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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第一部第一章「時の鐘ダンジョン ―中二病ヒーローと日給100円の幽霊―」
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第4話

 空き巣対策に必ず「ただいま」と声をかけて家に入る。

 いつもの習慣で声をかけるが、返事が返ってくることはない。玄関の靴箱には自分の靴だけが整然と並んでいた。リビングのテーブルの上には昨日の自分が書きかけた「アストラル活動計画」と題したノートが開かれたまま。誰かに見られる心配もないから、片付ける必要もない。


 俺は部屋の明かりをつけてから、写真立てに目をやった。両親の笑顔が収められた写真は、いつもの場所でいつも通り俺を見つめている。

「今日も一人助けられたよ」

 そう呟いてから、俺はスキルブックを取り出し、今日の成果を確認する。

 テーブルに温めたコンビニ弁当とサラダ、ペットボトルのコーラを置いて、俺はどかっと座る。

 はあ……とまた溜息をついて。明日から地道に頑張ろうと気合を入れるためにも胃袋を詰めよう。

「それじゃあ……いただき――――」

 

 ズドオオォォ――ンッッ!!

 

 いきなり目の前に雷と爆音が落ちた。

「………………」

 俺は硬直していた。

 頭が完全に固まっていた。

 今目の前にはバックリとマンホール大の大きな黒い穴が開いており、テーブルはほとんど消滅していた。

 食事? 綺麗さっぱり無くなっている。

 

「……………………?」

 何が起こった?

 心臓が一瞬止まったかと思うほどの衝撃に、俺の頭は状況を理解しようとフル回転している。

 つい数秒前まで目の前にあったはずの弁当とサラダは跡形もなく消え、代わりに床には底の見えない暗闇が口を開けていた。

 ここ……一階で下は地面のはずなんだが……。

 あまりにも非科学的な現象だった。そもそも雷落ちたら俺も感電して死んでるはずなんだが。

 俺無傷だし。

 じゃああれ雷じゃなかった? いや……上から光が落ちてきたしバチバチいってたし、どうみても雷――――。

 

「……降りる……べきか?」

 とりあえず……何が起こったのか確認したほうが……いいよな……?

 まさか俺の家の地下にダンジョンが出来たとか……そういうのはやめて欲しい。

 あと飯返して。

 

 ゆっくり、ゆっくりと……俺は滑り落ちないよう細心の注意を払いながら降りていく。

 正直不安が大きい。もしダンジョンモンスターみたいなのが現れたらどうすればいいんだろう、俺。

 ここでも魔法使えたらいいんだけどさ……なんか発動する気配ないから多分ダンジョンが発生したわけじゃないっぽい。

「くっそお……どこまで続いてんだよ。早く終わってくれ」

 せめて上の蛍光灯の光が見える内に地面に着地してほしい。

 懐中電灯持ってくるべきだったな、と今更ながら後悔した。

 その願いがかなったのか。……しばらくして片脚に地面の感触を感じた。

 

 やっと終わった。

 さて……下はどうなってるんだと後ろを振り返る。そこには――――。


「ほにょにょ~~。やっと脱出できたよ~~」

 笑顔でダブルピースして倒れている幽霊の女の子がいた。

 

 ここまで来ると光が僅かにしか届かない。

 じゃあ何故幽霊だと分かったのかというと、頭に白い三角の布、三角巾を被っており、地面に倒れているのに綿毛のようにふわふわ半分浮いている。それだけでなく、身体が薄く透けて見え、足元は煙のようにぼやけて消えていた。見た目は十四、五歳くらいの可愛らしい女の子なのだが、明らかに人間ではない。

「…………は? なにこいつ?」

「はっ!」

 

 俺の声に気づいたのか、幽霊はいきなり真顔になり俺の方へ振り向いた。

「お前は何奴だ?」

「こっちのセリフだわ! 勝手に家破壊して不法侵入してんじゃねえっ!」

 てか人に指差して第一声がそれか!

 

 幽霊はえ? という感じできょとんとした顔をした後、何かをひらめいたかのように、おおっと声を出して手をポンと叩いた。

「そっか、まず名乗るなら自分からだった。幽霊ククル! ピッチピチの15歳でーすっ!!」

「ああ……アホなのか……」

 俺はガクリと肩を落とし脱力する。

 こいつ家と食いもんぶっ壊した自覚全くと言っていいほどない。

 

「お騒がせしてゴメンね! ではククルはこれにて、サラダバー!」

 そう言ってククルは飛び去ろうとしていた…………てちょっと待てや!!

 逃がすか! と俺はガシッと力強くククルの手首を掴む。

 幽霊なのに触れるのか。だが今の俺にそんなこと気にする余裕はない。

 

「え? なになに?」

「なになに? じゃねえよ! 家と食いもんの弁償しろよ幽霊」

「え? 幽霊にお金なんてないよ?」

「じゃあ働いて返せ!」

 

 とっさに出た一言だった。

 自分でも、えっ、こいつに働かせるのかと脳内で突っ込みを入れていたが、もう口から出てしまったものは仕方ない。

 俺はこのまま突き進む。

「え? 体で返せというの? やめてよそんな……エロ同人みたいに!」

 と言ってククルは顔を赤らめて恥ずかしそうにクネクネと揺れ動いている……まんざらじゃなさそうだなお前……幽霊だからエロなんて無理だけど。

 

「良かったなあ、幽霊でも役に立つ時代でなあ! 日給100円でダンジョン探索に手伝えや! 拒否権ないからな!」

「ほにょにょ――!?」

 

 絶叫する幽霊をよそに、俺は無理矢理説得を始めた。

「いいか、お前が家と飯を壊した弁償だ。それにお前みたいな幽霊なら、ダンジョンで役に立つだろう? 見えないものとか感じられるんじゃないのか?」

「む、むむ……たしかにククルは人間には見えない魂とか感じ取れる……かも? でも、日給100円は安すぎじゃない?」

「賃上げ要求するな! まずは弁償してからだろ!」

 こうして、強引にダンジョン探索パートナーになったのだった。

 

 

 これが俺とククルの出会いだった。

 この時から俺の人生がとんでもないことになるなんて全く予想だにしなかったのだ。

 

 そして……俺が更なる運命の出会いを果たすのはここから数日後のことである――――。

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