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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第三章 「中華街ダンジョン —ランク外の挑戦と秘められた力—」
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第14話

「おーい、ククル帰ったぞー」


 俺はそう声をかけながら家のドアを開ける。

 いつもは家に一人だったけど、幽霊でも誰かいるってのは大分違うな……。心の中で、無意識に期待していた「おかえり」の声。

 

 玄関から家の中へ足を踏み入れると、リビングからテレビの音が聞こえてくる。だが次の瞬間、目に飛び込んできた光景に俺の心の温かさは粉々に打ち砕かれた。

 そこにいたのは――。


「あ、おかえりアスちゃーん」


 冷房ガンガンかけて、ソファで思いっきり寛ぎながらサングラスをかけてジュースを飲みテレビを見ているククルの姿だった。


 一瞬の沈黙の後、俺の怒りが爆発した。

「なにやってんだお前はあああ――っ!!」

「なにって留守番だよ? アスちゃんのいわれた通りにやってるよ?」

「あああ――っ!! 冷房設定18℃じゃねえかっ! 電気代跳ね上がるだろうが!!」

「え、幽霊は冷たいところが好きなんだよ? 知らなかったの?」

「せめて25℃で我慢しろ!」

「……ねえ、テレビでさ、姑と嫁がぶち切れてんだけどさ……これ結婚前に話し合いの場を設けなかった旦那さん悪いよね?」

「話を聞けええええ!!」

 

 何くそ真面目に昼ドラ見てんだお前は! 15歳だろうが!

 ていうか……思いっきり寛ぎながら昼ドラ見ている幽霊って一体……。


「はあ……日課のダンジョン行くぞ。なるべく俺の金で生活したいしな」

「えー、ここからいいところなのにー……それにダンジョンって雰囲気もモンスターも怖いからちょっと~……」

「給料なしにされたいか?」

「はーい! ククルいっきまーす!!」

 


 俺とククルは平日はこんな感じでダンジョン探索をこなしていくのだった……。



 ――数日後、月曜日。

 この日は振替休日で人でいっぱいだった。

 俺とククルは早朝から電車に揺られている。


「ふわあ~~あ……」

「寝るな……と言いたいが、まだ一時間近くかかるから仮眠ならいいぞ」

「どこいくのアスちゃ――ん……」

「……横浜。そこである人と待ち合わせしてるから一緒に最下層まで行くぞ」

「ふみゅう……どこでだれとー?」


「中華街ダンジョンでハヤテと」



 赤い提灯と芳香な中華料理の香りが漂う賑やかな通りを抜け、観光客の渋滞を何とか通り抜けると、中華街の喧騒から少し離れた場所にダンジョンの入口があった。


 ダンジョンの入口は観光客で賑わう中華街の奥まった一角にあった。

 朱色の大きな門をくぐると、探索者専用の広場が現れる。

 赤と金の装飾が施された中華風の二階建て建物が半円を描くように立ち並び、それぞれに「探索者休憩所」「緊急治療院」「装備修理工房」「素材買取商店」などの看板が掲げられている。

 広場の中央には龍の彫刻が施された噴水があり、その周りにはベンチが配置され、疲れた探索者たちが情報交換に興じていた。入口前の掲示板には最新の注意事項や討伐依頼が貼られ、初探索者向けのオリエンテーションブースも常設されている。

 香ばしい中華料理の匂いと、鍛冶屋から聞こえる金属音が入り混じり、活気に満ちた雰囲気を醸し出していた。


「あれー? ハヤテいないよー?」

「人混み避けたいから5層入り口で待ち合わせだと」

「えー? じゃあそこまでアスちゃんだけ?」

「そうなるが問題はない。お前がいるしな」

「え〜? 頼りにされてる〜? えへへ〜」


 というか、ククルの能力がマジで必須なんだわここ……。

 そしてそれが、Dランク探索者が来られない原因の一つなのだ。



 さて、ダンジョンに入ろう。

 1層は単なる洞窟でここはモンスターは出ないから、パーティー募集がよくされている。

 2層は石灰岩の間に赤煉瓦や青石の石畳が現れ始める。3層は中華風の村の景色が広がり、土壁に瓦屋根の質素な家々が立ち並び、軒先には赤い提灯が揺れている。

 2層は提灯がモンスターではっきりいって弱い。3層は空き家に宝箱を守るように陣取ってる幽霊が中心だ。

 

「幽霊が同じアンデットを倒すってなんか複雑な気分」

「安心しろ。漫画やゲームだとよくあることだ」

「それもそっか。でもアンデットってやだな~怖いしグロいし」


 幽霊のお前が言う言葉かそれ。

 

 さて、問題は4層からだ。

 完全に中華風の商店街といった感じだ。赤い柱と黒い瓦屋根の二階建ての店が立ち並び、店先には布地や陶器、果物や漢方薬の乾燥品などが並べられている。これ持って帰ろうとするとモンスターに追っかけられるという情報があるので盗らないけどな……。

 

「……? 敵もなにもいないね」

「いるんだよ」

「?」

「ククル、あれ出せ」

「わかった、お金だね!」

「そうそう、それで敵をおびき寄せて……てなんでお前と漫才みたいなことしなきゃいけないんだよ!! 人魂だよ、ひ・と・だ・ま!」

「アスちゃんノリが良くなってきたね~」

「少しも嬉しくねえ!」


 なんで毎度毎度漫才やってんだよ、俺たち……。


 「あか~いひとだま~~おいで~~」

 ククルは赤い人魂を周りに呼び寄せる。



 俺のすぐ隣に影踏師かげふみしはいた。青白い肌と道士の装束を身にまとった跳躍する死体。要はキョンシーだ。


「隣かよっ!!」

 反射的に影踏師に光の弓矢を連射する。連射されたキョンシーは白い光の粒子となってボロボロに崩れていく。

 

「あなたの隣に誰かいるってそんな番組あったようななかったような」

「一部の人にしか分からないネタ言うんじゃねえ! とにかくお前が必要な理由これなんだよ!!」

「このキョンシーだっけ? なんで見えないの?」

「やっと話進んだ……こいつは影踏師といってなんか術使ってるらしい。姿隠して魔法使うゾンビだと思えばいいぞ」

「なるほど、ククルの人魂使えば隠れてる敵が見えるからなんだね!」

「そういうわけだからちゃっちゃと働いてくれ」

「あいあいさー!」

 

 姿さえ見えればD級の強さだからなこいつら。

 見えないからC級並の難易度に跳ね上がっているという……。


 殉職者減らしたいなら、こういうところ修正すべきだと思うぞ、ダンジョン省。俺が愚痴ってもしょうがないけどさ。

 魔法使う敵だけあって、ドロップも魔法関連なのが有難い。

 当然スキルカードも……とスキルブックをパラパラめくると。

 

 【不死種族耐性+30%】。

 

 ……いや、確かにここでは使えるんだが……。魔法期待してた俺が馬鹿だったのか。


「ねえアスちゃん、ククルって他に何ができるんだろう」

「は? いきなりどうした?」

「だって、赤い人魂とか召喚できるってことは、もしかして青いのとか、違う色のも呼べるかな~って思って」


 ククルの言葉に、俺は少し考え込んだ。確かに不思議の多い幽霊だ。まだ分かっていないことも多いだろう。


「青い人魂か……それは何ができるんだ?」

「う~ん、分からない! でも、たま~に手がこんな風に光るの」


 ククルが手を見せると、確かに一瞬だけ青白い光が指先に宿ったように見えた。だがすぐに消えてしまう。


「不思議だよね~。何かを思い出しそうで思い出せないの」

「そのうち分かるかもな」


 俺はそう言って、先を急いだ。ククルの能力はまだ謎が多い。これからどんな力を見せてくれるのか、少し楽しみでもあった。

 


 ――5層入口。



「意外と早かったでござんすな」

 入り口隣の壁に、三度笠に道中合羽の男、ハヤテはもたれかかっていた。

 

「ククルがいたからな。……お前はどのくらい待ってたんだ?」

「10分前程でござんすな」


 ……10分前なら入り口からここまですれ違っても可笑しくなかったような……気にしたら負けなのか?

 

「……ハヤテ、本当にいけるんだな?」

「あっしはそう思ってますが……お前さんは買いかぶりだと思うでござんすか?」

「いや、お前がそう信じてくれるなら、精一杯応えるよ。だけど……なんで俺なんかに協力を持ちかけたんだ?」


 三度笠の陰からハヤテはじっと俺を見つめた。


「あっしは多くのダンジョンで命の危機に瀕している探索者を助けてきましたが、一人では限界があるでござんす。日本全国、ましてや世界中のダンジョンを巡ることなど出来ません」

「それは分かるけど、もっと強い人を誘えばいいじゃないか」

「強いだけの探索者なら大勢いますよ。でも阿須那のように誰かを助けたいという気持ちを持ち、しかもその特殊なスキルブックを持つ者はいない」


 ハヤテは真剣な眼差しで続けた。


「あのスキルブックの真価は、まだ阿須那自身も理解していないでしょう。だがその可能性は無限大でござんす。そしてなにより……あなたの中に眠る才能、成長の速さを見込んでのことでござんす」

「俺に……才能が?」

「あっしの勘は滅多に外れませんよ」


 そう言ってハヤテは静かに微笑んだ。


「? ねえねえアスちゃん。最下層ってそんなに強いところなの?」

 ククルが首を傾げながら尋ねた。


「ああ……最下層ボスはBランクだ」

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