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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第二章 「巾着田ダンジョン ―救うべき者と見捨てられた者―」
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第7話

「アスちゃん、みてみて~」

「なんだ?」

 呼びかけられた俺はククルの声がする方へ向かうと――――。


「かべしり~~」

 壁からお尻だけ突き出したククルの姿があり…………。

 俺は思いっきり尻をひっぱたいた。


「いたあ――――い! なにするの?」

「遊んでんじゃねえんだぞ、お前はあああっ!」

 

 こいつ完全に観光気分なってやがる!

 ここは命の奪い合いをする危険極まりない場所なんだぞ!


「ククル知ってるよ。男の人のエロってこういうの流行ってるんでしょ? だから喜ぶかなって」

「はっきり言うぞ。お前は確かに可愛い顔してるが、幽霊相手に絶対興奮しねえからな俺は」

 あとそういうのは抜け出せなくて抵抗出来ない状況を楽しむんだよ。お前のは絶対違うからな! 言わねえけど。


「え? ククル可愛い?」

「なんで喜んでんだよ。誉めてねえよ……」

 もう……こいつとまともに付き合っても疲れるだけだな……。次からは流そう。そうしよう。

 

 ククルはふわふわと人魂を飛ばしながら索敵してくれる。

 それだけでもかなり役に立つ技能だが、更にもう一つククルにだけにしか出来ない特技があった。



「アスちゃん、この壁の向こう側に宝箱とモンスターの部屋あったよ~」

 ククルは壁をすり抜けながら向こう側の情報を教えてくれる。

「……そうだな、せっかくだし収穫するか」

 本当は探索目的じゃないけど、何も問題なかった場合手ぶらで帰るのも骨折り損だしな。


 これが……もう一つのククルの特技。幽霊だからこそ出来る壁のすり抜けだ。

 ただ…………ククルの姿はモンスターに認識されてるみたいで、結構反応されてるんだよなあ。


 でも壁を抜けて逃げられるし、元々幽霊だからか攻撃されてもなんともないらしい。

 …………使いようによっては、もしかしたらチートサポーターかもしれん。

 これでうるさくなければなあ…………はあ……。


 更にククルは物を持ったり、軽ければ運ぶことも出来ることが分かった。

 ……端から見ればポルターガイスト現象なので、これは緊急時にしよう。

「ククル、幽霊のくせに物に触れるのか?」

「え? そうだよ? 幽霊だって物を動かせるの常識じゃない?」

「いや、普通の幽霊は念動力とかさ……」

「えー! 理屈っぽいよー」


 俺は首を傾げた。確かに映画の幽霊は物を投げたりするけど、ククルの場合は直接触る感覚があるらしい。

 まあ、幽霊の定義なんて俺にも分からないけど。

「ねえアスちゃん、幽霊ってさ、人の魂にも触れることができるんだよ」

「は? なに突然」

「なんでもないよ~。いつか役に立つかもって思っただけ~」


 ククルは何かを隠すように目をそらした。その一瞬、いつものふざけた表情とは違う、何か深い思いを秘めた顔に見えた気がした。

 だが本当に一瞬だったので俺はその変化を気に留めることはなかった。


「寄り道してたらあっという間に日が暮れるぞ。さっさと9層行くぞ」

「ラジャーっす!」


 俺たちはさっさと9層へ行くために歩を進めるのだった。




 ダンジョンに設定されたランクを厳守し、罠やボスなどの危険要素を前もって知識として取り入れ、危険を冒さなければ死の危険は少ない。

 だが……それでも探索者死亡者数は日本だけでも年5000人を超えている。

 そして志願者は減少傾向にあり、結果として探索者も減少し続けている。

 志願者が減っている一番の原因はやはり一瞬の油断で死んでしまうという危険極まりない仕事だからだろう。

 だが世界中の国々はダンジョンの素材を熱望している……探索者という職業は必要不可欠なものとなっている。

 その願いに対して俺が出来ることは探索者を命の危険から守ることだと思った。

 


 ――さて、広大な円形の空間が広がる9層に来たわけだが。

 

 探索者が来た形跡が…………あった。

 9層の中央には巨大な石造りの祭壇があり、その周囲に6つの道が放射状に伸びている。

 祭壇には風化した石像が祀られていて、まるで花の女神のようにも見える。祭壇の中心には大きな魔方陣が刻まれ、かすかに赤い光を放っている。


 ……そう。この魔方陣こそが、パーティーメンバーを分散させるトラップだ。


 中央にある魔方陣にパーティーメンバー全員が乗ることで発動する。

 しかも10層への道はこのトラップが一度作動しないと開かない。


 開かない、はずなのだが…………開いているのだ。


 つまり誰かがトラップ作動させているということだ。

 これが普通の探索パーティーなら「ラッキー! 10層へ直通だー」って感じて喜ぶべきなんだろうけどな。


 まず9層をぐるっと探索するか。それでなんともなければ帰ればいいんだ。

 ククルを単独で探索させれば効率いいかもだが、いざククルが異変を見つけても駆け付けるのが遅かったら意味ないしな。

 一緒に行動させよう。

 

 そう考えを巡らしてると――――。

 後ろで何か通った気配がした。


「?」

 振り返るが姿がない。今何かいたような気がしたんだが……?

「ククル、今、後ろになにかいたか?」

「? 後ろ見てないから分からないよー?」

 まあ、モンスターではなさそうだし、気にしなくていい、か?


 俺は荷物から衣装を取り出し、黒のとんがり帽子とマント、白マスクを身に纏う。

「不気味な魔術師、アストラル降臨……!」

「おおー! かっこいいーっ!」

 ククルが拍手して俺のカッコよさを褒めてくれる。

 うん、悪い気はしないな。



「では順番に見て回――――」

 その時、5人の探索者が分かれ道の一つから戻ってきた。


 ◇◇◇


 ああ、今度こそ終わったかもしれない――――。

 私は、分かれ道に飛ばされた先の部屋の隅で、膝を抱えうずくまりながら、目に涙を滲ませていた。


 どうして信じてしまったのか。

 間違いなく、誰も来ない。

 私は置いていかれた。

 貴重品も持っていかれ、スマホによる救助要請も出来ない――――。

 

 ただでさえEランクパーティーで9層に来る人なんて一日に一回来るかどうかではないのか。

 ましてや、6人以上のパーティーなんて――――。


 ここから命を賭けてでも突破するべきか。

 でも、武器はあの人たちに預けてしまった。武器無しでどう戦えと…………。

 勝ち目なんて万に一つもない――――。


「う、うう……」


 このままでは餓死確実だ。汚物にまみれながら骨と皮だけの醜い状態になり果てて苦しみながら死ぬなんて嫌だ。

 そのくらいならモンスターにやられた方がいいかもしれない。

 私はそう諦めをつけて、先へ進もうと立ち上がった。

 

 

 ドンッ!


 びくりと私は殺気を感じたウサギのように体を震わせた。


 ドンッ! ドンッ!


 音は先の石の壁の先から聞こえる。

 まさか……モンスターがこちらへ来ようとしているのか?


「あ……ああ……」


 もう、ダメだ……。私はここで死ぬ。

 この壁が崩れたら――――。

 そして…………。


 恐怖が爆発するかのように壁は破壊された。


「いやああああああっっ!!」

「…………そんなに怯えられたら、こちらも困りますよ」

「…………え?」


 成人らしき若々しい男の声に素っ頓狂な反応をあげ少女は視線をあげる。

 扉の先にいたのは…………時代劇から飛び出したかのような、股旅の男の人だった。


「怪我はないようでござんすな」

「え? …………え?」


 その男の顔が半分近く三度笠に隠れている。その男の目が見えるかどうかも微妙なところで、どんな顔つきをしているかは少女の視点からはよく見えなかった。


「あっしはハヤテ。救助に来ましたよ。あなたが良ければ地上まで送りましょう」

 

 少女は最初は状況が理解出来なかったようだが、救助に来たという言葉に反応できたのか、助かったという安堵とともに、すがるように強く股旅にしがみついた。


「あ、ありがとうございます! でも! 武器とかあの人たちが持ってって、多分先の10層へ――」

「今は装備よりも命を優先にしたほうがいい。それに…………」



「その人たちが10層に行くことは絶対無理でござんすよ」

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