13話
魔法のジョウロを最高ランクにするためには『太陽の禊』と『月の禊』というアイテムが必要になる。
だけど、鈍臭いボクが一人で採取することは不可能だ。
だから今は龍泉水で魔法のジョウロをパワーアップさせるところなのだ。
「よし、龍エリアに到着だ」
龍エリアは12支に入れなかった動物をモチーフにしたモンスターがいるエリア。
九尾の狐など死獣並みの強さを持った魔物がいるエリアでもある。
「危険なエリアではあるが、ボクにはこれがある」
隠遁の効果がある銀狼のマントは風に揺られ、ヒラリヒラリと揺れ動いていた。
「これはマオさんとの大切な思い出でもあるんだ……あっ、そうだ。このエリアで今のボクにもできることがあるな」
熊スポットにいるブルームーンベアが隠し持っているブルームーンハニー。
ブルームーンは一か月の間に2回満月のある時の2回目の満月を意味するのだが、このゲームではブルームーンは2回攻撃を意味し、ブルームーンハニーを食べれば2回攻撃できるようになる。
二刀流のマオさんが使えば、4回攻撃になり、さらに火力アップになること間違いなし。
ベルセルクモードというスキルを覚えれば、さらに火力アップになるが、それはまだまだ先の話。
このスキルは使いこなすのも難しく、唯一使いこなせるのは最強トッププレイヤーの真夏ヨム様だけといわれている。
真夏ヨム様は野獣化と呼ばれるビーストモードと狂戦士化と呼ばれるベルセルクモードを同時に使いこなし、拳武器で戦うプレイヤー。
このゲームでの拳武器は斬撃属性と打撃属性を唯一合わせ持つ武器でもある。
そこに属性魔法を付与し、無双する様は多くのプレイヤー達を魅了してきた。
「少しでもマオさんがヨム様に近づくことができるようにボクも頑張るとするか」
ボクは龍泉水の採取を後回しにして、熊スポットに向かうことにした。
熊の魔物は月の魔力に弱いため、銀狼のマントを装備していれば見つかることはない。
ゆっくり探すヒマはあるけど、鈍臭いボクではヘマをして、魔物に見つかる可能性がある。
慎重に、だけど時には大胆に探索を開始する。
熊スポットにある木を一本ずつ丁寧にのぞいていくと、ようやく青いハチミツの姿が見えた。
「よし、これでオッケーだ」
ボクはブルームーンハニーを採取すると、何やら背後に気配を感じてしまった。
恐る恐るゆっくりと振り返ると、そこには熊がいた。青い熊。
なんで見つかった?ボクは何もしてないぞ。
そう思った次の瞬間。青い熊はゆっくりと倒れ込み、そこには熊のような体格をした一人のプレイヤーが仁王立ちで立っていた。
「ようやくブルームーンハニーを見つけたと思ったが、君に先を越されてしまったようだな」
そこに居たのは真夏ヨム様だった。
「邪魔してすみませんでした。こちらはお渡しします」
「そんなことをする必要はないよ。こういうのは早いもの勝ちだ」
「でも……」
「気にする必要はない。話は変わるが、君はもしかして三上ハヤトくんかい?」
な、なぜ真夏ヨム様がボクの名前を知っているんだ。ヨム様は最強トッププレイヤーだぞ。
「不思議そうな顔をしているな。レオからすごい優秀な生産者がいるという話を聞いたのだ」
そういえば、レオさんはヨム様の武器も作っていると聞いたことがあったな。
「トップ生産者のレオが優秀だというのなら君の実力はよっぽどのものだろう。もし良かったらウチのクランに入らないか?」
えっ───!
最強クランからのお誘いだ───!!
だが、断る!!!
「申し訳ありませんが、ボクはそんなに優秀な人物ではございません。お誘いはありがたいのですが、お断りさせていただきます」
最強クランは常に最強を求められるもの。だから、プレッシャーは相当なものだと思うんだよね。ボクはそういうの苦手なんだよね。
「そうか、残念だ。それなら、一つ貸しを作っておきたいのだが、それくらいは良いかな?」
貸しを作るってどういうことだろう?
「生産者の君がここに来るってことは『月の禊』が目的なんだろ?」
たしかにそうだが、ボクにとってはそれは最終目標だ。っていうか現時点で月の禊を採取できるプレイヤーはいないはずだが……この感じだとヨム様は採取できるってことなのかな?
「たしかにそうですが、今回の目的はブルームーンハニーと龍泉水を採取したら帰る予定です。月の禊の採取は強くなってから、後で取りに来ます」
「そうか……でもたしか龍泉水より龍桃水の方が良い素材だと思っていたが、なぜ龍泉水なんだ?龍桃水くらいは今でも採取できるだろ」
「それは……」
ボクが鈍臭いから戦闘が必要な龍桃水を採取できないということは秘密にしておこう。
「ボクはこのゲームではスローライフで活動していきたいからです。それがヨム様のクランに入らない理由でもあります」
「ハハっ、面白いことを言うんだな。ここにいる時点で、どの生産者よりも先を行っているのにスローライフを語るとは面白い。ますます気に入ったぞ」
えっ?
「鉱山が人でかなり溢れかえっていることを君は知らないようだな。正式リリース直後で想定の何倍もの人が一気に押し寄せているんだ。だからここに来れるのはマイファームを手にし、鍛冶ハンマーと錬金ナイフを強化した者だけだ。トップ生産者のレオがまだここに来ていないのは、レオはまだ錬金ナイフの強化が終わっていないということなのだよ」
たしかにヨム様のいう通り、トップを走る人なら錬金ナイフも上位クラスのものを準備してから、ここに来るはず。
ボクはマーケット買える下位クラスの素材で錬金ナイフをパワーアップさせただけだから、みんなより早くここにたどり着いただけなのに、ヨム様は何か勘違いをしてしまっている。
「誤解です。ボクの錬金ナイフは下位クラスのものです。だからレオさんより上ってことはありません」
「ほぅ、ますます面白いな。今の時点では錬金ナイフは下位のもので十分だということもわかっているのだな。それに気付いている者が私以外にいるとは思ってもみなかった」
えっ?
たしかに言われてみれば、攻略順序を考えると上位クラスの錬金ナイフはまだ必要ないように感じるな。
普通は鍛冶ハンマーを上位クラスにしたら、錬金ナイフも上位クラスにするって思ってしまうものだ。
だけど、錬金ナイフはまだ下位で十分。ボクもそこまで考えてはいなかった。
っていうか、ヨム様の誤解がますます深まっていってるよ───!
「面白い!君がここまで優秀な人物だとは思ってもみなかった。もしよかったら、間近で私の戦いを観てみるかい?それくらいなら貸し借りはなしでいいだろ?」
えっ!最強トッププレイヤーの戦いを間近で観れるの?それは是非とも観てみたい。
「見せてくれるのであれば、観てみたいです」
「それでは、私に付いてきてくれ」
ボクはヨム様のあとを必死に追いかけ、狂戦士熊のいる場所に向かって行った。




