1話
「バナナ裁判長、死んじゃダメだ!!!」
またいつもの夢を見る。
あの奇妙な夢を。
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ボクの名前は三上ハヤト。ボクがハマっているフルダイブ型VRMMOゲーム『黄泉の国の桃太郎』。この度、オープンベータ版が終わり、正式リリースされることになった。
このゲームの桃太郎はイザナギが黄泉の国に投げ入れた桃から生まれた桃太郎。ゲームのプレイヤーは黄泉の国の桃太郎と共に鬼を倒すストーリー。
このゲームはスキルレベル制になっていて、500ポイントの振り分けによって職業が変わるシステムを採用している。
スキルレベル100で100%能力を発揮するシステムなので、基本的にはみんな5つのスキルを選ぶ。
攻撃スキルは近距離、遠距離、魔法の3種類ある。
盾や二刀流など近距離向けのスキルや魔法職向けの神聖魔法や暗黒魔法、召喚魔法などさまざまなスキルがズラリと並ぶ。
そんな中からボクが選んだのは、テイマー、集中、採取、鍛冶、錬金、軽装スキル。
この組み合わせは純生産職と言われるスキル構成の中でもテイマー型生産職と呼ばれるもの。
テイマースキルは20ポイント振り分けるとペットが飼えるようになる。
集中はMPの回復を早める効果がある補助スキルなので80ポイントを振り分ける。
防御スキルの軽装は物を多く持てるという利点があるので100ポイント。
採取、鍛冶、錬金は生産スキルなので100ポイント。
生産職のメリットはマイファームと呼ばれる自分だけの牧場を入手することができる。このマイファームは育てる要素があるのもやりがいポイントのひとつなのだ。
そして、効率良くマイファームを手に入れるためにはスタートダッシュが肝心。
「でも、ボクは鈍臭い人間。だから、知恵を振り絞る必要があるんだ」
マイファームの生産はAIのビッグデータを活用したリアル志向。
鍛冶スキルや錬金スキルの奥が深く、オープンベータ版では誰も最高品質を作ることができなかった。
ボクは誰よりも早く最高品質のアイテムを作り、誰よりも早くマイファームを入手するんだ。
そして……
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「8時55分。そろそろゲームを始める準備をするか」
9時から黄泉の国の桃太郎のゲームが正式リリースされる。そのフルダイブ型ゲームを始めるためにボクは専用のカプセルに入った。
「ゲーム起動・黄泉の国の桃太郎」
ボクの言葉で目の前の景色は一瞬の暗転。五感の全てはゲームと接続し、目の前に広がる辺り一面真っ黒な空間。
闇の中でシーンと静まり返る空間にボクの胸の鼓動だけがハッキリと脈を打つ。高まる鼓動を抑え、少し待っていると、目の前に黄金色に光り輝く桃太郎が現れた。
「黄泉の国の世界へようこそ。貴方には現世に行ってもらい、鬼達からこの世界を救ってもらいたい。貴方はこの世界に慣れるためのチュートリアルは行いますか?」
正式リリース直後だから、ほとんどの人はベータ版をやっていてスタートダッシュをするためにチュートリアルを飛ばしてしまう。
「ボクはチュートリアルを行います」
だけど、ボクはやる。その理由はチュートリアルをやると、スタートダッシュに必要な鉱石を最短で入手することができるから。でも、こんなことを思ってるのは、きっとボクだけだ。
「わかりました。貴方は純生産職のスキル構成ですね。薬草と鉄鉱石を奉納すればチュートリアルは完了です。それでは頑張って下さい」
一瞬の暗転。目の前にはリアルな街並みが広がり、後ろを振り向けば爽やかな風が吹き抜ける草原の世界。
ベータ版でもチュートリアルをやっているので、素早く移動開始。
「まずは薬草採取からだ」
街に入ることなく後ろを振り返り、草原へ足を運ぶ。
チュートリアルの草原にはアクティブモンスターは現れず、周りにプレイヤーもいない。
ボクは誰の目も気にすることなくゆっくりとしゃがみ込んだ。
「ここでの採取はチュートリアル仕様だから、サクッと終わらせるぞ」
目の前にある葉っぱの部分には触れないように根元を持ち、薬草を引っこ抜いた。
『薬草、50%の普通品質』
アイテムの品質は7段階。100%の神品質から始まり、最高品質、高品質、普通品質と徐々に下がっていく。
採取スキルが100レベルでも最適な方法で採取できなければ品質は下がってしまう。
「薬草の次は……鉄鉱石採取だ」
草原から少し南下すると、人ほどの大きな岩が見えてきた。これは鉄鉱石が採取出来るチュートリアル用の岩。
「採取スキル・鍛冶ハンマー・発動」
ボクの手には小型のハンマーとポンチが具現化し、握られる。ポンチは金属に目印をつけるための小道具だ。
採取スキルの発動で岩のところどころに輝く点が現れた。
「この光ってるところにポンチを当てて、ハンマーで叩く」
カンッ、カンッ、カンッ
『鉄鉱石、99%の最高品質』
「よし、あともうひとつ採取だ」
ひとつは奉納用のため。もうひとつはアイテム作成の分のため。
ボクは再びハンマーとポンチを使って鉄鉱石を採取した。
「あとはこれを桃太郎の像のところに持って行ってチュートリアルは終了だ」
ボクは街に戻り、中心部にある桃太郎の像に薬草と鉄鉱石を奉納する。瞬時に真っ黒な空間に飛ばされ、闇の中では黄金色に輝く桃太郎の姿があった。
「チュートリアルお疲れ様でした。貴方のような純生産職の人は現世で生き抜くのは大変でしょう。ですので、見習い生産者のマントをプレゼントします。低レベルのモンスターに見つからなくなる効果がありますので、上手く活用してください」
『見習い生産者のマントを入手しました』
「それでは現世での鬼退治頑張ってください」
そう言われると、ボクは始まりの街に飛ばされた。
「よし、次は鍛冶屋に行って、アイテム製作だ。そして……」
ボクはギュッと拳を握りしめた。
「見せてやる、ボクの知恵の結晶を。そして、ボクが一番に手にするんだ、禁断の黄金の果実を!」
ボクの冒険はこれからだ!!
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この時のボクはまだ知らなかった。
ナンセンス保護法案の対象人物になっていることに。




