第12話
――第5層の門前。
5人は駆け付けた警官に連行されるという宿命を辿ることになった。
ダンジョンに関わる警官は探索者ランクが高位に位置する者ばかり。抵抗など無意味なのだ。
彼らは…………探索者という名を冠することは二度とかなわないだろう。再会することもほぼない。
「本当に素材いらないの?」
「あっしは見返り目的で助けたのではありません。自己満足でござんすよ。それはあなたのものですから持って行ってください」
「……わかった。私は帰るわ。……正直もうこれ以上いたくない」
「あっしは療養を勧めますよ。しばらくは探索を休業したほうがいい」
「……ええ。本当にありがとう」
詩歌とハヤテはそうやり取りした後、詩歌は肩を落として地上へ向かった。その後姿は、今日の出来事で傷ついた若い魂の重さを物語っていた。
詩歌に対しては……去り際に一瞥を投げかけただけだった。その目には、言葉にならない複雑な感情が宿っていた。
詩歌の姿が闇に溶けるように消えると、ククルが首を傾げた。
「あの人お礼言わなかった」
「仕方がないだろう。彼女の目から見れば俺は何もしてないからな……」
むしろ余計なことをしてくれたと思ってるに違いない。
だがその感情の刃を俺に向けなかったのは……俺の立場上やむを得ぬ行動だったと理解していると……そう信じたい。
暗がりに取り残された俺たちの前で、沈黙が流れた。
…………。
それはかなり前から沸々と煮えたぎっていた。
五人がとんでもない悪人だと気づいた時から、そして――――見過ごした少女の存在を知った時、それは更に突沸した。
それから……少女が俺に何も反応を返さずに立ち去ったことで――――溢れた。
俺はとんがり帽子とマントと仮面を脱ぎ棄て、勢いよく地面に投げ捨てた。
「くそがああああああああっっ!!!」
「えっ!?」
「アスちゃんっ!?」
ハヤテとククルが俺の声に驚愕して振りむく。
この時、アストラルの正体がハヤテにバレているが、俺はそんなことはどうでも良かった!
「確かに助ける奴を選別しないとは言ったよ! だが本当に助けるべき奴を助けないのは可笑しいだろうが! しかも命がけで守りながら助けたのはとんでもねえ奴で犯罪の片棒を担がれるところだった!! こんなの納得いくか! こんなのヒーローとして絶対可笑しいだろうがあっ!!」
覚悟はしていた。
ヒーロー活動といっても世間の風は冷たいだろうということも、恩を仇で返されるということも。
俺の中では想定内だし、受け入れる覚悟はしていたのだ。
だが――――これは違う――――。こんなのはヒーローじゃない。
「アスちゃん――――」
その時。
ふわりと、ククルが俺の体を優しく包み込んだ。
「アスちゃん凄いカッコ良かったよー。モンスターから食べられそうになってる人から必死に守りながら戦う姿本当にヒーローって感じだった。特に棺桶っぽいのに閉じ込めて杭を突き刺すのって必殺技って感じだよね!」
「ククル……」
それでも――俺を認めてくれることの存在が本当に嬉しかった。
「ありがとうな。だけどそれ…………励ましてるつもりだよな?」
「もち!」
ククルは親指を立ててどや顔した。
「感想言ってるだけじゃねえかあっ!」
「えへへ~、それほどでも~」
「微塵も誉めてねえよ!」
こいつぜんっぜん空気読まない!
「あと前々から思ってたが、なんで『アスちゃん』呼びなんだよ!」
「えー、だって阿須那なのかアストラルなのかどっち呼べばいいか分からないしいー、だったら『アスちゃん』て呼べばどっちにも対応出来て問題なし!」
「問題なし! じゃねえよっ!」
はあ……と、俺は膝をついて脱力した。
流されずにスルーしようと思ってたのに、結局流されてるじゃねえか俺ええ……。
「いやあ……お二人とも、仲が良いでござんすなあ」
「良いように見えるのか、これが!?」
もうこれ以上突っ込ませるのやめてくれ! 疲れるから!
「……あっしもアストラルがいなかったら間に合わなかった。そういう意味ではあっしも未熟でござんすよ。探索者が1年に何千人も命の危機に瀕している状況をあっし一人では止められない。だから――」
「一緒に協力しませんか? 『阿須那』」
「「え?」」
ここで…………俺は正体も本名もハヤテにばれてしまったことに気づいたのだった――――。