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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第28話

「…………」


 俺は目を見張ったまま固まっていた。


 今この手でやったことが……その結果Bランクボスが倒されたという事実を受け入れることが出来なかった。


「アスちゃあ――ん! 凄い! Bランクのボス討伐出来たよー!!」

 ククルが喜びを表すかのように俺の後ろに勢いよく抱きつく。


 その衝動によろけそうになるが、そのククルの言葉でやっと自分がボスを倒したという実感を感じ始めてきた。


「やった……やったのか俺……初めて……Bランクボスを……」


 ハヤテとククルのサポートがあったとはいえ、Bランクボスを倒したという事実は俺を感動の渦に巻き込んだ。


「「いやったあああああ!!」」


 俺とククルは手を取り合って飛び上がったのだ――。



「……お疲れ様でござんす」


 喜びあってる俺たちとは対照的に、ハヤテは地面に落ちた三度笠を被りなおして、落ち着いた様子で語り掛ける。だがその表情は微笑を浮かべており、彼もまた俺たちが討伐成功したことを祝福しているように見えた。


「そうだ! ハヤテ、キズは――」

 まだ喜びの感情が沸き起こってはいるが、それよりもハヤテが負った肩の傷が気がかりだった。

 

「……それが」


 そう言ってハヤテが服をずらし、むき出しになった肩には――。


 傷がなかった。


「……え?」

「……ククル」


 ハヤテが睨みつけるかのようにククルを見やる。


 対してククルは口笛を吹きながら明後日の方向を見ていた。


「改めて聞かせてもらいたい。お前さんは何者でござんすか」

 

「ええー? ククルのこと知りたいー? しょうがないな~」


 ククルは顔を赤らめながらクネクネと腰を左右に揺らし、まるで自己紹介するアイドルのようなポーズをとった。


「では説明しましょう! ククルは不思議な力を操る幽霊魔法少女でーす!」


 ククルは指を立てて一つずつ数えるように説明していく。


「まず『赤い人魂』は人の目には見えないもの、幽霊とかを見えるようにしまーす!」


「『ヘビーミスト』はおもーい霧を呼び出して視界を遮って、方向感覚もリセットしちゃいまーす!」


「そして『ウィルオーウィスプ』は敵に憑依して動きを遅くするとともに次の攻撃のダメージを二倍くらい大きくしまーす。でもこれククル凄い疲れるから、いざという時にしてね!」


 ククルはちょっと疲れたように肩を落としたが、すぐに元気を取り戻した。


「最後に『ヒーリング』は普通に傷の回復をするのです! これは既にアスちゃんに使ってるから知ってるかもー。あの時の腕の傷、ククルが治したんだよー! でも地味だからお披露目はしなかったの、ごめんね!」


「あの時か……」俺は九層での戦闘で受けた傷が不思議と消えていたことを思い出した。


「いや、聞きたいことはそういうことではなく――」

「あとは乙女のひ・み・つ! 詮索しちゃいけないんでしょ?」

「……」


 それを聞いてハヤテは三度笠を深く被りなおしたきり、追及するのをやめてしまった。

 

 流石に自分が言い出した約束を破るなんて出来ないのだろう。

 

 ククルが何者かは俺も気になるけど……モンスターみたいに敵対しているわけでは全然ないし、ゲームや漫画みたいな裏切りなんてククルにあるとは想像もつかない。


「ハヤテ、大丈夫だよ。ククルは少なくともモンスターじゃない」

「……そうでござんすな。倒したことですし、奥へ進みますか」


 そう言ってハヤテは玉座の更に奥にある扉へ歩き始め、俺とククルもその後をついていった。

 

 奥の部屋は先ほどの謁見の間とは違い、シンプルな部屋の造りをしていた。


 まず部屋の真ん中に宝箱が設置されている。


 これは10層ボスのドロップとして扱われている。本来モンスターはその場でドロップするんだけど、最下層ボスだけは別なのだ。


 恐らくダンジョン踏破したときの褒賞アイテムと一緒にしてるんだと思う。


 俺はドキドキしながら宝箱を開ける。


 中は溢れんばかりの魔石と素材。銀塊も少しあった。そして――。


「刀だ」

 

 俺は宝箱から刀を取り出す。


 ……俺、刀ってよく分からん。人によっては業物とか名匠とか分かるらしいが。


「ハヤテいるか? 俺は使わないし」

「では遠慮なくいただきましょう」


 ハヤテは俺に差し出された刀を申し訳なさげに受け取る。

 別に遠慮しなくていいんだけどな。ここまで踏破できたのハヤテのお陰だし。

「ねえねえアスちゃん。奥にある台座みたいなのなにー?」


 ククルは不思議そうに宝箱の更に奥の台座を指さした。台座の上には何も置かれていないが、かすかな魔力の残滓が感じられる。


「あれはダンジョンコアがあった場所だよ」


 俺は懐かしむように言った。

「初踏破した人が壊したから今はもうないんだけどさ」


「なんで壊しちゃうの?」ククルは首を傾げた。


 俺は昔授業で見た映像を思い出しながら説明した。

「ダンジョンコアがあると、モンスターがダンジョンの外にまで出てくるようになるんだ。街の人たちを守るために、コアを壊すことでモンスターは最上層から出られなくなる」


「へえ~」

 ククルは台座に近づくと、その場で立ち止まった。一瞬、彼女の体がわずかに震えたように見える。


「ど、どうしたの?」


「ううん、なんでもない」ククルは笑ったが、その笑顔はどこか強張っていた。慎重に台座に手を伸ばし、空気を撫でるように動かした。

「すごく綺麗なものなの?」


「うん、宝石みたいに輝いてるらしいよ。実物は見たことないけど」


 台座に近づいたククルの身体が微かに震え、目が一瞬青く光ったような……。錯覚だろうか。


「ククル、大丈夫か?」

「え? あ、うん……なんだか懐かしい感じがしたの。変な感覚だよね」


 台座に残るダンジョンコアの残り香に反応したのか。まあ、幽霊だからそういう超常的なものに敏感なのかもしれない。


 誰もが夢見る初踏破の栄光。

 俺もいつか自分の手であのコアを壊してみたい。

 その思いを胸に秘めながら、俺は台座から目を離した。


「10層ボス再出現は12時間後でござんす。ただ8層ボスは8時間後なのでそれまでに帰還しましょう」

「大分休息できるな」

「その間スキルカードを確認しては?」

「そうだな。……あの狐の女の子なんて名前だ?」

「タンファ」

「タンファ?」

「中国で月下美人、でござんす」


 ……なるほど、あの美しい姿をしてれば納得の名前だ。

 ボスのスキルカードだ。絶対想像を超える性能をしているに違いない。

 俺は期待が胸に溢れそうになるのを必死に抑えながら、スキルブックをめくる。

 ――あった!


【移動速度+100%、常時発動。スキル『ヒーリング』使用可】。

 

「「「…………」」」


 沈黙。

 静寂だけが俺たちの周りを支配した。


 俺の胸の内で期待が一気にしぼんでいくのを感じる。移動速度。確かに超便利で、本来なら大喜びするべき能力だ。ダンジョンは凄く広大だし、探索なんてすごい時間を要するものだから。


 移動が2倍になるだけで探索効率は跳ね上がるなんてものじゃない。正直、他の探索者からすれば家と全財産を売り払ってでも欲しい品だろう。


 だけど……。

「俺が求めてるものとは違うんだよな……」思わず呟いてしまった。


 言うなれば物理職が高性能な魔法書を手に入れたに等しい感覚だ。絶対的な強さを求めていた俺にとって、これは……。


「……あっしも勘が鈍ったか」


 ハヤテが申し訳なさそうに頭を垂れた。その姿に胸が痛む。


「いや、そんなことはない。これでも凄い性能をしたカードであることは間違いないんだ。ここまで来た価値は間違いなくあるよ」

「しかしお前さんの願望とは違うでござんすよ」

「探索効率は上がるんだから嬉しいよ。だから……そう罪悪感を感じないでくれ」

「……」


 ハヤテとしては、俺を無謀といえるダンジョンへ連れてきて、成果がこれだけというのに不満を感じているのかもしれない。

 でも俺からすれば破格といってもいい収穫なのだ。達成感も凄まじく、素直に嬉しかったのだ。


「大分休められたよ。そろそろ戻っても大丈夫だ」

「では帰還しますか」


 そして俺たちは帰還しようと入り口へ歩みを進めた。


「ねえねえアスちゃーん。あっちのスキルカードは見ないのー?」

「あっち?」

「ほら、青い狐のほうだよー」

「……あ、そういえばいたな」


 すっかり忘れてた。取り巻きも倒したからスキルカード獲得の条件は満たしてるのだ。

 俺は歩みを止めてスキルブックを再度広げた。名前は青月狩人せいげつかりゅうどとのことだ。


 パラパラとページをめくる……あった。


【魔法反射80%、確率は敵とのレベル差によって変動】。


「……」

「……」

「「魔法反射あああああっ!!?」」


 俺とククルの絶叫が部屋中に木霊したのだった――。

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