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中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う  作者: 本尾 美春
第二章 「巾着田ダンジョン ―救うべき者と見捨てられた者―」
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第11話

「くそっ、こうなったら……!」

 リーダーの他に動けていた一人――恐らく蔓の束縛から解放されたもう一人――が現実という檻から逃亡しようと立ち上がる。だが――。


「やめろ、もう諦めろ。どう逆立ちしたって逃げられねえよ」

「だけどこのままじゃサツに――!」

「……あの股旅はAランクだ」

「はあっ!?」

 

 なんでAランクがここにいるんだよ! と男が突っ込むも、リーダーらしき男を含め、誰も口を開くものは一人としていなかった。

 リーダーらしき男が座したまま項垂れる。もう言い逃れも何も出来ないということで観念したのだろう。

 

 俺の中から蠢く怒りは体を貫き震わせていた。

 深淵から湧き上がる黒きマグマのように、沸々とその感情は湧きあがっていた。


「俺は……こんな奴らのために、守りながら戦っていたのか!」

「いや……助けて正解でござんすよ。彼らは生かして裁きを受けるべきだとあっしは思う。ただでさえダンジョンの犯罪率は高い。抑止力を高めるためにも、連行するべきでござんすよ」

「私は納得いかない!」

「今重症の状態で殴れば命に関わりますよ。あなたも犯罪者になりたいでござんすか?」

「うっ……」

 

 俺も……心の最深部では納得せぬ想いが渦巻いている。

 正直に言おう。心は浄化されない。言葉にできない混沌が内側から蝕んでいる。


 俺は救済する魂を選別しない。それこそがヒーローの道であると信じていた……。だが今、その信念が揺らいでいる。選別せず全てを救うことは、時に悪を助けることになる。そして悪を助ければ、本当に救うべき人を見捨てることになる。これが俺の求めていたヒーロー像だったのか? 自分自身に問いかけても、答えは出ない。


 だがハヤテが現れなかったら……俺は犯罪者の手助けをしていたという最悪の運命を辿っていたんじゃないか。

 マンイーターは……真に倒すべき敵だったのか、それともダンジョンの均衡を保つ必要悪だったのか――。

 だからといって意図的にマンイーターに喰らわれるのを黙視するのも……絶対違う。



「ククル……俺は本当にヒーローとして正しき道を歩んでいたのか? マンイーターを滅ぼすことは正解だったのか?」

「うーん……悪人に人権はないとは聞いたことあるけど、食べられるのを見るのもなんかヤだ。だったら助けたほうがヒーローっぽくて良いと思うよ?」

「悪人に人権はないはあながち間違いではないでござんす。ここで死ぬよりも、社会的制裁を受けた方が辛いかもしれませんよ」

「裁判になったらどうなるの?」

「MPK(Monster Player Killer)に該当するから、免許剥奪で懲役刑は確実でござんすな。釈放されても社会の目は許さないでしょうから……」


 ……。

 

 …………。


 ……………………あれ?



「…………ん?」

「…………ほにょ?」

「…………え?」


 俺とククルとハヤテは互いを見合わせた。


「な、なんでござんすか? この幽霊は!?」

「ええええええ!! ククルが見えるの? お話できるの? なんで!?」

「お前見えるのかっ!? 俺以外でいなかったんだぞ!?」


 俺たちは驚愕した。

 ククルが見えるのは俺だけだと本気で思ってたのだ。

 こいつには見えるのか。何故かは分からないが。


「詩歌以外で女の子の声がするから不思議だとは思ってたでござんすが……」

「……? なに驚いてるの? 私以外に女の子の声なんて聞こえないけど」

 

 詩歌は何に反応しているのか理解できないようだ。

 無理もない。ククルの姿は普通の人には見えない。


「……と、とにかく、こいつらを連れて撤退するぞ。流石に地上の光まで戻るのは骨だが……」

「いや、5層までで十分でござんす。あとは通報すれば駆け付けてくれますよ」

「ククル、力仕事は無理なんだよねー……」

「……武器返して。そうすれば敵の殲滅くらいはやるわよ……癪だけど」


 かくして――俺たちは第5層という闇の世界まで舞い戻ることとなった。

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