6話
「また何か変な夢を見たような気がするが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない」
浅い眠りから覚めたボクは宿屋を飛び出し、鍛冶屋に急いで向かい始めた。
「今日もやることはたくさんあるんだ。まずはマオさんの武器作りだ」
ボクは作業台に二刀流の剣の型を置いて、作業開始。
「鍛冶スキル・発動」
ムンリルインゴットを双剣の型に入れ込む。
「鍛冶スキル・双剣・製作」
『月の銀の双剣、99%の最高品質』
「鍛冶スキル・終了」
銀に輝く三日月の双剣の姿は力強さと輝きが調和し、まるでマオさんの姿に見えてしまう。
「よし、これで準備完了」
ボクは鍛冶屋を抜け出し、マオさんとの待ち合わせ場所へと向かい始めた。
「おーい、ハヤトくん」
「すみません、お待たせしました」
マオさんは先に待っていて、ボクがたどり着くと、手を振って出迎えてくれた。
「まずはこちらをどうぞ」
月の銀の双剣を取り出し渡そうとするが、マオさんは首を横に振って受け取ろうとはしなかった。
「ハヤトくん、まずはちゃんと説明をしてもらいたいな。最高品質しかできなかったっていうのはどういうことなのかな?」
「えーと、それはですね……」
ここで変に隠すのも変だし、隠したとしてもそれはマオさんに失礼にあたるだろう。正直に話すとするか。
ボクはマオさんに正直に話した。アイアンハンマーやシルバーハンマーは最高品質ではなく、神品質だということを。
そして、ムンリル鉱石の焼成ではどうあがいても神品質を作ることができなかったことを。
「ハヤトくん、私が前に言った言葉覚えてる?1人では限界があるって言葉。だから私にも手伝わせて。神品質のムンリル作りを」
マオさんが手伝ってくるって言ってくれてるんだ。それならやるしかない。難攻不落のムンリルを攻略してみせる!
「よろしくお願いします」
ボクは必死になってマオさんに説明をした。鉱石焼成は美しい温度カーブを描くこと。その形はフィボナッチの黄金の山に見えること。自然界にはそういう神の造形物がたくさんあることを。
「なるほどね……で、富士山も神の造形物だから、みんな魅了されるってことなんだ」
「はい、そうです。焼成の温度カーブが富士山に似ていたから、ボクはこの形に気付いたんです」
「そう……じゃあさ、富士山が神の造形物っていうなら、静岡富士山だけじゃなくて、山梨富士山も神の造形物なんじゃないの?」
「えっ?山梨富士山のあの右側がいびつに見える形がですか?」
「そうそう。静岡富士山も山梨富士山もどちらも神の造形物。そういう視点で見た場合、何か考えつく案は出るかしら」
「……ちょっと待ってくださいね」
山梨富士山の形を神の造形物として捉えるなら、温度カーブは……二回キープ時間をとることになる……それはおそらく最大膨張点でキープ時間をとる。
それが意味するものは、中心部と外側との温度差異をなくすためのもの。
そうか、この理論なら、この温度カーブは美しい。
「マオさん、ありがとうございます。この理論ならきっと成功させられます!」
「いい報告待ってるからね。頑張っていってらっしゃい!!」
マオさんに背中を叩かれ、ボクは鍛冶屋へと戻り、焼成作業を開始した。
ムンリル鉱石の焼成レシピ
300Kから485.4Kで55分
485.4Kから785.37Kで34分
785.37Kから1270.72Kで21分
1270.72Kでキープ時間は13分
1270.72Kから785.37Kで21分
785.37Kでキープ時間は13分
785.37Kから485.4Kで34分
485.4Kから300Kで55分
「難攻不落の鉱石をボクが攻略してみせる。作業開始!」
246分後。
「これで終わりだ!!」
焼成炉は黄金色に光り輝き、天使が舞い降りてきた。
『ムンリルインゴット、100%の神品質』
「やった……ついに……攻略できたんだ。このボクが……初めてこの頂に立つことができたんだ……よっしゃ───!!!」
すぐさまボクはマオさんに連絡。
『マオさんのおかげで神品質のムンリルを作ることができました。本当にありがとうございます』
『力になることができて、私も本当にうれしいわ』
『急いで神品質の武器を作るので、ちょっと待っててください』
「よし、作業開始」
「鍛冶スキル・発動」
神品質のムンリルインゴットを双剣の型に入れ込む。
「鍛冶スキル・双剣・製作」
『月の銀の双剣、100%の神品質』
「鍛冶スキル・終了」
「マオさんのための武器はできた。だけど、これだけだときっとダメかもしれない」
マオさんは歌って踊れて戦えるアイドルもやっている人だ。マオさんほどの美貌や実力があっても、埋もれてしまうのがアイドルの厳しい世界。
だから、もう一歩だけ前に出る何かが必要なんだ。
それをボクが準備できるのなら、してあげたい。
「マオさんのために……」
ボクは先程手渡せなかった最高品質の武器を作業台の上に乗せた。
「鍛冶スキル・分解」
『ムンリルインゴット、99%の最高品質』
「鍛冶スキル・終了」
「よし、次は……」
ボクはアイテムを作り上げて、再びマオさんのところに向かい始めた。
「お待たせしました」
ボクは神品質の月の銀の双剣を手渡した。
「これで私も生まれ変われるはず。ありがとうね」
「あとこれも……」
ボクは先程作ったアイテムをマオさんに手渡した。
「これは?」
「これはネコ耳です。剣士用の隠遁アイテムです」
インビジブルストレイキャット、不可視の迷い猫と呼ばれるモンスターの素材とムンリルインゴットを組み合わせて作る頭飾り。
「ベータ版では効果が薄いとして見向きされなかったアイテムですが、それはムンリルが最低品質のものだったからです。最高品質のものなら、その効果は絶大なはずです。それに……」
「それに?」
「マオさんには似合うかなって思って……」
ボクの頭の中では、奇妙な夢で見たネコ弁護士の姿がマオさんと被ってしまう。
「あとですね、中国語でマオって猫っていう意味があるんですよ」
「へー、そうなんだ」
「ボクも人並みですが、アイドルの世界のことはわかってるつもりです。だから、マオさんにはもう一つの武器が必要だと思っています」
「もう一つの武器?」
「インパクトのある二つ名……ネコ魔王・岩永マオっていうのはどうでしょうか?」
マオさんは驚いた表情を見せながら、少し頷き始めた。
「たしかにアイドルで魔王を名乗るのは勇気が必要そうだけど、良い案かもしれないわね。それに……」
「それに?」
「このアイテムがあれば、さらに先のステップを何段も飛ばして、翔け上がることができるわ。まさか、こんなにも早く死獣に挑戦できるとは思ってもみなかったわ」
死獣に挑戦する。その言葉が意味するのは、このゲームにとっては重い言葉になる。
12死獣の中でも最弱のボスと呼ばれているのはネズミの死獣、七福の虹鼠。
このボスを倒すことができるなら、ボクにとっても何段も飛ばしてステップを翔け上がることになる。
「ハヤトくん、一緒に行くわよ」
「はい!よろしくお願いします」
ボクとマオさんは北の王国にあるネズミエリアへ向かい始めた。




