第4話 酒浸しになりました!
再び街の外壁に出て、スライムと対峙する。相変わらずの巨体が、一丁前に殺意を込めてこっちを見ていた。
「スライムにしては大きいわね! 下がってなさい。私が片付けるわ!」
リーシャが前に出て詠唱を始める。
「『炎よ、我が手に集え——』」
魔力が渦巻く。相変わらず凄まじい力だ。よし、このまま一撃で——
「……ちょっと、時間稼いでくれない?」
「はぁ!?」
詠唱に集中したまま、リーシャが言い放った。
「訓練所で見たでしょ? 私の魔法は詠唱に時間がかかるのよ。その間、あのスライムを引きつけておきなさい!」
「そんな余裕、あるわけねぇだろ!!」
スライムが酸を吐いた。俺とタクヤは必死に逃げ回る。
「早くしろぉぉぉ!!」
「も、もうちょっとよ……!」
逃げ惑いながら、俺たちは叫び続けた。
「ファイヤボールとかでいいからさっさと撃てよ!! まずは小技で足止めすんのが戦闘の常識だろ!!」
「……使えないのよ」
リーシャの声が、少し沈んだ。
「あのゴリラにも言われたけど、私、魔力制御ができないの。ファイヤボールを撃とうとしても、全魔力使って勝手にこの魔法になっちゃうのよ」
——ん?
「つまり、自由に魔法が使えないってことか?」
「……そういうこと」
「……お、お前もカスじゃねぇかー!!」
「うるさいわね!! あんたたちよりマシでしょ!!」
罵り合いながらも、俺たちは必死に時間を稼いだ。酸を避けて、体当たりも避けて、命からがら脱兎の如く逃げ回る。
「詠唱完了よ!」
リーシャの声が響いた。待ってましたァ!
「『イグニス・インフェルノ』!!」
轟音と共に、灼熱の炎がスライムを呑み込んだ。爆風が俺たちを襲って、熱波が肌を焼く。そして——スライムは跡形もなく消滅してた。
「「す、すげぇ……」」
俺とタクヤは、その圧倒的な火力に言葉を失っていた。
「ふふん」
リーシャがドヤ顔で振り返る。煤けた髪をかき上げる仕草がなんかカッコいい。
「これが本物の魔法よ。感想は?」
「やっぱ威力だけは流石だな!」
「マジですげぇわ!」
「報酬は9:1でいいわよ? もちろん私が9ね!」
リーシャが訳のわからんことを宣いだしたので、俺たちは無視して即刻帰ってやった。
こうして、俺たちは初めてのクエストを達成したのだ。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルド内の酒場は、その夜、かつてない盛り上がりを見せていた。
「いよっしゃあああああ!! かんぱーーーい!!」
ジョッキがぶつかり合う音が店内に響き渡る。俺たちは初めてまともに稼いだ金で、祝勝会を開いていた。報酬自体は大したことないけど、ドブさらいに比べりゃ天と地の差だ。
「おい、マルクス、ダリオ! お前らも飲めよ! 今日は俺たちの奢りだ!」
「マジか!? ユウヤさん太っ腹ァ!!」
「さっすが俺らのユウヤさんだぜー!!」
同期の見習い冒険者どもが群がってきて、酒場は一気に宴会場と化した。
「おいおい新人ども、聞いたぞ! 変異種のスライムを倒したんだって?」
カウンターで飲んでいた先輩冒険者が、ニヤニヤしながらこっちに来た。
「よくやったじゃねぇか! 俺からも一杯奢ってやる!」
「「マジっスか!? ありがとうございます!!」」
「新人の初勝利は全力で祝うのが冒険者ってもんよ! 店主、こいつらに酒追加!」
「あいよー!」
次から次へと先輩冒険者たちが酒を運んできて、テーブルの上はあっという間にジョッキの山になった。
「飲め飲めい! 若いうちはいくらでも飲めんだろ!?」
「ほらタクヤ、お前も遠慮すんな!」
「い、いや俺はそんなに強くはな——「いいから飲め!!」
「ぐえっ」
タクヤの口に無理やりジョッキが押し込まれる。
「ユウヤさん、俺にも奢ってくれよ!」
「俺にも俺にも!」
「んも〜う! しょうがねぇなァー!! 今日は気分がいいから、好きなだけ飲めぇい!!」
「「「「「うおおおおお!! さっすがユウヤさんだぜー!!」」」」」
調子に乗った俺は、気づけば財布の中身を全部吐き出していた。まあよい。初勝利をあげた今日くらいは豪遊してもバチは当たらんだろ!
「ほら、リーシャも飲めよ! お前のおかげで勝てたんだからさ」
同じテーブルで一人静かに飲んでいたリーシャにジョッキを差し出す。
「はぁ……これだから男って生き物は」
リーシャは呆れた顔で溜息をついたが、差し出されたジョッキは受け取った。
「まあ、奢りなら貰っておくけど」
「素直じゃねぇなァ〜!」
「う、うるさいわね!」
俺でなきゃ見逃しちゃうところだったが、リーシャの口元は少しだけ緩んでいた。案外こういうノリも嫌いじゃないらしい。
「よーし、次は一気だ一気!!」
「「「「「一気! 一気! 一気!」」」」」
屈強な男たちが音頭を取って、店内が大合唱になる。
「いくぞタクヤ! 負けた方が次の奢りな!」
「は!? ちょ、待っ——「「「「「一気!一気!一気!」」」」」
周りの声援を受けて、俺とタクヤは同時にジョッキを煽った。喉を焼く酒が胃に落ちていく。ちょーキモチええ! 最高にハイってやつだ!!
「ぷはぁ!! 勝った!!」
「うぐ……げほっ……卑怯だぞ、いきなり……」
むせ返り、地に伏すタクヤ。
「うおおおお!! ユウヤ、てめえやるじゃねえかこの野郎ー!!」
「アザッス先輩!!」
リーシャが「本当にバカね……」と呟きながらも、どこか楽しそうに俺たちを眺めている。
ンフーッ! コレっすよコレ! やっぱこういうのが俺が夢見た異世界ライフっすわー! 仲間と酒を酌み交わして、冒険の成功を祝う——
「悪くないじゃん、異世界生活!!」
俺はジョッキを高々と掲げて叫んだ。酒場中から歓声が上がる。
◇ ◇ ◇
同じ頃、ギルドの奥。
ガロンは部下から届いた調査報告書に目を通してた。
「あの変異種を倒したか、ガキどもにしてはやるじゃないか」
2メートル級のスライム。通常種とは比べものにはならない凶暴さと耐久力を持つ、Bランク相当の魔物だ。それをFランクですらない"冒険者見習い"が倒したのは素直に評価できる。
だが……報告書の最後のページを見て、ガロンの表情が曇った。
「被害報告」
そこには、無慈悲な一文が記されてた。
『周辺農地の麦畑——全焼』
ガロンは深い、深い溜息をついた。




