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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第二部最終章「翠影の終焉 ―血脈と月夜に響く革命の調べ―」
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第147話

【第一幕:桜属性の真価と新たな決断】


 モンスターの群れがハヤテに襲いかかろうとした——その瞬間。


 地面が、光った。


「何だ?」

 

 俺の驚きをよそに、ハヤテがいつの間にか地面に突き刺していた刀から、淡い桜色の光が放射され始める。

 まるで春の訪れを告げる桜のつぼみが、一斉に花開こうとするかのような——


「【浄土陣・(じょうどじん・)千本桜散華(せんぼんざくらさんげ)】……」


 ハヤテの呟きと共に、地中から無数の錐状水晶が一気に噴出した!


 俺は息を呑む。

 美しい桜色の水晶が竹林全体を覆い尽くし、モンスターたちを次々と串刺しにしていく。

 それは圧倒的な殲滅力でありながら、どこまでも美しく、どこまでも神々しい光景だった。


「フィールド展開型範囲殲滅技でござんす」


 血を拭いながら立ち上がるハヤテ。

 その姿は疲労に満ちているが、瞳に宿る意志は揺るがない。


「桜属性の融合魔法……これがあっしの真の力の一端でござんすよ」


 桜属性——俺は戦慄した。

 初めて聞く属性名。実際に目にするのも初めてだ。

 水晶に串刺しにされたモンスターたちが、桜の花びらのように美しく散っていく。

 まさに死と美が共存する、「浄土」の名にふさわしい奇跡。


「すげぇ……ハヤテ、お前って本当に——」


 俺の言葉が途切れた瞬間、空が暗転した。


 見上げると、夕陽を覆い隠すほどの黒い影が空を埋め尽くしている。

 紙のような薄い体を持つ、無数の折り鶴の大群。


禍折鶴まがおりづる……」


 ハヤテが刀を構え直す。

 先ほどの大技で相当な体力を消耗したのか、その動きには明らかな疲労の色が滲んでいた。


「第四波の始まりでござんすな」




 その時、ククルがゴル〇13アイマスクを外しながら俺に駆け寄ってきた。

 その表情には、これまで見たことがないほどの真剣さが宿っている。


「アスちゃん、大変!」


「どうした?」


「ダンジョンの奥から、すごく嫌な波動が出てる。きっと最終ボスが出てくる前に、何かが起こるよ」



 俺は通信機器で林一等陸佐に連絡を取った。


「こちらアストラル。ダンジョン内部に異常が発生している模様。調査が必要だ」


『了解。だが、ダンジョン内は黒いエネルギーが充満していて、人間では生存不可能だ』


 その言葉に、俺は拳を握りしめた。

 人間では入れない——だが、ククルなら——




「……ククル」


 俺は振り返った。彼女の瞳を見つめながら、重い口調で言った。


「お前にしか頼めない。でも——」


 ククルの表情が引き締まった。

 いつもの天真爛漫な笑顔はもうない。


「私が行かなきゃ、でしょ?」


 彼女の声にも、覚悟が滲んでいた。


「私なら、あの中に入れる。きっと奥に何かの装置があるはず」


 俺は迷った。

 ククルを一人でダンジョンの奥に送るなんて——死体恐怖症の彼女にとって、どれほど恐ろしい体験になるか。


「でも、お前は——」


「死体が怖いのは確かよ」


 ククルが静かに言った。

 その透明な瞳に、今まで見たことがない強さが宿っている。


「でも、このままじゃ阿須那も、みんなも危険でしょ?」


 彼女は小さく震えながらも、まっすぐに俺を見つめた。


「絶対に無理はしない。でも——私にしかできないことがあるなら、やりたい」


 その時、俺はククルの本当の強さを理解した。

 彼女は確かに恐怖症を抱えている。

 でも、大切な人を守るためなら、その恐怖さえも乗り越えられる——そんな勇気を持っているのだ。


 俺は深く息を吸った。


「わかった。だが、絶対に無理をするな。危険だと思ったらすぐに戻ってこい」


「うん! 約束する!」


 ククルがダンジョンの入口に向かって飛んでいく。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は祈るような気持ちだった。


 頼む、ククル。無事に帰ってきてくれ——




 ——第四波:空を覆う黒き千羽鶴——




【第二幕:レオンの圧倒的殲滅作戦】


 禍折鶴の大群が空から舞い降りてくる。


 その数は万を超えるだろう。一体一体は小さくとも、Aランクモンスターとしての恐るべき破壊力を持つ——


「うわあああ!」

「あの鶴、建物を切り裂いてる!」

「逃げろ! 屋根が崩れる!」


 ダンジョン部の生徒たちが慌てふためく中、周囲の建物の屋根瓦や看板が禍折鶴の翼によって次々と切り裂かれていく。

 まさに空飛ぶカミソリの大群だ。


 俺は【神々(フラッシュ)の光眼(ディバイナー)】で牽制しながら叫んだ。


「みんな、地下に避難しろ! 建物の中では天井が危険だ!」


 しかし、敵の数が圧倒的すぎる。俺の光の魔法では全てを防ぎきれない——




 その時、遠くから爆音と共に熱波が襲来した。


「うおおおおお! 燃えてるぜえええ!」


 現れたのは全身炎に包まれたレオン・クロスだった。

 しかし、その表情は恍惚として——


「これは新技『バーニング・カオス』だ! 体温を限界まで上げて——」


 特殊な傘を振り回すレオン。その威力は圧倒的だった。


 傘から放たれる炎の竜巻が禍折鶴の大群を一気に飲み込んでいく。

 数千羽の禍折鶴が瞬く間に燃え上がり、美しい炎の花火のように散っていく。


「すげぇ……あいつ、たった一人で——」


 俺は息を呑んだ。

 レオンの攻撃によって、空を覆い尽くしていた禍折鶴の8割以上が一瞬で殲滅されている。

 集合体で本領を発揮するはずの禍折鶴の戦術を、たった一撃で無力化したのだ。


「さすがS級……」



 だが——


「レオン! 服が燃えてる!」


 エリカの絶叫。



 次の瞬間、レオンのスーツが完全に燃え尽きた。


「あ……」



 全裸になったレオンが、突然我に返ったような表情を浮かべる。


「おい、待てよ、これは——」


 バシン!


 エリカの鉄拳がレオンの頬を直撃。

 レオンの体が弾丸のように空を飛び、遠くの建物に激突する。


「変態! 公然わいせつ! 警察! 警察を呼んで!」



 エリカの怒声に応えるように、どこからともなく警察官たちが——


「はい、公然わいせつの現行犯ですね」

「ちょっと待て! これには事情が——」

「署までご同行願います」


 手錠をかけられながら連行されていくレオン。

 その光景があまりにもシュールで、俺は一瞬戦闘を忘れそうになった。




 そして俺は、思わずハヤテに向かって呟いた。


「お前……前にエリカとレオンは仲良さそうと言ってなかったか?」

「すごく仲が良いでござんすよ」


 ハヤテが飄々と答える。


「どこが!?」


 俺の絶叫が京都の空に響いた。




【第三幕:残敵との一騎打ち】


 だが、レオンの圧倒的な攻撃でも全ての禍折鶴を殲滅したわけではない。生き残った数十羽が俺たちに向かって急降下してくる。


「まだいるか!」


 俺は【神々の光眼】を構えた。しかし、敵は予想以上に素早い。光の軌道を読んで回避しながら攻撃してくる。


「くそ!」


 禍折鶴が俺の右肩をかすめて飛んでいく。紙のような外見でありながら、その切れ味は刃物並みだ。マントが破れ、僅かに血が滲む。


 その時、一羽の禍折鶴が俺の頭上から急降下してきた。


「危ない!」


 咄嗟に【闇光檻デュアルバインドケージ】を展開。

 光と闇の螺旋を描く六角形の檻が禍折鶴を捉える。


「今だ! 【漆黒の(アビス・ファイナル)終審(ヴァーディクト)】!」


 闇魔法の弾丸が檻の中の禍折鶴を直撃。

 紙で作られたような体が黒い光に包まれ、パリパリと音を立てて崩壊していく。


 禍折鶴が完全に消滅すると同時に、淡い光の粒子が俺のスキルブックに吸い込まれていった。


「やった……スキルカード、ゲットだ」


 後でゆっくり確認しよう。今は他の敵への対処が先だ。




【第四幕:部長の真意と煩悩】


 レオンの活躍で残った禍折鶴も片付いたところで、ダンジョン部の部長が俺の前に歩み寄ってきた。

 彼の表情には、先ほどまでの興奮はなく、深い後悔と決意が刻まれている。


「アストラル……いや、君に謝らなければならない」


 部長は深々と頭を下げた。



「俺たちダンジョン部の真意を説明させてくれ」


 俺は仮面の下で眉をひそめた。

 この期に及んで何を——


「俺が『やれるならやってみろ』と言ったのは……」


 部長の声が震えている。

 感情を必死に抑えているのが分かった。


「君たちに解放を願っていたからだ。俺たちみたいな無能な部員を守らなくていい、自由になれって……そういう意味だったんだ」


 俺は意外な言葉に驚いた。

 てっきり挑発だと思っていたが——


「『ヒーローなら全てを救って見せろ』も、自分自身に言い聞かせた言葉だった」


 部長は拳を握りしめる。

 その手が小刻みに震めているのを俺は見逃さなかった。


「俺も不可能を可能にするつもりで、部員たちを守りたかった。でも……俺は弱すぎた。君たちみたいな本物のヒーローじゃなかった」


 その瞬間、俺は部長の本当の気持ちを理解した。

 彼もまた、自分なりに仲間を守ろうとしていたのだ。ただ、その方法が不器用だっただけで——


「だから……すまなかった!」

 部長は叫ぶように謝罪すると、深く頭を下げた。



「……そういえば」

 

 俺はふと疑問に思ったことを口にした。


「お前が探索者になりたい本当の理由って何だ? ダンジョン部を作るほどなんだから、何か特別な動機があるんだろ?」


 部長の顔が見る見る赤くなった。


「そ、それは……」

 急に声が小さくなる。



「サ……サキュバスに襲われたい……」



 俺は盛大にずっこけた。


「それかよ!!」


「うわあああ! こんな真剣な場面で煩悩暴露するなんて、死ぬより恥ずかしい!!」


 部長は顔を両手で覆いながら全速力で走り去っていく。

 その後ろ姿を見送りながら、俺は苦笑いを浮かべた。


「……案外、悪い奴じゃないのかもしれないな」


 煩悩に正直すぎる部分はあるが、仲間想いの気持ちは本物だった。

 それに、これだけ恥ずかしがるということは、まだ救いようがあるということだろう。

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