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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第15話

 5層のボス部屋へ、寄り道をせず一直線に俺たちは進んでいた。


 大きな祭祀広場が広がり、周囲には様々な神仏を祀る小さな祠が配置され、それぞれに線香や供物が捧げられている。広場を囲むように朱色の柱が立ち並び、それぞれに金糸で描かれた龍や鳳凰の装飾が施されている。


「そういや、5層ボスってどんなのだ?」

「え? お前さん事前に調べなかったでござんすか?」


 そう、実はハヤテに合流した後の階層はそこまで詳しく調べていない。

 

 分かってるのは巨大な不死系モンスターってだけだ。

 

「いや、いつもは調べるんだが、ハヤテがいるから大丈夫だろ?」

「会ったばかりの人物を信じるのもどうかと思いますが……」


 確かに危険だろう。

 

 普通なら、そう簡単に自分の命を会ったばかりの人に預けるということはしない。


 野良募集のPTでも、互いにいざというときの警戒線を張るのが常識だ。少なくとも、高難易度のダンジョンに挑戦などはしない。

 

 

 ではなぜ、俺はハヤテを簡単に信用したのか。

 

 ……正直言うと自分でも不思議なのだが、多分、人柄が良かったのかもしれない。


 初対面で礼儀正しく接し、決して自分の実力を驕らず、俺の実力高く評価してくれた彼を。


 俺は信頼に値する人間だと、判断した。



 人というのは少しの接触で信じるに値するかどうかを見極める。


 それは友達であろうと、教師であろうと、バイト先の同僚であろうと。経験はないけど恋人であろうとも。

 

 探索者同士、命を預け合う事態になったとき、きっと今までのそういう経験が生かされる時かもしれない。



 見誤れば……それまでだ。

 

 

「ククルも大丈夫だと思ったよー。人助けする人に悪い人はいないじゃん?」


 ククルも同様の意思を示す。

 こいつの場合は多分俺とは違う考えだろうが。


 ていうかその考えは危ういぞククル。

 

「純粋でござんすな。だが人助けをする悪人も実在はしますよ。信頼を得るのには有効な手段でござんすから」

「でもお前は違うだろ?」


 そう返すと、ハヤテは嬉しさと戸惑いを混ぜたような、そんな微笑みを浮かべた。

 

「……その信頼には応えましょう。5層ボスはDランクの中では弱い。あっしの手助けはいらないと思いますよ。ただ――」

「ただ?」

「……強いていうなら、倒した後が問題でござんすな。その時はあっしも手伝いましょう」

「「?」」


 倒した後が問題?


 自爆でもすんのか? 思い当たるのはそれくらいしかないが……。



 広場の奥には、異彩を放つ巨大な朱色の門が鎮座している。門の両脇には人の背丈を優に超える石獅子像が配置され、まるで内部を守護するかのように不気味な表情で睨みを利かせていた。


 その門をくぐり、辿り着いた5層ボス。


 

 でかい。


 めちゃくちゃでかい。


 多分、俺の5倍以上はある、キョンシーだ。


 巨大キョンシーは一歩踏み出すごとに床が震える。

 

「これ、ほんとに弱いの……?」

 喉の奥が乾くのを感じながら尋ねた。


「おっきいね〜〜!」

「大丈夫でござんすよ。見た目だけでござんすから」


 本当にお前を信じて良かったのか、ちょっと自信なくなってきたぞ、おい……。

 


 だが、やっぱ帰るなんて考えは端からない。こうなったらやってやるさ。


 そう気合を入れて、スキルブックを取り出しボスの元へ飛び込んだ。




 まず結論からいおう。


 火力は意外とない。まともに受けても全く支障がない程の傷だ。


 だが……しぶとい!! HP絶対ばか高いだろこれ!


「阿須那、まだ先がありますから魔力は温存した方が――」

「分かってはいるがしぶとすぎだろ! 全然倒れる気配がねえ!!」

「フレー、フレー! ア・ス・ちゃ――ん!!」

「お前はなんかねえのかよっ!!」

「うーん……ないかも。てへっ」

「……給料30%カット」

「そんなあ――――っ!!」

「え? お金払ってたのでござんすか?」

「家と飯の弁償代払ってもらうために、今日給150円」

「あ、前より上がってた」

「何故最低賃――――」

「それ以上言うな。幽霊だから法律なんて適用させない」



 ――――などとのんきに会話できるほどに戦闘自体は余裕あるのだ。


 でも時間がかかり過ぎる。恐らくまだまだかかる。


 …………仕方ない。



 俺は光魔法【セイクリッド・ブレードライザー】を発動する。


 要は光の剣だ。本当は接近戦は不得意だが、この場合はこれしかない。


 ……魔力温存しながら戦える方法模索すべきだなあ。魔力回復するスキルとかないもんかな……。


 そんなことを考えながら、俺は光の剣を持ち巨大キョンシーに絶え間なく連撃する。




「これで……どうだああっ!!」


 ついに――【セイクリッド・ブレードライザー】を振り下ろした瞬間――。


 手応えは確かにあった。巨大キョンシーが倒れる音は小さな地震のようだった。


「はあ……やっと終わ――――」

 やっと一息つける……その時だった。


 

「ニャ――――! ニャニャニャ――――!!」


 いきなり猫の鳴き声が辺りに響き渡った。



 

「……え?」

「出てきたでござんすよ!!」


 ハヤテは予測していたかのように、ボスの元へ駆け出す。


 


 倒れていた巨大キョンシーから…………10体ほどの小さなネコのぬいぐるみが飛び出してきて、二足歩行でバラバラに逃げ出したのだ。



「な、な、なんだこれ!?」

「きゃー! かっわいい~~!!」

「話は後で説明しますから、一体でも捕まえるでござんすよ!」

「わ、わかった!」

「ククルもつかまえる~!」


 俺は考えるよりも先に逃げ出したネコのぬいぐるみを必死に追いかけるのであった――――。


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