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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第四章 「羊山ダンジョン —交わる夢と秘められた決意—」
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第41話

【阿須那視点に戻る】


「プククク……さ、作戦成功だね……フフフフ」


 ククルは笑いをこらえきれず、肩を震わせている。

 彼女の半透明の体が月明かりに照らされ、不思議な輝きを放っていた。


「お前まだ笑ってんのか……実は俺もひやひやしてたんだぞ。あいつが3層まで行くなんて予想外だった」


 阿須那は額に浮かんだ汗を拭いながら、魔銃をそっと懐にしまった。

 その滑らかな質感と微かな重みが、任務完了の安堵感をもたらしてくれる。


「だって……アハハハ!!」


 ついに爆笑してしまうククル。

 男の青ざめた顔を思い出すたび、新たな笑いの波が押し寄せる。


「ったく……でも本当にありがとう。お前の演出がなきゃ上手くいかなかった」


 空中を不気味に踊り回っていた武器は、全てククルの仕業だった。

 レンタルした武器をククルが操り、男の目には武器だけが宙に浮かんで見える——完璧な脅し作戦だ。


「ねえねえ、今回はククル大活躍だったんじゃない?」


 ククルの目がキラキラと輝いている。

 この表情は明らかなおねだりアピールだ。

 幽霊少女は俺の周りをくるくると回りながら、期待に満ちた表情で見つめてくる。


「分かったよ、日給200円でいいか?」


「うーん……もう一声!!」


「賃上げ交渉かよ……じゃあ250円。これ以上は無しだからな」


「やったー!」


 ククルは空中で小さな勝利のダンスを踊り始めた。

 その姿を見て、俺も思わず笑みがこぼれる。


 さて、この魔銃を返しにいかないとな——。


 

 ◇◇◇


 

 俺とククルは連絡した後、志桜里の自宅の前へ辿り着いた。


 豪邸……という程ではないがかなりでかい。

 結構裕福な出であることが伺える。

 門構えもしっかりとしていて、庭には手入れの行き届いた植木が並んでいる。

 夜の闇の中でも、家の温かな灯りが迎えてくれているようだった。


 俺は呼び鈴を鳴らし、用件を伝える。

 しばらくした後、志桜里が出てきた。

 彼女の銀色の髪が夜の光に照らされて、一瞬輝いたように見えた。


「阿須那くん」


 志桜里の声には驚きと喜びが混じっていた。


「こんな夜遅くにごめん志桜里。明日は約束があってどうしても会えないし、月曜日まで落ち込ませたままなのも気が引けた。どうしてもこのタイミングしかなかったんだ」


 自宅前へ来るのもどうかと思ったが、夜遅くに女の子を一人歩かせるわけにもいかない。

 両親の目が届くここで会ったほうが志桜里にとっても安心だろう。


「ううん、きにしないで。どうしたの?」


 志桜里は静かに問いかけた。

 その目には軽い不思議そうな表情が浮かんでいる。


「これを渡しに来た」


 俺は魔銃を志桜里に差し出した。

 月明かりに照らされた「スターバースト」の漆黒の銃身と深紅の宝石が、まるで生きているかのように輝いている。


 すぐに返ってくるとは思わなかったのだろう、志桜里の目は驚愕に見開かれた。


「お兄ちゃんの! どうして戻ってきたの? ……もしかして阿須那くんが」


「いや、俺じゃない。ある人が取り戻して俺に渡してくれたんだ」


「ある人?」

 志桜里は首を傾げた。

 銀色の髪が揺れ、その動きに月光が踊るように散った。


「ああ……不気味な魔術師アストラルってヒーローさ」

 俺は誇らしげな顔で志桜里に言った。

 自分のことながら、この言葉を口にするのは不思議な感覚だった。


「え? ヒーロー?」

 志桜里はきょとんとした顔に変わる。

 まあ現実世界にヒーローって実感が湧かないのだろう。


「すごく強くてかっこよくてクールで……俺の憧れなんだ。その人があの男から魔銃を取り返してくれたんだ」


「阿須那くんの……憧れなんだね」

 志桜里はきょとんとした顔から微笑へと表情を変えた。


「ああ……俺もいつかはああなりたいんだ」


 それが俺の夢。

 ピンチになった探索者を颯爽と救い、かっこよく去っていく。

 誰にも正体が分からない、最強でかっこよくてクールな影のヒーロー。


「阿須那くんならなれるよ。……ううん、もう既になってるよ。私にとっても、かっこいいヒーローだから」


 志桜里の言葉には真摯さが込められていた。

 その瞳には純粋な信頼の光が宿っている。


「いや……俺はまだまだ追い付かないさ。いつか絶対辿り着いて見せるけどさ」


 そして最強へ辿り着く先に……「あいつ」がいるから。

 最強といっても漠然とした目標だったのが……はっきり視認した形となって現れた。

 必ず辿り着いて見せると、心に強く決めたのだ。


「阿須那くん……私も応援してもいい?」


「志桜里?」


「阿須那くんが私のアイドルになる夢を応援するように、私も阿須那くんもヒーローになる夢を、応援したいの。私はまだ駆け出しでまだまだ頼りないかもしれないけど、あなたが進む道を支えたいの」


「志桜里……ありがとう」


 最初は中二病と誰もが冷たく突き放し、正直くじけそうになってたけど。

 ククルに、ハヤテ……そして志桜里と、俺を認めてくれる人が少しずつ増えていくことに、俺は心が温かくなるのを感じた。


 

 その時……後ろにいたククルがプクーと頬を膨らませ、真っ赤になってることを俺は知らなかった。


「じゃあ、俺はこれで——」


「あ、あの、阿須那くん! えっとその……」


 志桜里は真っ赤になり、もじもじし始めた。

 細い指で制服のスカートの端をくるくると巻き付けながら、俯き加減で言葉を探している。


「志桜里さん?」


「あ、あのお礼したいから……えっと……家に、入らない? もう夜も遅いし——」


「いや、それはダメだよ。女の子の家に入るのは親に誤解されるんじゃ——」


「で、でも私、阿須那くんに何もしてないし——」



 その時だった。


「ダメえええええっ!!!」


 ククルは叫びだした。

 かと思えば全速力で物陰へと離れて飛んで行ってしまった。

 その半透明の体が月明かりを一瞬歪ませながら消えていく。


「ククルっ!?」


「どうしたの、阿須那くん?」


 志桜里はククルが見えていないため、俺が何に反応したのか分かっていない。彼女の銀髪が風に揺れ、困惑の表情が月明かりに浮かび上がる。


「あ……その……友達が、物陰にいて——」


 そして、物陰から声が響いた。



「来てえ!! 青いひとだまああああっ!!」



 ……はい?


 俺は物陰を凝視する。

 今ククル、何か聞きなれないこと言ってなかったか?



 その数秒後、物陰から——。


 白いワンピース。

 でも足には何も履いてない素足の状態の美少女が飛び出してきたのだ。

 彼女の髪は淡い青に近い色で、肌は月明かりを受けて真珠のように輝いていた。


 だが、よく見るとその顔は——!



「ククルっ!?」


 そう、間違いなくククルだった!


「アスちゃんにこれ以上べったりしないでー!!」


 そう言って俺の左腕に抱きついてきた。

 その感触は幽霊とは思えないほど確かなものだった。

 温かく、しっかりとした存在感がある。


「な、なに言ってんだお前はっ!?」


「え? え? この子阿須那くんの知り合い?」


 え? 志桜里はククルが見えるの?


 どうやら、この状態のククルは他の人からも見えるようだ。


「ククルです! アスちゃんの、彼女ですーっ!!」


「彼女って何言ってるんだお前はああーっ! 絶対違うからな志桜里!!」


「え、えと……ど、どうしたら——」


 志桜里はどうしたらいいのか、しどろもどろになっている。

 内気な彼女では強く出ることは出来ないようだ。

 腕をどうしていいか分からず、もじもじと身をよじっている。


 その時だった。


「何をしているの、志桜里!?」


 家から女性が一人飛び出してきた。

 端正な顔立ちと志桜里に似た銀色の髪が月明かりに映える。


「お母さん!?」

 志桜里が反応する。どうやら志桜里のお母さんらしい。


 良かった、お母さんが来てくれるなら、この場は何とかしてもらえる。

 そう期待していた。


 しかし、次の言葉でその期待は粉々に崩壊した。


「そこは引いたら絶対ダメ! 本気で好きになった男の子に対しては、恋のライバルに怖気づいたら負けなのよ。内気な殻を破る勢いで全力でアタックしにいきなさい!」


「は、はい、お母さん!!」


 何言ってるのお母さん!? そして志桜里もなに真に受けてるの?


 そして志桜里は俺の右腕をガシッと抱きついてきた。

 その細い腕に意外な力強さを感じる。


「いや待って、お前ら落ち着こう——」


「アスちゃんは渡さないんだからあ!!」


「わ、私もここは引きませんっ!」


 そして越前裁きのような引っ張り合いが始まってしまったのであった。

 月明かりの下、二人の少女に両腕を引っ張られる俺の姿が滑稽に映る。


「や、やめてくれええええっ!!」


 かつてラブコメ主人公というものに憧れていた阿須那だったが……。

 この時ばかりは同じ立場になりたくないと後悔したのだった——。


 月明かりが照らす夜の街で、阿須那の悲鳴だけが響き渡る。

 そして翌日からの学校生活が、一層賑やかなものになることを、彼はまだ知る由もなかった。

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