表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/153

第121話

 11月22日。京都のBランクスタンピード発生まであと8日。


 SL列車の車窓から霧のような風景が流れる中、俺は膝の上に広げたスキルブックに向き合っていた。

 革張りの席が体重を受け止め、心地よい揺れが続く。

 古めかしい客車の内装が、どこか懐かしさを感じさせる。


「SL電車でのワープ移動、気持ちいいよね~」


 天井近くでふわりと浮かぶククルが、半透明の体で宙を漂いながら言った。

 車窓の霧が彼女の姿を通り抜け、幻想的な姿に見える。

 一般の乗客には見えない彼女だが、俺には透き通った少女の姿がはっきりと見えていた。


「ああ。でも今は集中させてくれ」


 そのとき、列車の煙突から黒くて靄のような影がもやもやと漂ってきた。


「あ、アスちゃん! くろくてもやもや~としたのが出てきたらどうするの?」


 ククルが慌てたように指さす。


蒸気玉虫ジョウキタマムシじゃねえか。それは流石に言ってくれ」


 俺は苦笑いしながら立ち上がった。

 SL列車特有の弱いモンスターだが、放置すると他の乗客に迷惑をかける。


「普通の電車使った方が良かったんじゃないの?」


 ククルが不安そうに呟く。


「それだと半額で済むんだが、片道3時間はかかるからな……学校もあるし、泊り前提はキツイ」


 俺は軽く【神々の光眼】を放ち、蒸気玉虫を散らした。

 周りの乗客は何事もなかったかのように過ごしている。


「まあ、この程度なら問題ないさ」


 席に戻りながら、俺はスキルブックに向き直った。

 列車が小さくきしむ音を立てる中、俺はスキルブックのページをめくりながら、編成を検討していた。


 手が少し震える——昭和記念公園での体験が脳裏から離れない。

 あのDランクでさえあれほどの脅威だった。

 京都では何が待ち受けているのか。


 手元にある小さな金属板のようなスキルカードを一枚一枚確認する。

 各カードには複雑な紋様と文字が刻まれ、微かに光を放っている。


 スキルブックには10枚までしかカードをセットできない。

 この制限があるからこそ、どのカードを選ぶかが重要な戦略となる。

 特に今回は——Bランクスタンピードという未知の脅威に立ち向かうための最適な組み合わせを見つけなければならない。


「前回のスタンピードで手に入れたカードもいっぱいあるよね!」


 ククルが俺の肩越しに覗き込み、興味津々で手元のカードを眺めていた。


「ああ。昭和記念公園でのDランクスタンピードからは、全部で9枚の新しいカードを手に入れた」


 俺はそれらを一列に並べて確認した。


 まず最初は「昭和城壁守」から得た【物理耐性+25%】のカード。

 受ける物理ダメージを25%軽減する。

 触れると微かに冷たく、カードの表面に刻まれた模様が石垣のように見える。


 次に「桜花暴風」から得た【回避率+20%】。

 攻撃を回避する確率が20%上昇する。

 このカードは桜の花びらのような模様が縁取られており、触ると不思議と軽さを感じる。


 「花火怪鳥」からは【クリティカル範囲拡大】を入手した。

 クリティカルヒットの発生範囲が拡大し、発生率が15%上昇する。

 カードの表面が時折花火のように輝き、手に持つとわくわくするような感覚が伝わってくる。


 「水鏡映士」の【分身幻術】は、カードの表面に自分の顔が鏡のように映り込む不思議なカードだ。

 これは1体の幻影を召喚し、敵の注意を分散させる。


 「緑風守人」からの【自然回復+10%】は、触れると微かに森の香りがするような錯覚を覚える。

 HP自動回復量が10%上昇するカードだ。


 「鉄骨蜘蛛」からの【黒糸束縛】は、カードの端が糸のように細く伸びているように見える錯視効果がある。

 一度だけ敵を30秒間束縛状態にするらしい。


 「記憶彷徨者」の【魔力干渉+30%】は、表面に古代文字のような模様が浮き出ており、そのパターンは見る角度によって変化する。

 魔法攻撃のMP消費を30%軽減してくれる。


 「石の守護獣」からの【重力場展開】は、持つだけで妙に重く感じる。

 10分間のクールタイムが必要だが、範囲内の敵の移動速度と攻撃速度を3秒間30%低下させる強力なやつだ。


 そして最後に、「ケルトの幽霊王」から入手した【四大元素・全体強化】。

 カードの表面には緑色の幽霊のような模様が刻まれている。

 自分と味方全体に5分間「四大元素の加護」を付与する。

 火:攻撃力+30%、水:HP継続回復、風:移動速度+50%、土:防御力+30%。

 クールタイムは10分とちょっと長いが、これは間違いなく強力だ。


「アスちゃん、どれを選ぶの?」


 ククルの声が列車の走行音に重なる。

 俺は以前から持っていたカードも含めて、慎重に選択肢を検討した。


「まずは【魔法反射80%】は絶対に外せないな」


 俺の指が青白く光るカードを選び出した。

 これは敵の魔法攻撃を跳ね返せる、防御の要となるカードだ。


「【闇属性で攻撃時、DEF&MDEF50%無視】も必須だろうな」


 黒い霧のような模様が刻まれたカードを次に選んだ。

 俺の得意とする闇属性の力を最大限に引き出す攻撃カードだ。


「【クリティカル発生率+20%、クリティカルダメージ+25%】もあった方がいいよね!」


 ククルが星のような輝きを帯びたカードを指さした。


「確かにな。火力アップの核となるから、これも外せない」


 カードを一枚ずつ選びながら、俺はそれぞれの組み合わせの相性を考えた。


「他には何にする?」


 ククルが首を傾げながら尋ねた。


「【スキル『スケープゴート』使用可】……これは戦術的に価値がある」


 敵のターゲットを変更できるこのカードは、俺一人では戦えない状況で非常に役立つはずだ。


「今回のスタンピードでは新しく手に入れた【魔力干渉+30%】も入れよう。MPの消費を30%も減らせるなら、詠唱回数が大幅に増える」


 俺はさらに、以前から持っていた【基本命中率+絶対命中+20%】のカードも選んだ。

 命中率は攻撃の基本だ。これがあれば【闇光檻】のような広範囲魔法も当てやすくなる。


 そして、新しく入手した【四大元素・全体強化】だ。自分と味方の能力を向上させるスキルは、スタンピードのような多数の敵との戦いでは間違いなく強力な味方になる。


「これで7枚揃ったな」


 俺はスキルブックに選んだカードを一枚ずつはめ込んでいった。

 カードがスキルブックの特殊なスロットに収まるたびに、微かな青い光が灯り、カードの効果が俺の体に浸透していくのが感じられる。


「あれ? アスちゃん7枚なの? スキルブックは10枚までセットできるんでしょ?」


 ククルが首を傾げながら俺に疑問を投げかける。


「ああ。次のダンジョンはBランクだからな。そこでも強力なスキルカードが手に入る可能性が高い。それを入れる枠はいくつか開けたいんだ」


「アスちゃん、【光魔法LV+2】は入れないの?」


 ククルが少し不思議そうに尋ねた。


「光強化には使えるんだが、実際はそこまで火力は上昇してないんだ。【闇属性で攻撃時、DEF&MDEF50%無視】の方が圧倒的に強かった」


「じゃあ【不死種族耐性+30%】は?」


「あれは状況が限定的すぎる。京都のスタンピードにそんなモンスターが出てくるとは限らないからな」


 俺はさらに説明を続けた。


「【移動速度+100%】【スキル『ヒーリング』使用可】のカードと【最大MP+100 MP回復量+10%】は優秀だけど、今回は【魔力干渉+30%】だけで、長期戦に対応する方針にした」


「なるほどね~」


 ククルが納得したように頷いた。


「【魔法反射80%】があるから【物理耐性+50%、魔法耐性-50%】も考えたけど、抜け道があると考えると魔法耐性がマイナスになるのは危険が大きすぎる」


 サンクティア・アンデッドの戦いを思い出す。

 相性が良いと思っていた組み合わせが、かえって仇になってしまった。


 スキルブックを閉じると、すべてのカードがしっかりとはまっていた。

 編成が完了したことを示す微かな輝きが、革表紙から漏れている。


「よし、これで準備OK」


 俺はスキルブックをバッグにしまい、窓の外を見た。

 霧の中から徐々に京都の町並みが見え始めている。


「まもなく京都・梅小路京都鉄道博物館に到着します」という車掌のアナウンスが流れた。


「電車まだ時間あるな。ちょっとネット見よう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ