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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第20話

「まだ9層まで遠いな……」と俺はため息をついた。


 ダンジョンの1層ごとの広さは想像を絶するほど広大だ。入り口から次の階層まで直線でいっても30分〜1時間ほどかかる。隅から隅まで探索しようものなら丸一日かかるだろう。


「こんなに広いのに、地上の建物に影響はないのかな」とククルが不思議そうに首を傾げた。

「そういうのは研究者でも説明できないらしいぞ。科学的なものじゃなく、魔術的なものが関わってるって断言したらしい」

「科学者が匙を投げちゃったってこと?」

「そういうこと。このダンジョンは物理法則とかそういうものを無視してるんだ」


 そんな会話をしながら歩く8層は、まるで巨大な寺院の中にいるような雰囲気だった。朱色の柱が林立し、天井は高く、金箔で装飾された龍の彫刻が渦を巻いている。黒い大理石の床を歩くたびに、音が空間に反響していた。


「ねえ……ダンジョンって何なんだろう?」ククルが突然俺に問いかけてきた。


「は? なんだその哲学みたいな問いは」俺は思わず眉をひそめた。

「え~? アスちゃん疑問に思わない? ダンジョン出来る前って魔法とかモンスターとか非科学的なものなかったんでしょ? なんで突然そんなの現れたのかククルは謎なのですよ!」彼女は両手を広げて、幽霊らしからぬ熱意で語る。

「といっても俺が生まれた時からダンジョン当たり前にあったしなあ。そんなの疑問に思わなかったし」


「しかもですよ!」とククルは身を乗り出して続ける。

「このモンスターって生態系とかそういうのないよね? 光の粒を出して消えると思ったらまた出てくるし、寝るとか食べるとか交尾しないし!」

「交尾いうな! 女の子だろお前!」思わず声が大きくなり、空間に反響した。

「いや……ククルの言ってることは良い着眼点だと思いますよ」ハヤテの穏やかな声が響く。


「「え? 交尾が?」」


 ハヤテは一瞬だけ目を見開き、すぐに顔を横に向けた。その表情には珍しく困惑の色が浮かんでいる。普段は冷静沈着に見える彼だが、意外と人間らしい一面もあるようだ。


「……そうではなく。そもそも何故ダンジョンやモンスターが現れたかでござんすよね?」

「うんうん。ハヤテは知ってるの?」ククルは目を輝かせてハヤテに近づく。

「知らないでござんすよ。ただ――」

「ただ?」

「モンスターを倒すためにダンジョンが現れたのは間違いないと思っている」

 

 それは至極当たり前のことを言っているように聞こえる。

「あ……つまりここはモンスターの拠点とか棲家とかそういうのじゃないと?」俺は自分の考えを整理しながら尋ねた。

「そういうことでござんすな。ダンジョンはモンスターを倒すために作られた闘技場……と例えるべきかもしれません」ハヤテの声は静かだが、その言葉の持つ重みは空間に長く残った。


 

「ダンジョンが出現した日から世界は一変した。軍隊を導入しても鎮圧できず、何万人もの犠牲者が出たと言われているでござんす」

「そうなの?」ククルは目を丸くした。

「だけど皮肉なことに、ダンジョンから採れる素材が経済を回し始めた。それで探索者という職業が生まれたでござんすね」


「でもねぇ、モンスターって光の粒になって消えるじゃん?」ククルは指を立てて続ける。

「だったらなんで何度も復活するのかな?」

「そのあたりはダンジョンコアの役割が大きいと言われているでござんすね」ハヤテは静かに答えた。

「だが、すべてのモンスターが同じというわけではない」

「どういうことだ?」俺は思わず身を乗り出す。


 

「例えば、8層ボスの狐はどう見えましたか?」ハヤテが問いかける。


「え?」俺は記憶を辿る。

「あの時は一瞬だったけど……確か黒い霧みたいなのを出してて、足跡のところの床が変色してたような……」


「正確に覚えていますね」ハヤテの声に僅かな驚きが混じる。

「あっしはそういうモンスターを"黒いモンスター"と呼んでいる。通常のモンスターと違って、周囲を侵食する性質を持っているのでござんす」


「いわゆる"汚染"ってやつ?」俺は思わず眉をひそめた。


「汚染……それは適切な表現かもしれませんね」ハヤテは三度笠の下で静かに頷く。

「実はこの先の最下層ボスも、同じ特性を持っている。今回の最終目標でもあるのでござんす」


「汚染されたモンスター……」俺はその言葉を反芻した。なんとなく不穏な予感が胸をよぎる。

「それって、普通のモンスターとは根本的に何か違うってこと?」


「見てからの判断になりますが……」ハヤテはそこで言葉を切った。

「実際に会えば、その違いは一目瞭然でしょう」


 俺とククルは顔を見合わせた。ハヤテの言葉には何か言外の意味が込められているようで、それが何なのか掴めないもどかしさを感じた。

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