3話 ★
始まりの街は現世の国の中央にそびえ立つ大きな街。
現世の国には東西南北に王国があり、それぞれの方角に12死獣と呼ばれるボスがいる。
その中でも4大死獣と呼ばれるボスは最強クラス。太陽の金猿と月の銀狼、不死の朱雀と無敵の青龍。龍が桃太郎だとすると残りの3体は犬、猿、キジ。
「これから向かうのはシルバーゴーレムのいる鉱山だ。場所は南の王国の鳥エリア」
始まりの街から南方向へ向かって歩いていくと、大きな中央街道が見えてきた。
そこには矢印看板があり、ここから東に行くと死獣・煉獄の牛鬼が守護する牛エリアへ。
西に行くと死獣・堕天の猪豚が守護する豚エリアへ。
南に行くと南の王国の街があり、そこからさらに南下すると死獣・不死の朱雀が守護する鳥エリアがある。
火の鳥が死んだ山から沢山の鉱石が見つかったという設定のため、鳥エリアは鉱山地帯でもある。
「よし、南の王国の街に到着。ここはやっぱり魔法使いの人が多いなぁ」
正式リリース直後だから、街にはローブを着て杖を持った人が沢山いる。
それは不死の朱雀の象徴が魔法だから。
鉱山地帯にいるゴーレムは魔法に弱く、鳥達は様々な魔法を使う。
少数だが初期装備の人も見える。ボクもその中の1人。大手のクランに属せず、スタートダッシュを決めるためにろくな装備を整えずに来る生産者。
でもボクだけは見た目は初期装備だけど、神品質のハンマーを持つ。ボクだけが……
「今はこの街には用はない。先を急ぐとするか」
ボクは南の王国の街を出て、さらに南下するとゴツゴツと岩肌をむき出しにした山々が連なる山脈地帯が目の前に現れた。
その山脈に多くの人が向かっていく。ボクもその後をついていくと、矢印看板が見えてきた。
右手側に行くと鉱山地帯。左手側に行くと鳥エリア。
ボクは迷わず右手側に足を向け、しばらく歩くと鉱山の入り口が立ち並ぶエリアに到着した。
入り口の扉には銀鉱石、金鉱石など様々な鉱石の名前が並んでいる。
その中の銀鉱石と書かれた扉を開け、中に入ると一瞬の暗転。気付くとゴーレムと戦う魔法使いや鉱石採取する人など多くの人が行き交う光景が目に入り、鉱山の洞窟の中はかなりの明るさがあった。
「ボクの目的は最奥にいる最高品質のコアを持つシルバーゴーレムだ」
鉱山は奥に行けば行くほど、採取できる品質がアップするという特徴がある。
正式リリース直後だから、多くの人は金策のために品質よりも量を求めて、奥に行く人はボク以外にはいないように思えた。
ひっそりと誰にも気づかれないまま奥に足を運ぶと、段々と人の姿も少なくなり、入り口付近とは違う暗い雰囲気が立ち始めていた。
「そろそろ一番奥のはずだけど……ん?何か激しい戦闘をしてるような音がする」
そのまま最奥に到着すると、そこには1人の綺麗な女性の剣士がシルバーゴーレムを乱獲していた。
よく見ると二刀流の剣士で、流れるようにゴーレムの腕を掻い潜りながら、的確にコアにダメージを与えて倒している。
「たしかに剣士の人はゴーレムのコアを消耗品として使うけど、開始直後ならまだ店売りのアイテムで良いはずなんだけどなぁ」
ゴーレムのコアはエナジーチャージという消耗品の素材になる。このアイテムは一回の攻撃を強化する効果がある。
ちなみにだが、このアイテムは次の目標を達成するために必要なアイテムでもある。
「でも、二刀流だったら消耗する量は普通の人の倍になるから、自分で採取した方がコスパが良いのかもしれないな」
ボクは乱獲するお姉さんの邪魔にならないように端をコソコソと歩いて、シルバーゴーレムと対峙する。
見習い生産者のマントの隠遁効果もあって、シルバーゴーレムは隙だらけ。
「戦闘開始」
作ったばかりの神品質の鍛冶ハンマーを取り出すと、シルバーゴーレムがピクリと反応を見せ、戦闘体勢に移り変わった。
「えっ、なんで……来るぞ、うわっ!!」
ブンッと音を立てて迫り来るゴーレムの腕をボクは防ぐことができず、吹き飛ばされてしまった。
「マントの隠遁効果が消えたのは、もしかしてコイツのせい?」
ボクは神品質の鍛冶ハンマーを見つめ、ギュッと握り直した。
「コイツは一撃で倒せる武器だから、仕方ないか……」
シルバーゴーレムの動きは遅く、腕の動きをちゃんと見極めば、鈍臭いボクでも倒せるはず。
「よし、いくぞ!」
ブンブンと振り回される腕を掻い潜りながら、光り輝くシルバーゴーレムのコアに一撃を叩き込む。
「ゴォ……ォ……」
コアにダメージを受けたシルバーゴーレムは動きを止め、静かに倒れ込んだ。
「ふぅ~、なんとか倒せたぞ」
ひと息ついたその瞬間、何か視線を感じてしまう。
ここにはボクと綺麗な女性しかいない。となるとこの視線の正体は……
「ちょっとアンタ、大丈夫?ゴーレムの攻撃に当たる人なんて初めて見たんだけど!具合でも悪いの?」
後ろを振り返ると、そこには腰まで伸びた金髪の綺麗なお姉さん。鎧の上からでもその存在を感じ取れる大きな胸。
「えっ?具合は悪くないですけど……」
「何っ!じゃあ、ただ鈍臭いだけってこと?なんだ、心配して損したじゃん」
「邪魔してすみません。コアの採取終わったら帰ります。なんかすみませんでした」
ボクはそのまましゃがみ込み、シルバーゴーレムのコアを採取。
『シルバーゴーレムのコア、99%の最高品質』
その瞬間、綺麗なお姉さんはボクの手元を覗き込むようにして、身を乗り出してきた。
「最高品質だ。ゴーレムの攻撃に当たった時はどうなるかと思ったけど、よく見てたら一撃で倒したんだよね」
「あっ……」
「シルバーゴーレムを一撃で倒して、最高品質のコアを採取ってどうやったらできるのかな?シルバーハンマーだとオーバーキルで最高品質のコアは取れないよね?」
このお姉さん、一体何者なんだ?剣士の人がそこまで詳しく知ってるなんてありえないぞ。
「もしかして……最高品質のアイアンハンマーなのかな?」
最高品質ではなく、神品質です……とはさすがに言えないな。
「……はい。そうです」
「ねぇ、私と取り引きしない?お互いがウィンウィンになる取り引き。次のステップを考えると私の力があった方がスムーズに行くと思うんだよね」
「えっ、なんでそれを……」
次のステップはシルバーウルフから採取出来るアイテムが必要。でも今のボクにはシルバーウルフを倒す手段がない。
そのアイテムを買うために、最高品質のゴーレムのコアを売って金策をする予定だった。
このお姉さんはそれすらもわかっている。一体何者なんだろ?
「誰だってできることなら最短距離で狙いたいよね。銀の上位鉱石のムンリル鉱石」
「えっ……」
ボクが思ってた以上にこのお姉さんは上を見てる人だ。
ボクはシルバーウルフの皮を使った銀狼のマントのことしか頭になかった。銀狼のマントは見習い生産者のマントの上位アイテム。
このアイテムは武器も隠遁するので、確実にクリティカルが出すことができる。
でもお姉さんはその先も見ていた。シルバーサーベルウルフから採取出来る銀狼の牙のことも考えていたんだ。
銀狼の牙と銀鉱石で作る鍛冶ハンマーがあれば、ムンリル鉱石を採取出来る。
もちろんシルバーサーベルウルフからもシルバーウルフの皮は採取できるので、この1体を倒すことができるのなら、ボクにとっては理想的だ。
「じゃあお姉さんの望むものというのは、ムンリル鉱石を使った武器ということですか?」
「よくわかってるじゃん。さすがは最高品質のハンマー作れる人って感じだわ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ、取り引きは成立ってことでいいかしら?」
「はい、よろしくお願いします」
「私は岩永マオって言うよ。よろしくね。はい、じゃあこれ、登録お願いね」
「三上ハヤトです。よろしくお願いします」
マオさんはスマホを取り出し、フレンド登録申請をしてきたので、ボクもスマホを開いて承認する。
このゲームではスマホでフレンド登録、アイテム管理など行うようになっている。フルダイブ型のゲームだからスマホ型のデバイスの方が使いやすいのだ。
「でなんだけど実は私、バリドルをやってるの。そっちの登録もお願いね~」
ゲーム空間の中で活動する歌って踊れて戦うアイドル、バーチャルリアルアイドル。略してバリドル。
「わ、わかりました」
ボクはスマホを操作し、チャンネル登録する。マオさんのチャンネル登録者数はまだ三桁台で人気者とはいえないレベル。
「あー、今大したことないって思ったでしょ」
「そ、そんなことないですよ」
「これでも色々考えてるんだよ。ここで戦っていれば、きみのような優秀な生産職の人がやってくるだろうって思って、ここで待ってたの」
「そ、そうだったんですね」
「自分でいうのもなんだけど、私は実力はあると思ってるの。でも一人では限界もある。大手のクランに入れれば良いんだけど、そう簡単なことではない。だから知恵を絞って考えるしかないの」
この人の考えはボクと似てるのかもしれないな。
「でも、ようやく巡り会えた。最高品質のアイテムを作ることができる超優秀な生産者に巡り会うことができたの」
マオさんの瞳は少し潤んだようにも見える。きっと相当な苦労をしてきたんだろうな。
「ってことで、これからよろしくね。で、このあとのことなんだけど、ハヤトくんが銀鉱石の焼成をやっている間、私はハヤトくんの金策のために、ここでゴーレムを乱獲しようと思ってるわ」
「えっ、なんでボクのためなんですか?」
「なんでって、これから先の段取りを考えたら、ハヤトくんの金策を優先した方が良いでしょ?私はエナジーチャージと武器があれば金策なんて必要ないし」
「そう言われると、たしかにそうですね」
「ってことでハヤトくんは銀鉱石の焼成を急いでね」
「わかりました」
ボクは鉱山の壁から銀鉱石を採取し、急いで銀鉱山を抜け、南の王国の鍛冶屋へ向かい始めた。
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ふと、気がつくとぼくは駅のホームに立っていた。
駅のホームでは巨大なバナナが電車を待っている。
周囲の人々は誰も気にしておらず、バナナはスーツケースを持っていた。
電車が来ると、バナナは無言で乗車し、アナウンスが繰り返される。
「次は惑星チーズ、惑星チーズ」
気づくとぼくはバナナになっていた。




