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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第16話

 俺は全速力で猫のスピードに必死についていき、壁に追い詰め逃げ場を無くすことで捕まえていく。


 …………といっても二体が限度だったわ。



 俺の両手にそれぞれ、大きな瞳を持つネコのぬいぐるみが捕まっていた。


 縫い目から少し綿が出ていて、それでも不思議と生きているように動く姿はどこか愛くるしい。

 

 片方は白地に黒の斑点、もう片方は茶色の体毛を持ち、二体とも人形のような小さな手足でもがきながら「ニャー! ニャー!」と高い声で鳴いている。


 

 ……こいつ、Fランクモンスター、ラグドールじゃねえか。


 見た目通り、魔法がかかったネコのぬいぐるみだ。


 ちゃんと自我も持っていて、その愛らしい姿から探索者だけじゃなく女性を中心に滅茶苦茶人気がある。



 可愛すぎるがゆえに、ラグドールだけは攻撃するなとか訳の分からない抗議が来るとか何とか。

 ある意味差別じゃねえか、それ……。

 


 閑話休題。


 

 ラグドールを抱えたまま巨大キョンシーの元に戻ると、ハヤテが既に四体も捕まえて待っていた。そんな器用にどうやって一人で四体も?


「お待たせ~」ククルも一体抱えて戻ってきた。


 計七体か。全部は捕まえられなかったが、ソロじゃ絶対無理だった。七体も集まるとニャーニャーがうるさすぎて頭痛がする。


「大体予想はつくが、確認させてくれ」俺はハヤテに説明を求めた。こいつらが本体なんだろう。

 

「お前さんの予想通りでござんすよ。5層ボスの正体はこの子たちでござんす」

 

「やっぱりかあああっ!!」


 

 つまり子供がいたずらで怖いお化けを演じてるのと一緒じゃねえかあっ!!


 最初見て勝てるかどうか不安になった俺が馬鹿みたいじゃないか!


 

 俺は八つ当たりに近い形で片方のラグドールの頭をどついた。



 

 ラグドールは白い粒子となって消えた。


 


「ああ――っ!! 可愛いネコちゃんが!!」

「そりゃあモンスターでござんすから……」

 

 ハヤテも同様にラグドールの頭を小突く。そしてラグドールは粒子となって消えていく。


「倒さなきゃだめ?」


 ククルは倒すのにかなり抵抗感があるようだ。


 まあ、気持ちは分かるが……可愛くてもモンスターであり、五層ボスなのだ。


 先ほどの巨大キョンシーを倒してもドロップは何も確認出来なかった。

 ということは、このラグドールを倒さないと討伐扱いにならないということだ。


「気持ちは分かりますよ。でも倒さないと五層ボス討伐とはならない。愛らしい外見でもモンスターはモンスターでござんす」


 ククルは手に持つラグドールを見つめ、その大きな瞳と出会った。

 ラグドールは「ニャ?」と首を傾げ、まるで命乞いをするかのようだ。

 でも――。


「……うん、分かった。ダンジョン探索を手伝うって決めたから。これも仕事だよね」


 そう言ってククルはラグドールの頭を小突いた。指先に伝わる柔らかさで、一瞬だけ胸に痛みを走らせるように見えた。


 物分かり良くて助かったよ。


 説得しても駄々こねる探索者は意外と多いんだよなあ、これ……。



 ラグドールはFランクモンスターなのだが、巨大キョンシーから出てきたラグドールのドロップはかなり美味しかった。


 ドロップした魔石や素材は換金して10万ほどか。ハヤテと分割して5万。


 命がけの探索してこの報酬は安いのではと思うかもしれないが、それでもDランクとしては破格の報酬だ。

 

 これを毎日毎回討伐すれば単純計算で月100万、年収1000万以上。……まあ現実は税金で大分とられるのだが、年収1000万クラスともなればBクラス以上の収入なのだ。



 ……でもソロで討伐する場合、結構疲れるかな。滅茶苦茶しぶといし。ハヤテと一緒でなければここで撤退してたな。



 5層ボス討伐後は6層入口で少し休息をとった。


 ボス部屋で休息は出来ない。また一定時間後に再出現するし、ボスの報酬を独占していると他の探索者からは嫌悪の目で見られるからだ。


 6層入口では、どこからともなく冷たい風が吹きつけていた。今までとは明らかに異なる空気が漂ってくる。


「お前さん学生でござんすよね? 時間は大丈夫で?」


 探索を始めて大分時間が経ったためか、ハヤテをこちらを気遣って聞いてくる。

 

 ……俺が学生なのはバレバレか。ガキに見えやすいのかな俺って……。

 

 対するハヤテは……三度笠で顔半分くらい見えないが、雰囲気はかなり大人びている。20代後半から30代あたりかなと感じる。

 

「一人暮らしだから最悪夜までかかっても大丈夫だよ」


 俺に家族はいない。

 母親は物心ついた頃には既にいなくて、父は数年前に亡くなった。

 父は……あまり俺に関心をもたなかった。仕事一辺倒で、俺が帰宅したらコンビニ飯や出前などのありあわせがテーブルに既に並べられてることが殆どだった。


 俺を気にかけてくれる親戚はいるが、今は離れて暮らしている。

 心配をかけないためにも、探索者として一人前になる必要があるんだ。


 

「それでも夜遅くに未成年が一人でいるのは印象良くないでござんすよ」

「今何時なのー?」

「11時か。帰りも考えると夕方には間に合うか?」


 そこでハヤテは手を顎に当てて考える仕草をした。


 ゲームみたいに帰りはワープして戻れるとか、そんな都合のいいものは現実には存在しない。


 探索する場合は帰りも想定しなくてはならない。目標まで探索と討伐成功した後、帰りでやられるケースだってあるのだ。

 


 しばらく俺たちの間で沈黙が続いた。

 

「分かりました。急ぎ足で行きましょう。敵の数が多ければあっしも間引きするでござんすよ」

「そんな時間かかるのか?」

「……運が悪ければ」

「アスちゃん運が悪いんだ?」

「あー……宝くじで当たった試しないな」


 ちなみにモンスターから直接レアドロップが出たこともない。宝くじ並の確立だしな……。

 

 ――――と、話していく間に疲労はある程度回復したようだ。


 俺たちは探索を再開することにした。

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― 新着の感想 ―
上目遣いで首をかしげる瞳ウルウルのラグドールを私は攻撃できない自信がある
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