5話 ★
西の王国の鍛冶屋についたボクは急いで作業準備をし始める。
作るのは銀狼の牙を使ったシルバーハンマー。
ボクは作業台にハンマーの型とポンチの型を置いて、作業開始。
「鍛冶スキル・発動」
銀インゴットは粘土のように柔らかくなり、形を整え成形し、ポンチの型にはめる。ハンマーの持ち手に銀狼の牙を使い、頭の部分に合うようにハンマーの型に組み合わせる。
「鍛冶スキル・ハンマーとポンチ・製作」
『ハンマーとポンチ(銀狼)、100%の神品質』
「鍛冶スキル・終了」
銀色に光り輝く牙の持ち手と銀色のヘッドは白銀の世界へ誘うようなハンマーに思えた。
「よし、次は銀狼のマントの作成だ」
銀狼の毛皮と銀を加工して、銀狼のマントを作る。
このマントと神品質のシルバーハンマーがあれば、ムンリルゴーレムを一撃で倒すことができる。
「よし、作業開始」
「採取スキル・魔法のジョウロ・発動」
作業台にある桶に水と銀狼の毛皮を入れて、丁寧に揉んでいく。
徐々に毛や脂が手にまとわりついて、妙にヌメヌメしてきた。そこまでリアルに寄せなくてもいいのに。
この工程で皮を革に変える『なめし』が完了する。
「実際のなめし工程はもっと複雑で大変だし時間もかかる。ゲームではここまでは凝らなかったんだろうな」
しばらく揉んでいると、皮についていた毛や脂分もなくなり、見慣れた革の質感に。
「次はこの革に銀を塗装する。革の表面は銀面と呼ばれてるけど、そこに銀を塗装していくなんて……なんかオシャレだね」
革を広げて、銀を丁寧に塗っていく。
「よし、完成だ」
『銀狼のマント、95%の最高品質』
「やっぱり毛皮の品質が95%だったから、神品質は無理だったか。まぁ、仕方ない」
これで準備は完了した。
「よし、行くとするか。もうだいぶ遅い時間だが、明日に持ち越しているヒマはない」
ボクは再び鉱山のある南の王国に向かい始めた。
「よし、到着だ」
着いたのはムンリル鉱石の文字が描かれた扉の前。ムンリル鉱石は銀の上位鉱石。
扉を開けると、中にいたのはやはり強そうな人達ばかり。
その中にはマオさんの姿があった。
「やっぱり来た。ハヤトくんなら来ると思ってた」
「どういうことですか?」
「今ってもう遅い時間でしょ?さすがに無理矢理連れ回すわけにもいかないじゃん」
「たしかにそうですね」
「ってことで、さっさと最奥まで行くよ」
ムンリル鉱石は月の銀とも呼ばれるまことの銀。その鉱石はシルバーハンマーじゃなきゃ採取ができない。
それにここにいるムンリルゴーレムはアクティブモンスターなので、鉱石採取とモンスター退治を同時に行う必要がある。
なので、ここにいる人達は強力な装備をした魔法使いと生産者達。
正式リリース直後だから、ここにいる人達は大手クランに属している人達ばかり。
剣士のマオさんと銀狼のマントを羽織っただけのボク達はかなり浮いた存在で、多くの人達がこちらを気にしているようだった。
そんな状況の中で、ボク達は最奥に到着。
最奥には誰もいなかったが、先程の強そうな人達の光景が頭の中にチラついてしまう。
鈍臭いボクが本当にムンリルゴーレムを一撃で倒せるのだろうか。
そんな状況を察したのかマオさんが話しかけてきた。
「ハヤトくんの今の装備なら大丈夫だと思うけど、なんかあったらすぐに助太刀するからね」
マオさんの声かけにボクの心は少し落ち着きを取り戻し、ボクは神品質のシルバーハンマーを取り出し、戦う準備をし始めた。
シルバーゴーレムは何も気付くことなく隙だらけ。
ボクはひっそりと近づき、渾身の一撃をゴーレムのコアに叩き込む。
「ゴォ……ォ……」
ムンリルゴーレムは動きを止め、静かに倒れ込んだ。
「マオさん、ボク倒せましたよ」
「頑張ったね。品質は大丈夫そう?」
「やってみます」
ボクはそのまましゃがみ込み、ゴーレムのコアを採取する。
『ムンリルゴーレムのコア、99%の最高品質』
マオさんがいたおかげもあって、ボクは精神的に落ち着くことができ、今までで1番スムーズに倒すことができた。
嬉しさのあまりボクのテンションは最高潮に。
「マオさん、やりましたよ!最高品質です!!」
「ちょっ、声が大きいって!」
「す、すみません」
「もぅ~、まだ目立つのは早いんだからさ。気をつけてよね」
「す、すみません」
「とりあえずお疲れ様でした。武器作り頑張ってね。あっ、でもさすがにもう無理しないで、ちゃんと寝てね」
「はい、お疲れ様でした」
ボクはマオさんと別れたあとに、ムンリル鉱石を採取し、南の王国の鍛冶屋へ移動。
「ボクには寝てるヒマなんてないんだ。マオさんに最高の武器をプレゼントするんだ」
ボクはムンリル鉱石を手に取り、ジッと眺め始めた。
「いよいよだ……この難攻不落の鉱石をついに……」
ムンリル鉱石の焼成は難しく、ベータ版の時は誰が挑戦しても最低品質のものしかできなかった。
ムンリル鉱石の融点は銀と同じ。これは情報屋調べでわかっている。
「神品質の銀インゴットを作ることはできたんだ。でも一筋縄ではいかないというのもわかっている。まずは銀と同じ焼成方法でやってみよう」
銀は絶対温度で黄金比1.618で作られた温度カーブが最適だった。
銀の焼成レシピ
300Kから485.4Kで55分
485.4Kから785.37Kで34分
785.37Kから1270.72Kで21分
1270.72Kでキープ時間は13分
1270.72Kから785.37Kで21分
785.37Kから485.4Kで34分
485.4Kから300Kで55分
「まずはこの方法から始めるぞ。作業開始」
「集中スキル・タイムアンドサーモス・発動」
焼成炉に入れられたムンリル鉱石は黄金螺旋を描く温度カーブと共に焼成されていく。
233分後。
「これで終わりだ!!」
焼成炉には天使が舞い降りてくることなく、焼成は終了。
『ムンリルインゴット、99%の最高品質』
「やっぱり神品質は無理だったか。残り1%。これからボクの挑戦が始まるんだ」
意気込んだは良いものの、美しい温度カーブを描くような案は浮かばないままタイムリミット。
クソッ、どうしたらいいんだ。
「とりあえずマオさんに報告だ。できることなら神品質を作りたかったが、仕方ない。それだけムンリル鉱石の焼成が難しいんだ」
『すみません。最高品質のムンリルインゴットしかできませんでした』
『ん?最高品質しかできないってどういうことかな?それより上位の神品質を作れなかったって読み取れるんだけど』
やってしまった。神品質のことは黙っていようと思っていたのに、バレてしまった。
ピコン
マオさんからメッセージが届いた。
『詳しい話は直接聞こうと思うから、今日はもうゆっくり休んでね。疲れたままだと頭はちゃんと回らないからね』
『わかりました』
マオさんとのやりとりを終えて、ボクは近くの宿屋のベッドに横になり、眠りについた。
~~~
帰宅したバナナ裁判長は家のカーテンを閉めた時、ふとカーテンの波を見てしまった。
「ウニの履歴書を忘れてきてしまった」
そう呟きながらお風呂に向かうと、湯船の中ではたこ焼きが三味線を弾いていた。
「ちょっと今チューニング中なんで」
と言われたバナナ裁判長は風呂のドアを静かに閉めた。




