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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第19話

 ククルの言葉を聞いて、俺は襲われていた探索者へと視線を向けた。

 だが、男は既に視点を転じており、何かを取り出そうとしていた。

 取り出したのは3枚の探索者免許証だった。



「ここの近くに落ちていました。探索者が命を落とした場合、一時間経過すると免許証を残して遺体が消滅すると聞いています。もしかしたら……」

「……一枚だけなら不意に落とした可能性を捨てきれませんが、複数となると……その可能性が高いでござんすな。あっしが役所まで届けましょうか?」

「お願いします」


 そして男が、ハヤテに向け免許証を差し出さんとした……その瞬間だった。


 

 バシィッ! と鞭が虚空を切り裂くが如く、青白い閃光が空間を切り裂いた。


「うわっ!」探索者が手を引っ込める。

「!!」 

 

 探索者の方は、何が起こったのか理解していないように思える。

 

 

 だが、最初は探索者に慈悲の光を宿していたハヤテの目は。

 その閃光が発生した直後。

 一瞬で鋭さを纏い始めた。



 「何が起こった?」


 俺は状況を読み解くことができなかった。だがククルの唇には、微笑が浮かび上がっていた。


「ククルは見逃さなかった。あの人、ハヤテの刀に触ってた」


「は?」



「いきなり電流が……何があったんです?」

「……お前さんは知らないのか。説明しておくべきでござんすな。【盗難防止】を」


 そう語るハヤテは、俺にも視線を向け、俺の耳にも届くような声量で語り始めた。


「ダンジョンは犯罪者の温床になっている。薄暗く、奥深く……警察でも探索者の資格がなければ入れない。高ランクダンジョンなら尚更でござんす。10年前まではその環境を活かされスリや強盗、性犯罪不正取引が日常茶飯事に起きてしまった。監視カメラを随所に設置しても焼け石に水でござんす。そのため――――」


 そしてハヤテは左の腕を天に掲げる。ハヤテの全身から光が溢れ出し、左手に集約され、その集いし光はカードへと姿を変えた。


「この問題に迅速に対処するため、米国が研究開発したのが、これでござんす」

「……これを開発って、モンスターがドロップしたものじゃないのか?」

「これは人工スキルカード。ダンジョンから入手したスキルカードを分析研究し、人の手で作られたもの。あっしが今持ってるスキルカードは【盗難防止】。探索者が所有している装備アイテムを他者が勝手に持ち出そうとしたとき、自動的に電流が流れ阻止する仕組みでござんす」

「えっ!?」


 襲われていた探索者の顔に絶望の影が走った。

 どっと汗が全身から滝のごとく流れ落ち、ハヤテを恐れ、後方へと逃げ去ろうとする。

 ――ああ……確定だ。こいつ盗もうとしていたのだ。

 ハヤテも……俺も……ククルも――ククルはこいつには見えないが――一斉に探索者に疑いの眼差しを向けた。



「あの……えっと……そんなつもりじゃなかったんです。あの巨大な狐を一瞬で倒して……どんな武器使ってんだろうって興味もっただけで……」


 奴は後ずさりしながら、意味をなさぬ言葉を並べ立てるが、俺たちの態度は変わらない。



「ごめんなさい!! もうしません! 許してえ――――っ!!」

 

 そして彼は入り口階段に向けて黒き風のごとく駆け去ったのであった――――。


 まあ……あの様子から察するに、本当に誘惑に負けた一時の過ちであったのだろう。

 ハヤテも同じ結論に至ったのか、呆れの感情をこめた溜息を吐くのだった。

 高ランクが使う武器への興味が燃え上がるのは理解できる……だが、その禁断の果実に手を伸ばすことは、犯罪でしかない。


 俺はアストラルの衣装を脱いで阿須那の姿に戻った。

 活躍出来なかったのは残念だけど……前回と違い、今回は探索と成長が目的だ。仕方ないと受け止めよう。


「8層ボスは6時間後に再出現する。それまでに帰還しましょう」

 ハヤテは言った。詳しい説明はなかったが、あの恐ろしい姿を再び見たくないと思った俺は素直に頷いた。


 9層に向けて再び俺たちは探索を再開する。


「ところでハヤテ、あの【盗難防止】って学生は大抵知らないよなって感じで話してたけどなんでだ? 俺も沢山のスキル使ってんだし、もっと早く勧めても良かっただろ」


 俺のスキルブックは敵にトドメを刺すとその敵のスキルカードが本に登録され、使用できる(だから8層ボスはカード入手出来なかった)。

 

 ネットで調べても同様のアイテムは確認出来なかった。つまり一点ものである可能性が高い。

 

 他の探索者からすれば、宝くじ並の確立でしか手に入らないスキルカードを大量に使用出来る本なんて、犯罪に手を染めてでも欲しい品に違いない。

 

 だとすれば、もっと早くに【盗難防止】を役所から買うよう勧めても良かったはずだ。だけど今までハヤテはそんなこと一度も言わなかったのだ。

 

「それは無理でござんす」

「なんでなんで?」

「お前さんは――――」


「【盗難防止】所持に60回払いで月2万も払うほど金銭的余裕あるでござんすか?」

「超納得した。無理だわ」


 

 俺たちの遥か後方、8層ボスが倒れた場所から少し離れた柱の陰。

 黒い影が蠢き、地上へ続く階段を昇っていた。

 俺たちがその異常に気づくのは帰り際のことである。


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