14話
狂戦士熊、ベルセルクを倒せばバーサーカーモードになれるスキルを入手できる。
バーサーカーモードは多重攻撃を可能にする近距離スキル。2回攻撃できるブルームーンハニーの強化版と言ってもよいスキルだ。
本来なら、正式リリース直後に取得できるスキルではないし、取得できても効果を100%発揮できるものではない。
だが、真夏ヨム様は驚異的な身体能力でそれを可能にしている。
動画配信の映像でしか観たことはないが、その動きは精密機械のように正確にモンスターの急所を捉え、多重攻撃する様は千手観音の如く腕が何本もあるようにも見えた。
それを間近で観ることができるなんて、今日はなんて素晴らしい日なんだ。
「ハヤトくん、それではいくよ」
「お、お願いします」
優しい表情のヨム様の雰囲気はガラッと変わり、無表情になった。
「ビーストモード・発動」
そこには楽しそうにモンスターを倒す姿はなく、ただ残酷に冷酷に殺戮をするマシンのようにも思える動きだった。
この動きを見て尊敬する人はするだろう。でもボクは違う。この人は近寄ってはいけない人だ。
マオさんの動きとは似てるようで全然違う。マオさんは苦戦してても、もっと楽しそうに動いて倒してた。
「ビーストモード・終了」
気付くとヨム様は狂戦士熊を倒し終わっていた。
「ベルセルクモードも併用できてたら、もっとすごいものを魅せることができたんだがスキルを取る前だから、こんなもんだろう。で、ハヤトくんは私の動きを見て、どう思った?私のクランに入りたいと思ったかい?」
やっぱりヨム様の狙いはこれか。
「やっぱりボクはヨム様のクランに入りたいとは思いません。スローライフでいきたいと思います。ボクはそろそろ龍泉水を採取しようと思うので、これで失礼いたしますね」
「そうか、残念だ。それとなんだが、戦っている時も気になってたんだよ。なぜ君は龍桃水ではなく、龍泉水を採取しようと思っているのかを」
ヨム様がなんかまた勝手に深読みし始めてるよ。ボクはただ鈍臭いから戦闘が必要な龍桃水を自力で採取できないだけなのに。
「君が龍泉水で十分だと思うのは、鬼イベントで龍桃水が報酬としてあるからだね」
鬼イベント。それはこのゲームにおいて重要なイベントでもある。
赤鬼、青鬼、白鬼、黒鬼の四人が襲来するイベント。
赤鬼は一撃火力重視。遠距離攻撃のプレイヤーが有利なイベント。
青鬼は防衛作戦。生産職が有利なイベント。
白鬼は魔法力重視。魔法使いのプレイヤーが有利なイベント。
黒鬼は殲滅力重視。近距離攻撃のプレイヤーが有利なイベント。
そして、次に行われる鬼イベントは黒鬼襲来と告知がされている。
鬼イベントはボクのような生産者はサポートすればポイントが稼げるようになっている。
ランキングに載れば、大手クランからのスカウトも期待でき、マオさんもこのイベントを頑張るために策を考えて行動していたのだ。
もちろんランキングに載れば、豪華な報酬が待っている。
ヨム様が言っている龍桃水の報酬は決して豪華な報酬というわけではない。むしろ誰もが見向きもしないような報酬だ。
だけどヨム様はそんな報酬まで把握している。ボクも見落としていたくらいだ。
というか、そこで龍桃水を取れるならそれが一番理想的なのかもしれないな。
そのあとの攻略を考えると、黒鬼イベントは龍桃水が取れるくらいの頑張りで十分だ。
鬼襲来イベントではマイファームを持っている人は素材採取の面でかなり有利になる。
ベータ版の時はマイファームを手にすることができなかったため、ボクは苦い思いをしてきた。
でもヨム様のおかげでこの先の攻略の道筋が見えてきたぞ。
「ハヤトくん、君の考えてることは素晴らしいな。君の行く末には期待してるよ。それでは私もそろそろ失礼するよ」
「こちらこそ、素晴らしいものを観せていただきありがとうございました」
「君にはまた会いたいものだな。それでは失礼する」
ヨム様は帰り際もカッコよかった。男の中の男。そんな言葉が似合う人なのに……なぜだろう。ボクはまた会いたいとは思えない。
いつかボクの前に強敵として立ちはだかるかもしれない。そんな気がする。
最強プレイヤーと最弱の鈍臭いボクがどういう形で対決するのかはわからない。
だが、そう思ってしまう自分がいる。
「さて、そろそろ龍泉水の採取に行くか」
ピコン。
[マイファーム所持者が一定数を超えたため、鬼襲来イベントが行われます]
「思ったよりも早く来たな。ボクも急いで準備に取り掛からないと」
ボクは龍泉水を採取し、急いでマイファームへと戻った。




