4話 ★
南の王国の鍛冶屋に着いたボクは急いで銀鉱石の焼成準備をし始める。
スマホを取り出し、情報屋に質問しながら焼成条件を決めていく。
このゲームでの情報屋はAIのビッグデータを活用しているので、なんでも教えてくれる。
「融点は961.78度。最大膨張点は特になくて930度くらいと推定される……この計算で温度カーブを作るとすると……」
自動焼成モードでも焼成できるが、より良い品質を作るなら手動で焼成条件を設定していくしかない。
「この温度カーブは美しくない!」
鉄の時はもっと美しい黄金螺旋の温度カーブだった。
「下手なものを作ったら、きっとマオさんはガッカリするはずだ。考えろ、知恵を振り絞るんだ」
目を閉じて、頭をフル稼働させて、思考を巡らせる。黄金螺旋のイメージをしながら考える。
「……今の考え方はセルシウス温度での考え方だ。これを絶対温度で考えてみるとどうなるんだろうか」
セルシウス温度は水を基準にした温度。0度で凍り、100度で沸騰する温度を基準としたもの。
絶対温度は絶対零度と言われる温度が0度とされるケルビン温度。
「常温を300Kと考えて、そこに黄金比の1.618を当てはめると……できたぞ!これは美しい黄金螺旋の温度カーブだ!!」
300Kから485.4Kで55分
485.4Kから785.37Kで34分
785.37Kから1270.72Kで21分
1270.72Kでキープ時間は13分
1270.72Kから785.37Kで21分
785.37Kから485.4Kで34分
485.4Kから300Kで55分
「よし、作業開始だ」
「集中スキル・タイムアンドサーモス・発動」
焼成炉に入れられた銀鉱石は黄金螺旋を描く温度カーブと共に焼成されていく。
サービス開始からすでに何時間も経過し、ボクの疲れもピークになっていた。
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ふと、気がつくと裁判所に呼び出されていた。
カーテンの波が強すぎたからだと言う。
バナナ裁判長は半分脱皮しながら席につき、呟いた。
「この部屋の湿度ならお前は傘だ」
ネコ弁護士は2回鳴いて反論したが、たしかに今日のぼくは傘だった。
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「やばい!ちょっと寝てしまってた……ってなんだか変な夢を見た気がするけど……っていうかもうすぐ焼成も終わる」
焼成開始から233分後。
「これで終わりだ」
焼成炉は黄金色に光り輝き、天使が舞い降りてきた。
『銀インゴット、100%の神品質』
「よっしゃぁ──!今回も大成功だぁ!!」
ボクはスマホを取り出し、マオさんに報告する。
『銀鉱石の焼成終わりました。今回もバッチリ成功しました』
『私の目に狂いはなかったようね。すぐに戻るから、そこで待っててね』
『了解です』
ボクはスマホをしまい込み、次の作業に取り掛かり始めた。
「次はエナジーチャージの作成だ」
ボクは作業台にシルバーゴーレムのコアとエナジーチャージの型を置き、作業開始。
「鍛冶スキル・発動」
ゴーレムのコアは粘土のように柔らかくなり、形を整え成形し、エナジーチャージの型にはめる。
「鍛冶スキル・エナジーチャージ・製作」
『エナジーチャージ(銀)、99%の最高品質』
「鍛冶スキル・終了」
銀色に光り輝く水晶のようなアイテム。エナジーチャージは消耗品で1セットで1000回使用できるアイテム。
「これで準備は完了。あとはマオさんを待つだけだ」
鍛冶屋の外に出ると、ちょうどマオさんがこちらに来るのが見えたところだった。
「お待たせ。ハヤトくんならわかってると思うけど、一応確認ね。ターゲットはシルバーサーベルウルフ。場所は西の王国の犬エリア。オッケー?」
「はい、大丈夫です」
ボク達は南の王国から北上し、始まりの街まで戻ってきた。そこから西方向へ向かって歩いていく。
やがて大きな中央街道が見えてきた。
そこには矢印看板があり、ここから北に行くと最強の矛、白虎のテンブが守護する虎エリア。
南に行くと死獣・月影の白兎が守護する兎エリア。
そのまま西に行くと西の王国の街があり、さらにそこから西に行くと死獣・月の銀狼が守護する犬エリアがある。
「よし、西の王国の街に到着」
4大死獣の一人、月の銀狼の象徴は遠距離。
この街には遠距離攻撃を主体とする狩人が多く、生産者のボクと剣士のマオさんは少し浮いた存在のようにも思えてしまう。
「ここには用はないから先を急ぐよ」
「は、はい」
ボク達は西の王国の街をそのままスルーし、シルバーサーベルウルフのいる犬エリアに向かって行った。
「皮と牙には傷付けないように討伐するからね。戦闘モードに入るから、ハヤトくんは下がってて」
「はい」
戦闘モードに入ると途端に変わるマオさんの雰囲気。
「二刀流スキル・オン」
「エナジーチャージ・セット」
「二刀流・一点集中モード・セット」
溜めモードに入ったマオさん。戦闘モードに入った事に気付いたサーベルウルフはマオさんに襲いかかってきた。
迫り来るサーベルウルフをギリギリまで引きつけてヒラリと躱す。
「二刀両断!」
首元に2本の刃が襲いかかり、サーベルウルフはそのまま倒れてしまった。
「戦闘モード・オフ」
「はい、おしまい。こんな感じでよかったかしら」
サーベルウルフの首元には一本の切り口。正確無比な二刀流の太刀筋はサーベルウルフの牙も毛皮も傷一つつけることはなかった。
「バッチリです。これから採取作業に入ります」
「採取スキル・錬金ナイフ・発動」
ボクの手には錬金ナイフが具現化。サーベルウルフの死体からは無数の輝く点が見えてきた。
頭の方にあるいくつかの点は牙の採取の点。身体の方にある並んだ点は毛皮の採取の点。というよりその並んで見える点の姿は点というより線。
まずは剥ぎ取りしやすいように頭と胴体を切り離す。サーベルウルフの首の所に錬金ナイフを差し込み首を切断。
牙の採取はベータ版の時でもほとんどやった事のない作業。なので先に毛皮の採取から始める。
身体から見える輝く線に沿ってナイフを差し込み毛皮を切り離す。
「よし、サーベルウルフの毛皮をゲットだぜ。品質はどうだ?」
『銀狼の毛皮、95%の最高品質』
「最高品質で採取出来たのは、マオさんが傷一つ付ける事なく倒したおかげだな」
次はサーベルウルフの牙の採取。牙の採取は不慣れな作業。慎重に行おう。
牙の近くにある輝く点にナイフを差し込んでいき、皮を剥いで頭蓋骨を取り出す。
「次は牙の取り外しだが、ナイフでいけるのか?」
輝く点にナイフを差し込んでも簡単に採取できる感じがしない。
どうする?
このまま強引に力を込めてナイフを差し込めば採取出来るとは思うが、品質が落ちるような気もする。マオさんがせっかく傷一つ付ける事なく倒してくれたサーベルウルフだ。
どうする?
ナイフがダメだとすると……
試しにハンマーとポンチでやってみるか。
この方法は聞いたことがないが、やる価値はあるはずだ!
「採取スキル・鍛冶ハンマー・発動」
ポンチを輝く点に当ててハンマーで叩くと、手ごたえは良好。シルバーウルフの牙が綺麗に離れた。
『銀狼の牙、95%の最高品質』
「よし、やったぞ。モンスターの剥ぎ取り採取でハンマーとポンチを使うって聞いた事なかったが、このやり方で成功したみたいだな」
パチパチパチパチ
マオさんが拍手してくれている。その音はボクの心に響いてきた。なんだか照れるなぁ。
「モンスターからの採取作業でハンマーを使う人は初めて見たかも。さすがは最高品質を作れる人って感じだね」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、次の準備できたらすぐに連絡ちょうだいねっ」
「はい、わかりました。じゃあボクはこれで失礼します」
「頑張ってね。私はちょっと違う用事があるから、ゴーレムの乱獲はできないけど、よろしくね」
「はい、わかりました」
優しい目をしたマオさんに見送られながら、ボクは西の王国の鍛冶屋へと向かい始めた。




