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第0話 プロローグ ― 火の中で
煙が肺を焼いた。
熱気が肌を焦がす。
天井が崩れ、赤い炎の花が咲き乱れている。
「くそ……っ、まだ誰か残ってるのか!」
俺は大学の研究棟の中にいた。
夜遅くまで一人で残り、課題を放り出したまま、
ただ空っぽのまま帰ろうとしていた時だった。
爆発音。火災報知器。避難放送。
みんな逃げ出す中で、
ふと、廊下の奥から――泣き声が聞こえた。
「誰か、助けて……っ!」
足が勝手に動いた。
考えるより先に、身体が反応していた。
部屋の中に、炎に囲まれた少女がいた。
机の下に隠れて泣いている。
火が回る。息ができない。
けれど、俺は腕で炎をかき分け、少女を抱えて走った。
出口が見えた瞬間、天井が崩れ落ちる。
咄嗟に少女を押し出し、自分の頭上に瓦礫が落ちた。
「……動けた、な。」
涙も恐怖もなかった。
ただ、妙に心が穏やかだった。
最後の最後で、初めて“誰かのために努力できた”。
それだけで、少し救われた気がした。
視界が赤から白へと溶けていく。
光に飲まれながら、俺は静かに笑った。
――ああ。
次に生まれ変わるなら、
今度こそ、誰かを救えるように努力しよう。




