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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第17話

 6層は鮮やかな色彩の庭園が広がり、石橋や小川、滝などが複雑に配置されている。赤や白の牡丹、紫の藤、黄色い菊などの花々が咲き乱れ、所々に朱色と金色で装飾された東屋が設けられている。天井は高く、そこからは日光を思わせる温かな光が差し込んでいる。


 ……日光って……ここ地下のはずだよな。どうなってんだろう、本当に。


 翡翠姫ひすいひめと呼ばれる、鮮やかな翡翠色の着物を纏った美しい女性の幽霊。腰まで伸びた漆黒の髪を持つ美しくも不気味な存在だ。


「接近戦は厳禁でござんすよ。極まれにですが、道連れにして自害しますよ」

「え、なにそれこわい」

「道連れって……どこへっ!?」


 要は即死ってこと? 怖すぎだろ!

 俺は確かに遠距離主体だけど、近づかれたら怖くなるわ!


「じゃあハヤテも刀なしで戦うの?」

「いや、あっしは自害する前に倒します」

「……」


 Aランクって、別の意味でこえーな……。

 

 戦ってみるが、そこまで手ごわい相手ではない。

 ただ相手も魔法攻撃主体で、魔法防御も高いようだ。お陰で少し手こずる。

 銃とかボウガン使いの方が相性が良い相手かもなあ……。

 

 

 スキルブックで翡翠姫のスキルカードを確認すると【最大MP+100 MP回復量+10%】とあった。

 あ、これめっちゃ有難い。実際回復量どのくらい上がるのかは分からんが。

 

 MPという表示があるってことは、RPGでいうステータスが存在するってことだ。

 ただ確認方法が分からないんだよね。そういうスキルもあるんだろうか……。




 ちなみに5層ボス、巨大キョンシーのスキルカードも手に入ったのだが……よく分からなかった。


 【スキル『スケープゴート』使用可】。


 これ、使ってみても効果なかった。何か条件があるっぽい。

 ハヤテに聞いてみても、首を振られるだけだった。スキルに関してはそこまで造詣が深いわけではないらしい。



 

 粗方通路上の敵を退治して、7層へ到達する。

 7層は豪華絢爛な貴族の邸宅って感じだ。朱色の高い壁に囲まれた中庭を中心に、四方に黒い瓦屋根と赤い柱の建物が配置されている。

 モンスターは妖筆ようひつっていう筆の妖怪で弱そうに見えるが、地面に描いた絵を実体化させるやつが手強くて厄介だ。まあ恐ろしいのは攻撃であって、本体は大したことはない。スキルカードは……俺に全く関係なかったので省略する。


 

「なあ、ハヤテはなんでヒーロー活動やってんだ?」


 敵の数が多いため、ある程度敵を退治しながら俺はハヤテに聞いてみた。

 俺は結構手こずってんのに、ハヤテは全く表情を変えていない。

 Aランクだとは分かっているけど……なんかすっげえ悔しい。


 問われたハヤテはそんなこと聞かれるとは思ってなかったのか少し驚いたような表情に変えた。

「いや、ヒーロー活動をしているつもりは全くなくて……強いて言うなら命の危機に瀕している人たちを単純に放っておけないから、でござんすな」

「じゃあなんで股旅の格好してんだ?」

「素のままは……嫌がられますから」

 ハヤテの声のトーンが微妙に沈む。

「は? どういう意味だ?」

 俺が問い返しても、ハヤテは三度笠の陰に顔を隠すようにして黙り込んだ。

 その仕草に、言葉以上の何かを感じた気がした。

 

「そういうお前さんはダンジョンヒーローになりたいと言ってましたが……」

「ああ、モンスターとの戦いでピンチになってるところを颯爽と駆けつけてモンスターを瞬殺する。だが決して表舞台に現れず影から助けるヒーローのように――」



「女の子にモテたいからでござんすか?」


 ドゴォッ!!


 俺は思いっきり真横の壁に頭を打ち付けるのであった……。

 

「え? どういうことハヤテ?」

「よくいるでござんすよ。ピンチになってる女の子を颯爽と助けてカッコいいと惚れて欲しいとか。お陰で女の子だけは助けようとしても間に合うことがほとんどでござんす」

「ああ、聞いたことある! 吊り橋効果ってやつだね!」


 待て……待て待て待て待て!


「ちがあーうっ! 俺の夢をそんな不純な動機だと決めてつけてんじゃねえ!!」

「そうやって意地になってるところが、いかにも怪しいですなあ」

「なに探偵気取ってんだよ、ククル!」

「いや……別に不純でも何でもいいでござんす。少し気になっただけでござんすから。実際あっしは全てのダンジョンを廻れるわけではないからむしろ助かって――――」

「だからモテたいからじゃ――――」



 その時、空気が一変した。


 

 ハヤテがある一方向を勢いよく振り向いた。

 俺も……微かに……気のせいかもしれないが……微かに感じた。


 人の悲鳴を。


 「………………いま――――」


 ハヤテがそう囁いた途端、地を蹴って駆け出した。


 俺も追いかけるように駆け出す。

 理解よりも直感が体を動かしていた。

 ――この先、誰かに危険が迫っている。



「ククル、俺の荷物から衣装取り出せないか?」

「えー、ついていくのもやっとなのにー!」

「だったら俺に捕まれ!」

「はーい!」


 俺はククルの手を引っ張り捕まるよう誘導する。


 そしてククルは俺にしがみつき……ってちょっと待て!


「く、くび! 首しめるな! 今そんなことしてる場合じゃないだろ!」

「うわわ、ごめーん!」


 流石にこういう時は空気読めよ、頼むから!


 俺はククルから差し出された衣装を身に纏い、アストラルに変身する。


 

 そうこうしてる内に俺たちは走り続けている。

 敵が襲ってこないのかと思うかもしれないが、ハヤテが倒して道を作っているようで、白い粒子が死の残香のように虚空に漂っている。


 ……ドタバタやりながらも、俺たちは全速力で進んでいるはずなのだが。


 ――――なんで敵を倒し続けてるハヤテに追い付けないんだ?



 息が上がり、心臓が耳元で鼓動を打ち鳴らす。

 走れば走るほど、先を行くハヤテとの距離が広がっていく気がした。

 Aランクと自分の差を、こんな形で痛感するとは思わなかった。運命の女神も俺をあざ笑ってるかもな。

 でも立ち止まるわけにはいかない。

 あの悲鳴の主が、今この瞬間にも命の危険に晒されているかもしれないのだから——。

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