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五話 【決断と行動】【初陣】

【決断と行動】


 スライムやゴブリンじゃないのかよ!? いきなりドラゴンイベントなんて、どうすればいいんだ?

 とまどいながら、手の中にある皮の鞄に気付き、開けてみた。大きな葉っぱに包まれたビーフジャーキーのようなものと、木の実などが入っていた。


「うまそう!」……じゃねえ、これからどうする? 逃げるか? さっきのドラゴンの咆哮を思い出し、身震いした。


 ふとククルさんの短剣に目を向ける。


「おいおい、一度死んだ人間が何をビビってるんだ? さっきまで『異世界だ! 冒険だ!』とか浮かれてたくせに! ここで逃げたら日本にいた時と変わらないじゃないか」


 ジャーキーを口に放り込み、この街で一番高い塔に向かって走り出した。


『身体能力の向上』ふとルルルの言葉を思い出した。


「街に来る時にも思ったんだが俺、足かなり速いよな 息も切れないし」

本気で走ってみる。


「おお! 自転車より速いんじゃないのか!?」


 あっという間に塔の下に着いた。


 塔の階段を、数段ずつ跳ねるようにして駆け上がる。すぐに最上階へとたどり着いた。

 夕日の眩しさを手で遮りながら見ると、街の外壁からおよそ五キロ先――朽ちかけた遺跡のような構造物がぼんやりと浮かんでいる。視線を下にやると街の門を潜ろうとするククルさんが見えた。


「飛んでいくか」


 魔法を使えば飛べるはずだ――


イメージする。


「空を舞う翼……鳥、いや天使のような羽」


 念じると背中に光の翼が生えてきた、半透明の翼は夕陽を吸い込み黄金色に輝く。

 羽ばたかせてみると、光の羽が舞い散って消えていく。

五十センチほど体が浮いた。


「目標、遺跡。風魔法〈エアリアルライズ〉、発動!」


 羽ばたくたびに輝きを放つ光の翼。足場が遠ざかり、空が近づく。


『小魔法を使用しました。寿命が一日減少しました』


「……これさえなければ完璧なんだけどな」

姿勢を変え、地面と平行に近づける。


「加速!」


 その言葉と同時に、身体が弾かれたように宙を突き抜ける。

置いていかれたのは、意識のほうだった。


「速っ……!」


 風を裂きながら、思考が回転する。


「ククルさんは言ってた。あのドラゴンは休眠中で、時折様子を見に行くと。討伐対象じゃない? いや、人間には手に負えない? それとも、信仰の対象……?」


 わからない。行って、確かめるしかない。


 遺跡が大きくなってくる、逆光が眩しい。

そのとき、ふと頭に浮かんだのは、イカロスの物語。


――落ちたりしないよな、これ。


 ふと下を見ると、ククルさんを追い越していた。



【初陣】


 瓦礫の散らばる遺跡の地面には、白銀の狼の騎士たちが倒れている。わずかに動く者もいたが、剣を杖代わりにして立ち上がろうとする様子は、あまりに頼りなく絶望的だった。


「ククルさんの部隊が……」


 優馬の喉がゴクリと鳴る。

ゲームや映画で見た戦闘とはまるで違う。剣と魔法の世界だというのに、血の赤はどこまでも生々しく、苦しむ呻き声が耳にまとわりつく。

 ドラゴンの姿はなくそこには黒いローブをまとった異形の者たちが、じっと騎士たちを囲むように立っている。その瞳は深紅に輝き、手にした杖には不気味な黒紫の魔力が渦を巻いていた。


「人間ではない……? 不意打ちをくらったのか」


 戦いに巻き込まれる覚悟はしていたつもりだったが、目の前の惨状はそれを遥かに超えていた。

 街の方角に目をやる、ククルさんがもうそこまで来ている。このままでは彼女も罠にかかってしまう。


 やるしかない!


 エアリアルライズの効果が切れそうなので気づかれないように瓦礫の後ろに降りる。

 なんの理由で争いが起きているかはわからないが人間側が一方的にやられている。


 俺は決心する。


 この世界にきて最初に話しかけたくれたククルさん、食料や武器を素性もわからい俺にあたえてくれた。

 

 彼女を守りたい。

 

 異形達は十人前後、仕掛けるなら集団魔法。


 イメージする。


「視界に捉えたモノをロックオンする。銀色の鋭いエネルギーの塊。マイクロミサイルのように多段発射!……こんな感じか」


 優馬は瓦礫から飛び出し白銀の狼の騎士たちが倒れている広場に走る。眼球を素早く動かし異形の者たちに次々とマーキングしていく。


「狙うのは杖と腕」


「無属性魔法〈マジックミサイル〉マルチファイヤ!!」


 優馬の背後から弧を描いて無数のエネルギー弾が様々な軌道を描き異形の腕や杖を次々と破壊していく。


『小魔法を使用しました。寿命が二日減少しました』


 異形の者達は腕が破壊されその場に崩れ落ちる。優馬は次弾に備えて身構えていると――異形たちはヨロヨロと後退し、視界から消えていった。


「とりあえずの脅威は排除したか?」


 緊張が解けると脚が震えてきた。


 優馬は振り返り騎士たちに駆け寄った――



天空の戯言


ルルル「ちょっと良いですか?ゲームマスター」


GM「はい、なんでしょうルルルさん」


ルルル「なにか、ククルさんと私との描写に差がありすぎませんか?」


GM「そうですか?」


ルルル「そうですよ! 私なんて“ピンクのアホ毛”しか描かれてないじゃないですか」


GM「めんどくさいなあ」


 ――補助神ルルルはピンク色の髪をたなびかせながら立っていた。未来的な光沢を持つスーツのような衣装。アンテナのように立った髪が、風に合わせて揺れている。その立ち姿はまるで、ドボボ湿地帯に群生するドチャカブタバナのように優美で、ドクアリドクナシドクハムシモドキのように甘い香りを放っていた――


GM「はい、描きました」


ルルル「……わかってればいいんですよ。わかってれば♪」


GM「……良いんだ」

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