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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章「昭和記念公園スタンピード —迫りくる黒い波と光と闇の審判—」
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第93話

 ——第二波:混沌の渦——




 第一波の敵を撃退した瞬間、不吉な水音と共に新たな敵が現れた。


 昭和記念公園の日本庭園の池から生まれた水鏡映士ミズカガミエイシ

 体は透明な水で構成され、中に金魚や水草が漂っている奇妙な人型モンスターだ。


 その隣には木の枝と葉で形成された人型モンスター緑風守人リョクフウモリビトが控えていた。


「気をつけて、アスちゃん!」


 ククルが警告する。


「あれは水鏡映士と緑風守人ですわ。水鏡映士は分身して幻覚を生み出し、緑風守人は他のモンスターを回復させる厄介な相手ですの」


 エリカは一瞬、俺の方に視線を向けたが、アストラルの正体を見抜いてるような素振りは見せず、冷静に状況を説明していた。

 彼女の口調は社交界のパーティーにでもいるような優雅さで、この危機的状況とのギャップが奇妙だった。


「まあ、低ランクのデュオですわね。ですが、少し準備が必要ですの」


 エリカが優雅にカバンから二つのアイテムを取り出し始めた。


 一つ目は「グラナイトエクスカリバー」と呼ばれる、台座付きの奇妙な剣。そして二つ目は——



「こちらは『ヒートプレッサー』という名の高性能防御兵器ですわ」



 ——いや、どう見ても家庭用アイロンを10倍に拡大したような代物だった。



「どう見ても巨大なアイロンじゃねえか!!」


 俺の絶叫が戦場に響いた。思わず仮面の下で顔が引きつる。


 だが、それを聞いた一般人たちからは別の反応が。


「うおお、あの女の人二刀流?」

「台座付きの剣とアイロン!? 組み合わせが意味不明!」

「でも何かカッコいい……」

「Sランクのやることはわからねぇ……」


「攻撃は台座付きの聖剣で、防御はアイロン盾で対応いたしますの。敵の攻撃を受け止めると同時に、高温で相手をプレスする優れ物ですわ」


 エリカは真面目な顔で説明する。

 右手に台座ごと剣を、左手に巨大アイロンを構える姿は、優雅でありながら強烈にシュールだった。


 だが、そのツッコミを入れる暇もなく、水鏡映士が俺に向かって突進してきた。


「分かった」




 俺は集中力を高めようとしたが、突然視界が歪み始めた。

 水鏡映士の「胸像幻術」だ。目の前には別のアストラルが現れ、自分と同じ動きをしている。


「何だこれは……」


 しかし不思議なことに、ククルには幻影が見えているようだった。


「アスちゃん、ククルには分かるよ! 右にいるのが本体!」


 ククルの指示を信じて右を攻撃すると、水鏡映士の一体が弾けて消えた。

 だが攻撃を受けると分裂する性質があり、一体から二体に増えてしまった。


「クッ……厄介だな」


 周囲を見渡すと、他の探索者たちも同様に苦戦していた。

 水鏡映士の幻術で混乱し、緑風守人の「自然の恵み」でモンスターが回復していくため、一向に数が減らない。


 その時、エリカが動いた。


「皆さん、幻術に惑わされてはなりませんわ!」


 エリカは左手の巨大アイロンを盾のように構えながら、水鏡映士の水弾攻撃を受け止めた。

 アイロンの高温で水弾が蒸発し、白い蒸気が立ち上る。


 そして同時に右手の台座付き聖剣を振り上げ——


「グラナイトエクスカリバー・スマッシュ!」


 台座ごと振り下ろした剣が、混乱している水鏡映士の一体を粉砕した。

 台座から飛び散る岩の破片が衝撃波となり、周囲のモンスターにもダメージを与える。


「なんだあの戦い方……攻守一体って感じ……」

「常識外れすぎて逆にカッコいい……」

「さすがSランク探索者……普通の人には真似できない……」


 エリカは周囲の反応に気付きもせず、優雅に両手の武器を使い分けながら次々とモンスターを倒していく。


 左手のアイロン盾で敵の攻撃を受け止めては蒸発させ、右手の台座付き聖剣で反撃する——その動きは一見不格好に見えるはずなのに、彼女の手にかかると優雅な舞踏のようだった。


「さすがエリカさん。ククルたちに出来ないことを平然とやってのける」


 ククルが感心したように呟いた。


「どこかで聞いたことあるな、そのセリフ」俺は思わず突っ込んだ。


「えー、ククルのオリジナルだもん!」


 ククルが頬を膨らませる仕草を見せる。

 その可愛らしさに、戦場の緊張が一瞬和らいだ。


「アスちゃん、それよりもみんなの視界を確保しないと!」


 ククルが気を取り直して提案する。


 だが、緑風守人たちはまだ健在だった。

 植物系のモンスターには高温攻撃の効果が薄いようで、蔓攻撃で反撃してくる。


 エリカは左手のアイロン盾で蔓を受け止めながら、右手の台座付き聖剣を振り回す。


「まあ、植物系は物理攻撃が効果的ですわね」


 台座の重量を活かした一撃で、緑風守人の体幹を粉砕する。

 その様子は、まるで庭師が優雅に庭の手入れをしているかのようだった。


「すげー戦い方だな……」


 思わず感嘆してしまう。攻撃と防御を完璧に使い分ける技術は、俺にはとても真似できない。


「ククル、蔓の位置を教えてくれ!」


「はい! 右上から来て……今度は左! ……後ろ!」


 ククルの指示のおかげで、俺も緑風守人の「緑の鞭」を回避できた。


 俺は【クリティカル発生率+20%、クリティカルダメージ+25%】のスキルカードを発動させ、急所を狙う。


「影よ、光よ、我が手の内に集え! 【光明破天セイクリッド・ブレードライザー】」


 光の剣が現れ、緑風守人を両断する。


 だが、その時——緑風守人が最後の力で放った「毒の胞子雲」が俺たちに向かって飛んできた。

 範囲が広すぎて避けきれない。


「アスちゃん、危ない!」


 ククルが叫んだ瞬間、エリカが俺の前に立ちはだかった。


「これくらい、お安い御用ですわ」


 左手の巨大アイロン盾を大きく構え、毒の胞子雲を受け止める。

 アイロンの高温で胞子は瞬時に無害化され、蒸気となって立ち上がった。


 そして同時に、右手の台座付き聖剣を投擲——


「グラナイトエクスカリバー・スロー!」


 台座ごと投げられた聖剣が、最後の緑風守人を貫いて倒した。


「ありがとう、エリカ!」


 俺は思わず感謝の言葉を口にした。


「どういたしまして。ですが、まだ油断は禁物ですわ」


 エリカが振り返った瞬間、俺は彼女の微笑みに少しドキッとした。

 仮面をつけていて良かった——顔が赤くなっているのがバレずに済む。


 


 緑風守人が粒子となって消えた瞬間、奇妙な現象が起きた。

 まるで糸が切れた操り人形のように、残りの"黒いモンスター"たちの動きが急に鈍くなり、黒い霧が薄れていく。


「やった! 中央の指揮役を倒したんですね!」


 若い探索者が歓喜の声を上げた。周囲からも安堵の声が聞こえ始める。


「エリカの二刀流、マジでやべえ」

「台座付き聖剣とアイロン盾って組み合わせ誰が考えるんだよ」

「でも理にかなってるのが恐ろしい……」


 一般人たちの興奮した声が聞こえる中、俺は膝に手をつき、深く息を吐いた。

 額を伝う汗が仮面の内側を濡らす。


 魔力の消費は激しく、すでに半分近くを使ってしまった。手足の震えを抑えるのも難しい。

 ククルが心配そうに俺を覗き込む。


「アスちゃん、大丈夫?」


「ああ……何とか」


 そう答えようとした瞬間、背筋に電撃が走った。

 遠くから迫る不吉な気配。より濃く、より重い黒い霧の帯が地平線の向こうから這うように近づいてくる。


 第三波の"黒いモンスター"たち。

 短い勝利の余韻は、すぐに不安と緊張に塗り替えられた。


 だが、俺の心の中には新たな感情もあった——エリカの攻守一体の戦い方への純粋な憧れと、そんな彼女に守られた恥ずかしさが入り混じった複雑な気持ち。


 台座付き聖剣とアイロン盾を使い分ける彼女の姿は、確かにネタ臭いのに、なぜか格好良く見えてしまった。


 俺は拳を握りしめた。

 次の戦いでは、もっと活躍して見せる。アストラルとして、そして一人の男として。

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