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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第一部第一章「時の鐘ダンジョン ―中二病ヒーローと日給100円の幽霊―」
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第3話

「……無事なようだな」

 漆黒のマントをなびかせながら、俺はそう告げた。

「い、生きてる……? 助かったのか、俺たち……」

 二人をひきずってようやく部屋の外へ出たリーダーらしき男は息切れしながら、今生きてることを確認しているようだった。


 俺は静かに告げた。

「不気味な魔術師アストラル」

 そして低く力強い声を響かせる。

「汝の魂に刻み込むがいい。迷宮の深淵に挑むというのなら、運命の書を紐解いておくべきだった。闇の帳が再びお前たちを包む時、この名を心に留めておくがいい」


 漆黒のマントを翻し、彼らに背を向ける。演出を意識しすぎて少し照れくさいが、これも影のヒーローとしての使命だ。


 背後から声が聞こえた。


 「すげえ中二病だ……」

 

 グサッ!! その言葉は予想していたものより痛かった。

 助けた相手からの第一声がこれか。


 「痛すぎる……やってて恥ずかしくねえのか」


 グサッ! 刃は更に追い打ちをかける。


 俺は歩みを止めなかった。確かにセリフは練習したものだ。でも、それが何だというのか。彼らが命を救われたという事実は変わらない。


 「カッコつけたかったんだよ。やめようぜ。……おかげで助かったんだから」


 最後はリーダーらしき男の声で擁護してるつもりなのだろうが……それは最後の一突きとなって俺の心を刺したのだった……。


「くそお……やっぱり痛すぎるか、俺のキャラ……」

 阿須那の姿に戻り、帰宅した俺は、そのままベッドの海に沈みこむように倒れた。

 でも、俺が目指してる影のヒーロー像は、最強でかっこよくて、クールな感じにしたかったのだ。

 今更変えるわけにはいかない。

 

 先ほどの10体の敵のドロップは拾わずそのままにした。助けたとはいえ、元々は彼ら三人が戦うはずの敵だったのだ。取ってしまったら横取りになってしまう。

 

 それに……俺にはこれがある。

 俺は懐から一冊の本を取り出した。

 無駄に分厚くてくそ重い辞書みたいな本だ。正直持って歩くのは大変なのだが……。

 俺の強さの秘密はこれにある。

 パラパラとページをめくり、とあるページのところでめくる指をとめる。


「増えたのは……【ATK+20】と【HIT+10】か。まだまだといったところだな」

 宝くじ並の確率でしか手に入らないスキルカード。ATKは物理攻撃力、HITは命中率を上げるスキル。これらを他の探索者なら垂涎するはずだが、俺にはこのスキルブックがある。

 敵にトドメを刺せば、そのスキルカードを本に収納でき、自由に使える特殊なアイテムだ。

 

 ただし使えるのは10枚程度で、一種類につき一枚だけという制限がある。

 

 「俺は魔法攻撃主体だからなあ……ATKは使わないな」

 HIT+10はあってもいいかもしれない。鳥や飛行系モンスターは当てるのが難しいからな。

 俺はカード構成を考えながら、次の探索に思いを馳せた。

 

 中二病といわれようが俺は突き進むぞ。きっと認められればカッコいいと評価されるはずだ、きっとな!


 そんな決意を胸に、あれから数週間が経った。

 地道にアストラルとしての活動を続け、少しずつではあるが、ネットでもその存在が知られ始めていた。

 とうとう俺も憧れる立場に――と思ったのも束の間。

 「時の鐘ダンジョンで死にそうになったところを、不気味な魔術師アストラルに助けられた、とのこと」

 放課後、教室で一人になった俺はスマホでスイスイと指を動かし、評判を調べる。

 

 「でも時の鐘ダンジョンってランクDだろ? 弱いじゃん」

 グサッ!

 「せめて『令和の股旅』みたいにランクB以上で活躍しろよなあ。俺あいつも嫌いだが」

 グサグサッ!

 「しかも不気味な魔術師って……ブ〇ーポップのパクリか?」

 グサグサグサッ!!

 

 俺はスマホの画面を固定させたまま机に突っ伏していた。

 そりゃあ、最初は理解されないものだとは分かってはいるさ……。

 やっぱりランクDからデビューは早すぎたかなあ……。

 でもこういう地道な活動がいつか報われると思ってはいるんだ。

 そう信じるしかないのだ……。

 

 でも……。

 

 こんな評判がもしずーっと続いたら……俺は続けていけるのだろうか……。

 誰か……一人だけでもいい……評価してくれる奴がいればなあ……大分違うと思うんだが……。

 

「はあ……今悩んでもどうしようもないか……どう評価されようが、これからも続けていくしかないんだ」


 俺は頭の中をぐるぐる巡る批判を振り払いながら、学校から出て、コンビニ飯を買って帰途についた。

 空っぽの家が俺を待っている。そう、俺に家族はいない。

 両親は数年前に他界し、一人暮らしを続けている。

 親戚が一緒に暮らさないかと誘ってはくれたが、残された資産だけで高校卒業までは何とかやっていけるし迷惑かけるのも気が引けた。

 誰にも頼らず、誰にも認められなくても——それが俺のヒーローとしての道なのかもしれない。

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