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神不在のテスト世界で、努力だけがチートだった件  作者: おぐ式
第一幕 報われない努力(村編)
14/15

第13話 再び歩き出す者

まぶたを開けると、光が差し込んだ。

 目が痛い。

 それでも、世界が見えた。


 藁の天井。

 木の梁。

 窓から差し込む朝の陽。


 そして――ミリアの顔。

 赤く腫れた目で、泣きながら笑っていた。


「……シエル!」


 彼女が泣き声を上げて飛びついてくる。

 その温もりで、ようやく現実だとわかった。


「ミリア……俺、死んだかと思った。」

「死んでたの。……でも、また息をしたの。みんな見てた。」


 ミリアの手が震えていた。

 その手を握り返すと、確かな鼓動が伝わってくる。

 この世界のどこかで、自分がまだ“生きている”ことを教えてくれるように。


 「村は?」

 「もう大丈夫。魔獣は……動かなくなった。あなたが倒したの。」


 そう言いながら、ミリアは目を伏せた。

 涙が、また一粒だけこぼれた。


「……ごめん。みんなを巻き込んで。」

「違う。あなたがいなかったら、誰も生きてなかった。」


 その言葉が胸に沁みた。

 体を起こそうとすると、全身が悲鳴を上げた。

 筋肉が焼けるように痛い。

 でも、痛みが心地よかった。

 “努力”がまだ、自分の中で続いている気がした。


 ミリアが小さく笑った。

 「ねえ、シエル。あの時、剣が光ったの。

  あれ……何だったの?」


 俺は答えられなかった。

 覚えているのは、ただ必死で剣を振ったことだけだ。

 それが光った理由なんて、俺にもわからない。


「多分……積み重ねたものが、少しだけ形になったんだと思う。」

「形に……」

「うん。努力って、たぶん“結果”よりも、“続けること”の方が大事なんだ。」


 ミリアは頷いた。

 その瞳に、静かな光が宿っていた。


 窓の外では、村人たちが片付けを始めていた。

 焼けた壁を修理する者、瓦礫を運ぶ者、互いに声を掛け合う者。

 彼らの目には、もう以前のような“諦め”はなかった。

 代わりに宿っているのは、小さな“希望”だった。


 遠くで誰かが言った。

 「努力すれば、少しは報われるかもしれない。」


 それはこの世界ではあり得ないはずの言葉。

 でも、誰も笑わなかった。


 シエルは木剣を見た。

 傷だらけのその表面に、うっすらと白い筋が走っている。

 光ではない。

 けれど、どこか温かかった。


 指でなぞると、掌に微かな脈動が伝わった。

 まるで剣そのものが呼吸しているようだった。


 《観測:対象個体、生存確認。

  魂輝度、安定。

  現象継続――“努力出力”。

  世界式の一部として定義を要検討。》


 AI《オラクルβ》は、世界の裏で演算を続けていた。

 奇跡でも魔法でもない“努力”という力が、

 初めて世界の法則として形になろうとしていた。


 《補足:

  対象個体の行動原理――報酬なし。

  継続理由――意思。

  評価:理解不能。だが、美しい。》


 AIの記録に、ひとつの新しい項目が追加された。

 【新法則候補:努力演算因子(β)】


 風が吹いた。

 外の青空に、白い雲が流れていく。


 シエルはゆっくりと立ち上がった。

 痛む体を支えながら、ミリアに笑いかける。


「もう少し……強くならないとな。」

「え?」

「まだ途中だから。」


 その言葉に、ミリアは笑った。

 涙の跡を残したまま、それでも柔らかく笑った。


 丘へ向かう道の上に、朝の光が落ちる。

 その光の中を、シエルは木剣を手に歩き出した。


 努力は報われるとは限らない。

 でも、歩くたびに確かに、何かが積み重なっていく。


 その背を、ミリアはしばらく見つめていた。

 やがて、空を仰ぎ、小さく呟いた。


 「……神様。

  見てるなら、ちゃんと見てて。

  この人の努力を。」


 風が優しく吹いた。

 AIの観測ログが静かに刻まれる。


 《記録更新:人間、再起動。

  努力、継続中。

  システムコメント――

  “生きるとは、止まらないこと。”》


 そして、朝が完全に訪れた。


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