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喋る柴犬、ドロップキック  作者: 木村文彦


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2/2

◇放課後

「久しぶりに部活の練習がないよ!」

 里緒奈が跳ねるように喜び、教室の空気が明るくなる。

 玲奈は扉にもたれ、指先を唇に当てながらその様子を眺めていた。

 哲は玲奈の隣で、少し照れたように立っている。


「尊すぎるわ」

 玲奈の視線は哲ではなく、なぜか里緒奈に注がれていた。

 徹は、玲奈の視線にどこか妙な熱を感じた。


「それより徹、どうしたの?」

 机に座っていた徹を、上から里緒奈が覗き込む。

「いや……なんか、ずっと柴犬が『ひゅーひゅー』って鳴いてる気がするんだよ」

「犬なんていないってば」

 その瞬間、徹の足元に「コツン」と何かが当たった。

「え?」

 里緒奈が拾い上げたのは、小さな赤い首輪だった。

 新品のように綺麗で、柴犬サイズのものだ。


 ――どうして、こんなものが落ちている。


「ひゅー……ひゅー……」

 途端に、今度は徹の耳元で囁かれたように聞こえた。

 心臓が跳ね、背中に冷たい汗が流れる。

「おい、徹? 顔色が悪いぞ」

 哲が眉をひそめる。

「いや、なんでもない。なんでも……」

 徹は曖昧に笑い、首輪をポケットに押し込んでいた。


 その時、渡り廊下の端で影がひとつ、ゆっくりと立ち上がった。

 柴犬のようなシルエットが、夕陽に照らされて揺れた。

 誰も気づいていない。

 徹だけが、その影と目が合った気がして、息を呑む。

 夕陽に照らされたその影は、まるで徹を待っていたかのように動かなかった。


「ひゅーひゅー」

 その影は、笑っているように見えた。

 影は、徹の視線を受けたかのように、ぶるぶると震え始めた。


 ――まさかその場で、柴犬がダンスでもしているのか。



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