのところでやられていましたよ」
「ハハッ、たしかにそうだね。あれは面白かったよ」
「ちょっと笑わないでくださいよ。こっちは真剣だったんですから」
こうして、ボクは神品質のスネークアップルを手にすることが出来た。
これでようやくマイファームを手にする時が来たんだ。




