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第6話 呪われたあの子は厨二病でした!

「うるっさいな〜」


 俺はやかましく響く警報に快適な睡眠を妨害されて心底ドタマに来ていた。


 とはいえ、なにやら異常事態らしいので冒険者(見習い)らしく一応外に飛び出して慌ててみせる。


「な、何が起こったんだ!?」


 などと大袈裟に騒いで周りを見渡すと、街のあちこちの地面から白い何かが這い出てきていた。


「街が襲撃されてる!? やっべぇゾ!」

「なにやってんだ、早く逃げるぞ!」


 街の危機に俺様のチカラが求められ——んん〜? よく見ると周りの反応が、なにやらおかしいぞ。


「うおおおお!! スケルトン狩りだぁぁぁ!!」

「いくぞお前らァ! レベリングタイムだー!!」

「経験値はカスみてえなもんだが、塵も積もればなんとやらァ!!」


 (多分)新米冒険者たちが、嬉々として骨の塊に突っ込んでいく。


「なんなん、これ?」


 俺とタクヤが呆然としていると、リーシャが思い出したように口を開いた。


「あー、今月もこの時期が来たのね。理由はわからないけど、定期的にあるイベントみたいなの。スケルトンは弱いから、新人のレベル上げに丁度いいんだって」

「なんだよ、驚かせやがって。この街も終わりかと思ったぜ」


 民に向けてそれっぽいこともキメ顔で言っておいたし、俺の冒険者評価もこれで鰻登りだろう。


 実際、スケルトンの骨野郎はあり得ないくらい弱かった。剣で斬れば一撃で崩れるし、初級魔法でも簡単に倒せている。獲得経験値が微々たるせいか、中級以上の冒険者たちに至っては酒場のテラスで酒を飲みながらヤジを飛ばすという完全なる見物モードをかましている。


 とはいえ、この街の見習い代表を仰せつかる俺たちにとっちゃ見逃せない大チャーンス!


「ボーナスタイムじゃん。ジャンジャン稼ごうぜ!」

「ひき肉にしてやんよ!」


 ノロマなスケルトンは、都合のいいカモそのものだった。



◇ ◇ ◇



 骨をバキバキと砕き散らかしながら俺たちは、それはもう調子に乗っていた。


「オラァ! 雑魚どもがっ!」

「いくら湧いても無駄だぜっ!」


 ハイテンションで暴れまくるイケてる俺たち。お決まりの呆れ顔をこっちに向けるリーシャのことなど、気にも止めてやらない。なんせ我々は今、お楽しみ中なのだ!


 そんな時だった。


「——待て」


 絶好調な俺に水を差すように、タクヤが急に動きを止めた。


「どうした?」

「なんか……変な声が聞こえる」


 ふむ。 言語理解スキルか。タクヤのアホ面が珍しく真剣になっている。


「スケルトンの声でも拾ったのか?」

「いや、違う。この骨共は『コロス……コロス……』みたいな戯言しか吐いていない。この声は、もっと別の……なんというか、人格を疑うような貴賤じみた声だ。お前たちも聞いてみてくれ」


 言語理解のスキルが俺たちにも共有される。すると——


《ケケケ……今日こそあのアホ女を……》


 おや?


《我が眷属ども……あの女を始末しろ……そして、この俺様を今宵こそ自由の身にするんだ!》


 なにやら物騒なことを宣っている輩の声が、直接脳に響いてきた。それにしてこの声色、めちゃくちゃに不愉快である。


「うわぁ、なにこれ……」


 さすがのリーシャさんもコレにはご不快のご様子。


 汚らしい声に導かれ、音が大きくなる方向へ渋々移動すると、辿り着いたのは見覚えのある場所だった。


「……留置所じゃん」

「俺たちがこの間捕まっていたところだな」


 下卑た声はさらに奥から聞こえる。進んでいくと——あの牢の前に出た。


 銀髪赤目の女。呪われた貴族の娘。彼女は静かに座っていた。前に会った時には見えていなかったが、その首には——骸骨の形をした怪しげな首飾りがかかっていた。



◇ ◇ ◇



「あの首飾りだ」


 タクヤが小声で言った。


「あれが喋ってる。前のスライムにも劣らない気色の悪い野郎だ」


 俺は眉をひそめた。首飾りが喋る? んなアホな……


《このアホ女め……早くくたばれ。くたばって俺様を解放しろ!》


 本当だった。聞こえてくる内容は実に穏やかではないが。


「おい、なんだこれ。殺意がとどまることを知らねぇぞ」

「てか、このスケルトン騒動、持ち主の始末が目的なのかよ!」

「あの子、危ないんじゃない?」


 珍しく察しのいいリーシャが眉をひそめた。 俺は牢に近づいて、声をかけた。


「おい、お前」


 銀髪の女——オルファが、ゆっくりとこちらを見た。


「……なに」


 "冷たい"というより、無感情な声。他人に興味がないって感じの反応だった。


「その首飾り、お前のか?」

「……ええ」


 見間違いか? オルファの目が、微かに輝いたように見えた。


「かっこいいでしょ?」


 ——ん?


「この禍々しいフォルム! 骸骨を模した漆黒の意匠! まさに『死を司る者の証』と呼ぶにふさわしい逸品っ!!!」


 急にめっちゃ喋り出した。


「この首飾りはね、私が幼い頃に手に入れた、唯一無二の『闘争の遺産』なの。持つ者に呪いと祝福を与える、禁忌のアーティファクト……!!」


 オルファの目がキラキラ輝いている。さっきまでの無表情はどこへやら、なにか変なスイッチでも入ってしまったようだ。


「……え、なにこの子」


 あのリーシャですらドン引きしている。


「な、なななな……」


 タクヤのアホが人見知りを発揮し出したので一旦休憩入りますーーー!



◇ ◇ ◇



 さて。本当は触れたくもないのだが、仕方ない。本題に入るか。


「おい、その首飾りの話だけど」

「……なに。私の『死霊の首輪』に何か用?」


 まだそのテンションなのか。


「そいつ、お前のこと始末しようとしてるぞ」

「……え?」


 状況を見たタクヤが説明を加える。


「俺のスキルの『言語理解』で聞こえたんだ。『あのアホ女をやっちまえ、そして俺様を解放しろ』って。それはもう殺気騰騰(さっきとうとう)極まりないぞ!」


 オルファが目を見開いた。——が、次の瞬間。


「……そんなわけない」


 謎に即答だった。


「……この子は私の半身。私に害をなそうなんてありえない」


 オルファが首飾りを愛おしそうに撫でている。


「いや、マジなんだって!」

「ありえないわ」


 先端の骸骨を愛でながら、うっとりした顔でオルファは断言する。その眼はマジにヤバいタイプのアレな感じだった。


「この死霊の首輪は私を選んでくれた。私だけを。呪いに愛された『呪われた貴族の娘』であるこの私が……自分の呪いに狙われるなんて、そんなことあり得るわけないでしょう?」


 ——どこから来るんだその自信は。


「てかお前、『呪われた貴族の娘』って呼ばれてるの知ってたのか?」

「ええ、もちろん」


 オルファが誇らしげに言い放つ。


「私が広めたもの」

「は??」

「だって、かっこいいでしょ? 『呪われた貴族の娘』——闇に愛された者の証!!」


 絶句。まさしくこの二文字である。この女、まさか自分で吹聴していたとは。


「いや、お前。それが原因で周りから避けられて、孤独になったんじゃないのか?」


 タクヤの問いにオルファが黙った。


「それは、その……」


 目が泳ぎ散らかしている。図星じゃないか。


「なんて人騒がせな!」


 俺は確信に至った。こいつはやべぇ。

 

 呪いに始末されかけてるのに気づかない。自分で変な噂を広めて勝手に孤独。極めつけに厨二病全開で周りをドン引きさせる。問題児オブ問題児だ。最悪である。


 さらにマズいことに、隣でリーシャのアホが、なにやら感動した顔で物言いたそうにしている。ものすご〜く嫌な予感がビンビンする。


「すごいわ、この子。なんて屈強な精神なの!?」


 やっぱりか……


「だって、周りから避けられてでも、自分の信念を貫いてるのよ? 呪いに愛されてるって信じて疑わない。その揺るぎない強靭な心意気……私、感動しましたっ!」


 ——単に鈍感なだけの厨二病だろ! と言ったところで脳内お花畑のボンクラには伝わるまい。


「ねぇ、オルファ。あなた、私たちのパーティに入らない?」


 ほぉ〜らきた。俺、絶対そうくると思ってたもんね! 暴走魔法少女のくせにプライドだけは一丁前に高いリーシャのことだ。同じような志(笑)を持つものには確実に惹かれる。マジに勘弁してほしい。


「リーシャ、勝手なメンバーの勧誘はよせ」

「でも、この子一人じゃ可哀想でしょ? 私たちが仲間になれば、もう孤独じゃないわ!」


 俺はオルファに視線を移す。こいつは紛うことなき問題児だ。パーティに入れたら絶対に面倒なことになる。これは予想ではない、約束された未来なのだ。


「俺は反対だな。見るからにヤバそうだし」

「何言ってんのよ! 私たちだって問題児でしょ!」

「バカいえ。"仮に"そうだとして、これ以上増やしてどうする!?」


 一時の気の高ぶりでパーティメンバーを決めるなどまさに愚行! 浅慮の生きた見本である。いかなる時でも冷静な俺は、そんな愚かな選択などしない。


 俺とリーシャが言い争ってると、タクヤが俺の肩を叩いた。


「おいユウヤ、借金の頭数増えるぞ?」

「うん、採用!」


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